【藤川千愛 インタビュー】
生き難い世の中、
せめて歌の世界では好き勝手に
あえて突発的な感情に
フォーカスしたい
「ブラックコーヒー」の繊細な歌唱なども含めて、アルバム中盤ではいろいろな表情を見せています。フラットな感覚で歌った曲は別として、それぞれの曲の歌のニュアンスなどはどんなふうに決め込んでいかれたのでしょう？
最初は自分の解釈で作っていったん固めたあとに、ヴォイストレーナーの今井マサキさんに聴いていただき、新しい引き出しというか、新しいニュアンスとかを提案してもらい、もう一度自分の曲と向かい合って、その繰り返しで、ブラッシュアップしていきます。レコーディングの現場では作家さんやプロデューサーの意見も新たに出してもらい、“こういう歌い方はどうだろう？”という意見が出ればそれを試してみたりして作っていく感じです。
ということは、現場で出たアイディアなどにも対応されるんですね。
はい。昔は“こういうふうに歌ってみて”と言われてもできなかったりしたんです。やりたくなかったし（笑）。今は周りの人から歌について意見とかが出ると、むしろ“やってみよう！”という気持ちになります。
自分の意見に応えてくれるとなると周りの気持ちも高まって、それはより良い作品が生まれることにつながりますね。話を『内の臓が愚痴をこぼすもので』に戻しますと、アルバムを締め括るのは爽快感にあふれた「自律神経」というロックチューンなのですが、歌い出しが酩酊感のある歌になっていて、ここでも表現力の高さが光っています。
ありがとうございます。この曲はもんもんとして眠れない夜に、どうせならこの状況を歌にしようと思って作った曲なので、曖昧な境界を意識して歌いました。なので、酩酊感を感じてもらえたならば良かったです。
感じました。今作は今まで以上に歌の聴き応えが増していますが、歌唱面で特に印象の強い曲を挙げるとしたら？
どうだろう？ 今回は声の種類も増えたと思うし、一曲の中でも人格がコロコロ変わるような曲もあるし…でも、一番印象が強いのは「アンダンテ？」かな？ この曲は今回の歌録りの中で一番時間がかかったんです。
時間がかかったのは新しいことに挑戦した証と言えますし、その甲斐のある歌に仕上がっています。今作の歌を聴かせていただいて、もうひとつ感じたことがありまして。今の藤川さんはカッコ悪い自分や、ダメな自分も曝け出していこうという気持ちがより強まっている印象を受けました。
カッコ良いとかカッコ悪いとかあんまり考えていないかもです。なんか何かと生き難い世の中で、せめて歌の中の世界くらいは何も気にせずに好き勝手に歌いたい、歌詞も綺麗事というよりは突発的な感情にフォーカスしたり、その日その時に確かに感じたことを歌にしたいって衝動をかたちにしているだけなんです。それを誰かが聴いてくれることで、「やっちもねぇ」の《じゃーじゃー！》じゃないけど、“そうだ！ そうだ！”って感じてもらえたら嬉しいなぁと。だから、あえてカッコ悪い自分を曝け出そうという意識はないです。
歌をきれいにまとめることよりも、“響くか”“刺さるか”といったことを重視されているんですね。
それはそうですね。響いて、刺さって、揺さぶって、アツくさせたい。“そうそう、それだよ！”って、誰かのモヤモヤしていた感情を浄化させるじゃないですが、アルバムを聴いた方のカタルシスになるような楽曲ができたと自負しています。内臓がキリキリ痛む方への音楽というお薬かな？（笑） 自分史上最高傑作と思っています。
その結果、『内の臓が愚痴をこぼすもので』はより魅力を増した藤川さんを味わえる一作になっています。そして、11月11日から始まる同作を携えたツアーも楽しみです。
自分で言うのもなんですけど、最近はライヴもパワーアップしているし、会場の一体感とか、ノリとかも前とはもう全然変わっているんです。だから、ぜひそれを体感しに来てほしいですね。3年振りのツアーでもあるし、みんな次の日は筋肉痛になるようなライヴをするので期待していてください。
取材：村上孝之
「好きになってはいけない理由」MV
「1000年愛」MV
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『内の臓が愚痴をこぼすもので』
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