藤川千愛

藤川千愛

【藤川千愛 インタビュー】
生き難い世の中、
せめて歌の世界では好き勝手に

“騙されるなよ”というのは、
自分に向けて言っている

「やっちもねぇ」は人生哲学だけではなくて、“悪い奴の鴨になるな”と注意を促しているのもいいなと思います。でも、一番いいなと思ったのはこういう歌詞を書いているというところで、藤川さん自身もパーフェクトな方ではないことが伝わってくるんですよね。

確かに(笑)。“騙されるなよ”というのは、自分に向けて言っているところもあると思いますね。あと、この曲のDメロは岡山の人以外は、もう何を言っているのか分からないような歌詞になっています(笑)。

“おーあんごー”とか“つれのーていがるじゃーじゃー”というところですね。

はい(笑)。Dメロを訳すと“本当にしょうもない/大バカもんばっかり/みんなで一緒に大声で叫ぼう/そうだそうだ”という意味です。

はっ? ええっと、ええっと…“つれのーて”が“みんなで一緒に”で、“いがる”が“大声で叫ぼう”でしょうか?

そう(笑)。それで、“じゃーじゃー”が“そうだ、そうだ”です(笑)。岡山弁なんですよ。

面白いです(笑)。藤川さんは歌詞に岡山弁を使われることが多いですが、それは自然な感覚なのでしょうか?

自然なことですね。最近はライヴのMCとかも岡山弁でしゃべるようになっているんです。そのほうが本音で話せるというか、標準語で話すと微妙に壁ができてしまうというか、どこかしら本音でしゃべれていない感あるんですよね。

でしたら、今も岡山弁で話していただいても構いませんよ。

いやいやっ! 岡山弁はフランクになりやすいので、インタビューとかは無理です(笑)。でも、歌詞とかMCでは、これからも岡山弁は出していきたいと思っています。

より藤川さんの人柄に触れられるという意味で、とてもいいと思います。そして、「やっちもねぇ」の歌は本当に早口ですね。

一番早口でした。過去イチ、早口です! なので、この曲も難しかったです。

やはり。ですが、バァーッ!と早口でいきつつCメロはクールな歌になっていて、一曲の中で表情を変えていますね。

変えています。でも、その辺りは感覚でやっていて、“ここはクールに歌おう”みたいな感じではなかった気がします。正直言ってレコーディングした時のことは、あまり覚えていないんですよ。

えっ!? そうなんですか?

覚えていないです、全然。アドレナリンが出て、興奮しているので。「やっちもねぇ」のサビで《B型だからって自由奔放って本当?本当?本当?問答》というところがあるんですけど、“あれ? 私、こんな声出したっけ?”みたいな声が出ているんですよ。そういうこともありましたね。

レコーディングでそこまでいけるというのはすごいことです。それこそライヴではアドレナリンが出まくって記憶がないということもあるかと思いますが、無機質なレコーディングブースで、そこまで頭が真っ白な状態になって歌えるという人は少ない気がします。

本当ですか? …そうなんだ。

ええ。ですので、そこにいけるのは藤川さんの大きな強みといえます。続いて、藤川さんの楽曲は曲調および歌い方と歌詞がミスマッチなことが魅力になっている曲がよくありまして、今作では「バルサミコ酢」がそうで。

私はバルサミコ酢がすごく好きなんですけど、“バルサミコ酢ってメインの料理の飾りみたいなものでしょ?”と言われたりとか、“お洒落なだけでしょ?”と実際に言われたことがあって。すごくお気に入りのバルサミコ酢があって、それをお世話になっている方にプレゼントした時に、やんわりとですが“バルサミコ酢ってお洒落なだけでしょ”と言われたんです。それで、ちょっとイラッときて、引っかかって。人には理解されないようなものかもしれないけど、自分の好きなものとか、こだわりとかを軽んじられて悲しい気持ちになったんです。いつも一緒にいればいるほど、そういうふうになっていったりするじゃないですか。長く一緒にいたいからこそ相手の好きなものは尊重したいし、理解し合える関係が一番だということを歌にしました。

私もそれぞれの個性を尊重し合うことが平和につながると思っています。それにこの曲はスィートな世界観でいながらタイトルがダイレクトな“バルサミコ酢”で、歌詞に《君はなんなん!?》や《あっちゃあかんの?》《あたしゃ》といった言葉が出てくるのも素敵です。

方言はさっきも話したように、自然体ですよね。“バルサミコ酢”というタイトルにしたのは響きがいいなと思って。あと、“どんな曲だろう?”と思ってもらえるといいなと。

確かに“どんな曲だろう?”と思いました(笑)。では、この曲の歌に関してはいかがでしたか?

アンニュイというのは、ちょっと意識しましたね。方言も使っているので。

岡山弁を織り交ぜた歌詞をアンニュイかつ少しセクシーに歌うことで、独自の魅力が生まれています。4曲目の「ぬか床」もシティポップなどに通じる洗練感を湛えた曲ですが、これもタイトルが“ぬか床”なんですよね。

この曲は人にはいろいろな可能性や才能が潜んでいると思っていて、幸運にもそれを掘り起こせた人は幸せだと思うけど、それに気づかないまま人生を終えるのは悲しいと。いっそのこと、ぬか床みたいにその人の良さを出せたらいいのにと、ぬか床をこねながら思ったんです(笑)。

そこです! 今の話の前半は世の真理で説得力があるわけですが、そこから“だったら、ぬか床みたいに”という思考にいくところが藤川さんならではで。“ぬか床”というワードが出てきた時に、“でも、ぬか床か…”みたいには思わないんですよね?

思わないです。

そこが最高です(笑)。藤川さんは歌詞先行なわけですが、曲があがってきた時に、例えば思った以上にお洒落な曲だから、お洒落な歌詞に変えようと考えたりすることもないわけですね。

それは一切ないですね。

そんな「ぬか床」はエモーショナルかつグルービーなヴォーカルも聴きどころです。

近藤世真さんがタイトルから想像できないようなダンサブルな感じにしてくださったので、それに乗ってグルーブ感が出たんだと思いますね。これもいろいろ考えたというよりは、自然とこういう歌になったという感じです。

OKMusic編集部

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