INTERVIEW | SATOH & Harry Teardr
opNYと東京で共振する2組が感じた“
孤独” 海を越えたコラボ曲の制作背
景 NYと東京で共振する2組が感じた“
孤独” 海を越えたコラボ曲の制作背

SATOHとNY・ブルックリンを拠点に活動するHarry Teardropが初のコラボ曲となる「Aftershow」をリリースした。
SATOHはLinna Figg(Vo.)とkyazm(Gt. / Manipulator)によるデュオで今年3月にリリースした1stアルバム『BORN IN ASIA』でも話題を呼んだ。一方、Harry Teardropは中国/ベトナムをルーツに持つベッドルーム・ロックの新星だ。彼らは今年9月に東京・渋谷Spotify O-EASTにて開催されたSATOHらを中心とするアーティスト・コミュニティ〈FLAG21〉主催イベント『FLAG 2023』にて共演も果たしている。
「Aftershow」は同イベントにてSATOHのステージで披露された1曲であり、MVもLinna Figg自身が監督を務めている。今回のコラボレーションはSNSを通じてLinna FiggとHarry Teardropが繋がったことをきっかけにスタートしたプロジェクトだという。お互いに既成のジャンルやシーンの枠をはみ出すような活動を展開する2組は、どのように打ち解け、共作に至ったのだろうか。
今回はNYにいるHarry TeardropとSATOHをオンラインで繋いでインタビューを実施。コラボ曲の制作の背景やそこに込められた想い、そして1stアルバムを経て、より自身のスタイル/世界観を強固に確立したSATOHの今後のビジョンについて語ってもらった。
Text by Jun Fukunaga(https://twitter.com/LadyCitizen69)
Photo by Taichi Kawatani
「何かが欠けていると感じるときは、それが誰かのためになっている」
――SATOHとHarry Teardropさんの交流はどのようにして始まったのでしょうか?
Linna Figg(以下、Linna):僕がHarryを知ったのは「Ryley」という曲がきっかけだったと思います。あとから聞いたらHarryもlil soft tennisやHEAVENなど、僕らと近い日本のシーンのアーティストをチェックしていたみたいで。最初はラブリーサマーちゃんとやった「ON AIR」という曲に反応してくれたのかな。それでInstagramのDMでやり取りするようになり、そのうち「一緒に曲を作ろう」という話になりました。
Harry Teardrop(以下、Harry):LinnaとはDMでやりとりするうちに驚くほど共通点が多くあることに気がつきました。そして話していくうちに、目指しているものが一緒だと感じて、仲良くなっていきました。
――Harryさんはいつ頃から日本のシーンを追いかけていたのでしょうか?
Harry:最初のきっかけは母親の影響です。彼女は若い頃に日本に住んでいたこともあって、小さい頃から家では日本の音楽が流れていたし、「すごい」とか「嫌だ」みたいな日本語のフレーズも教えてもらいました。おそらく最初に聴いた日本の曲はSUPERCARだったと思います。
それから他の日本のアーティストの曲も聴き始めて、後にインターネットでディグるようになりました。日本語は英語と発音が全然違うので、それがリズムにも影響してくるのがおもしろいです。特に日本人のみなさんはギター・ミュージックが好きな印象があります。そして僕もよく日本のギター・ミュージックを聴いていました。
――HarryさんとSATOHのルーツやバックグラウンドで重なる部分はどんなところだと思いますか?
Linna:個人的に思うのは、ギター・リフのテイストです。あと「Aftershow」のMVのロケハンに一緒に行ったときに、Harryが「街のストラクチャーがカッコいい」って言って写真を撮っていたんですけど、そういったビルや街に対しての感覚にも、何か通ずる部分を感じるんですよね。
kyazm:今やっている音楽はロックな感じなんですけど、Harryも俺もルーツのひとつとしてジャズがあるんです。そこにシンパシーを感じます。もちろんお互いの音楽が好きだし。
Harry:Linnaとは波長が合っているし、kyazmとは今言ってくれたようにジャズをルーツとする部分が共通しているから、実際に一緒に演奏したときもすぐにマッチしましたね。
――「Aftershow」の制作はどのようにして始まり、完成に至ったのでしょうか?
Linna:デモを作ったのは、アルバム『BORN IN ASIA』のリリパで東京と大阪を回ったあと、ちょっと落ち着いたタイミングでした。なぜか自分が1人きりな感覚があって。周りに人はたくさんいるのに、みんなただ流れていく感じというか。別に不快なだけじゃなくて、同時にちょっとした心地よさもある、みたいな。それで曲のテーマとして、街と自分の孤独な感覚を表現してみようと思いました。
そのときにデモとして作ったものは、ある程度完成型まで作り込んでいたんですけど、後半がなんか足りない気がしてて。そこで「一緒に曲を作ろう」という話をしていたHarryに、その部分を全面的にリエディットしてもらいました。
Harry:曲のテーマに関して、僕もLinnaと同じようなことを感じていたから、その話を聞いて驚きました。特に街に対する孤独感については共感できた。僕らは異なる場所にいるけど、同じ視点を共有していることに心が動かされましたね。
それと、何かが欠けていると感じるときは、意外とそれが誰かのためになっているというのが自分の中にはあって、そういう関係性である人が友だちだと思うんです。この曲もそういう感じでお互いを補完し合うような形で作っていきました。その結果、東京とNY、それぞれの街の要素を取り入れることができたと思います。
デモの完成度が高かったこともあって、後半部分のビートに関しては1時間くらいでできあがりました。《and it goes on〜》というリリックもすぐに頭に浮かんできたし、そこからどんどんアイデアが湧いてきました。
――最初にデモを聴いたとき、kyazmさんはどんな風にアレンジしようと思いましたか?
kyazm:この曲はデモの段階から完成度が高かったので、全体感はある程度LinnaとHarryに任せる方がいいなと思って。その分、細かいギターのニュアンスとかエフェクトにこだわりました。
――Harryさんが手がけた後半のジャージー・クラブのリズムを取り入れたビートが印象的でした。プレスリリースでは「ジャージー・クラブのドラムを入れることで、僕ならではのNY的なひねりを加えたかった​​」とコメントしていますが、そのアイディアも自然と出てきたのでしょうか?
Harry:最初は冗談のつもりだったんです。NYではドリル、東海岸ではジャージー・クラブが流行っている/根付いているように、音楽は地域性と密接な関係がありますよね。それを敢えて無視してみました。結果的にとてもいいものになりましたね。
あと、この曲のリリックでは“エモさ”を意識しています。ポジティブな内容ばかりではないけど、このビートを足すことによって遊び心やエナジーが加わったと思っています。
3人それぞれが捉える“東京”
――“東京”もこの楽曲のテーマのひとつになっていると思います。みなさんにとって、東京はどのような街ですか?
Linna:人と人の距離が近いなと感じます。電車に乗ってもそうだし、隣人との距離とかもそう。同じ場所に人がたくさんいて、別々の方向に向かっている。まるで街全体がデカいスクランブル交差点みたいな感じがするし、お互い見知らぬ宇宙人みたいな感じもする。
それが街中のあらゆるところで交錯しているというか、ぶつかりそうなのにお互い上手に避けている。その感じがすごく幾何学的だと思います。
Harry:NYでは基本的には異なるバックグラウンドの人々とも気軽に繋がっていく傾向がありますが、たしかに東京はそれが少なく、孤立しているような印象も受けました。
でも、東京でSATOHの2人や友だちと実際に会ってみると、NYと同じように若い世代にはフランクに交流できる人たちがいることがわかりました。だから、日本でもコミュニケーションのかたちがだんだん変わってきているのかもしれませんね。
――Harryさんのヴァースには《骨のある》や《ずっと一緒にいたい》という日本語も出てきますよね。今作ではリリックを通して、どのようなメッセージを伝えようとしていたのでしょうか?
Harry:《骨のある》という言葉を選んだ理由は、自分が世界に対して思っていることが日本語にとても翻訳し難いものだったから。たしか、漫画の中でカッコよくなろうとしている人が「骨のある」みたいなことを言っていた記憶があって、音の響きもよかったし、フレーズ自体もカッコいいなと思ったのでリリックに入れてみました。
《ずっと一緒にいたい》に関しては、ダイレクトなメッセージ性を出したくて取り入れました。日本語の曲に感じるおもしろさは、そういったダイレクトに自分のメッセージを伝えるところにあると思っていて。英語でリリックを作っているときは「ポエティックなフレーズを作ろう」とか、そういうことを意識してしまいがちなんです。でも、日本語は自分が普段使っていない言語なので、もっと自由に、言いたいことをそのまま伝えようと思いました。
――kyazmさんは2人がリリックに込めた想いに対して、どのように感じていますか?
kyazm:東京に関してはLinnaとは捉え方が少し違うというか。基本的に俺は東京がすごく好きなんです。実際、都心の駅近に住んでいるし、俺としては便利であればあるほど都合がいい。人が多い雑踏とかも全然苦手じゃないし、2人の話を聞いてそういう街に対する解釈もあるんだなって気づかされました。
Linna:自分は長く東京とか日本で暮らしているけど、居心地がいいとか、ホームと思える場所って結構少ないんです。でも、Harryは初対面から昔から知ってる友だちみたいな感じで接することができた。だから、東京とかNYだけじゃなくて、世界中にそういう小さなホームがたくさんあるのかなと思いました。
kyazm:そうだね。海外のアーティストと一緒に制作するのは初めてだったけど、新しい可能性が見えたかな。Harryの来日パーティのときもSATOHのライブ・メンバーで彼のバック・バンドを務めて、音楽を通じて繋がれることを実感できたのはすごくいい経験でした。
――サウンド感に関しても、元々イメージしていた通りに仕上がったのでしょうか?
kyazm:デモの時点で完成形のイメージは固まっていたのですが、今回は初めてミックス・エンジニアを入れて完成させました。これまでは俺がミックス、マスターまでやっていたから、サウンド感に関しても自分たちのコンテキストみたいなものがあるんです。だからそのコミュニケーションの部分で時間を使ったけど、最終的には今までで1番いい音に仕上げてもらえました。
――kyazmさんはギターの音色を考えたとのことでしたが、どういうイメージで考えていったのでしょうか?
kyazm:今回はデモの段階からギターの種類やピックアップ、弾き方を少し変えたくらいで、あまり大きくは変更しませんでした。ただ、ギターのテイク自体は複数録音して、いいテイクを組み合わせて構築しています。その結果、曲の半分がテレキャスター、もう半分がストラトキャスターみたいな感じになっていて。こういったアプローチができたことは、個人的にもいい経験でした。
ギタリストが2人いるバンドでは、こういう手法は一般的だと思うんですけど、SATOHはユニット形式かつ宅録で曲を制作してきたので、ギターは1本でも構わないし、逆に何本でも重ねることができる。なので、これまでは特に意識していなかったんです。今回エンジニアとのやり取りの中で、こういうアプローチも含めて音作りに対する考え方の幅が広がりました。
――SATOHは最近バンド編成でライブをしていますが、『BORN IN ASIA』や今作でもビートはあえて打ち込みっぽい質感にしているように感じました。ビートに対するこだわりや意識している点を教えてもらえますか?
kyazm:ビートに関しては、シンプルによりしっくりくる方を選んでいくつもりです。
Linna:曲を作っているときは、打ち込みか生音かみたいなことよりも、例えばCIRCUS TOKYOのサウンドシステムで鳴らしたり、もしくは山手線に乗りながらイヤホンやヘッドホンで聴いたときに気持ちよく聴こえるかっていうことを考えています。聴いたり制作したりする環境に合った音の揺れ感みたいなものがあるし、それはそのまま自分たちのライフスタイルだと思う。
SATOHは東京のクラブやヒップホップ・シーンが出自なので、曲を作っているときは常にクラブのサウンドシステムで鳴らしたり、もしくは電車に乗りながらイヤホンやヘッドホンで聴いたときに気持ちよく聴こえるかっていうことを考えていて。それぞれの環境音が混ざった状態で聴いてもいい塩梅になるかとか、そういった自分たちなりの基準から外れない範囲であれば、打ち込みでも生音でもどちらでもいいのかなって考えています。
――東京を舞台にしたMVでは3人が一緒に集まりパフォーマンスするシーンもあります。MVはLinnaさんが監督したとのことですが、どういったことを意識しながら制作しましたか?
Linna:さっきお話した東京の幾何学的なイメージを、1番キレイにビジュアライズすることを目指しました。それとこの曲は“エモさ”もテーマのひとつなので、MVでもそこは意識していて。一般的にエモいとされる映像って、ちょっとザラザラしていたり、暖色系の赤みがかかっているようなものが多いと思うんですけど、今回はツルッとした質感を出して、登場人物の感情もより機械的な感じがするものにしたかった。そのためにロケ地も奥行きがあってキレイな場所を探しました。
――Harryさんとkyazmさんは完成したMVを見て、どう思いましたか?
Harry:最初に完成したMVを見たときはすごく感動した。これが渋谷のスクランブル交差点の街頭ビジョンで流れているところを見てみたいなって(笑)。
kyazm:すごくいいMVになったと思っています。特に途中で出てくるリリックや最後のクレジットが映像の隅に配置されているところが好きですね。
フィールし合える仲間を増やしていく
――3月に1stアルバム『BORN IN ASIA』をリリースし、9月にはO-EASTにて過去最大キャパの『FLAG』を成功させました。今年はSATOHにとってどのような1年になったと感じていますか?
Linna:やっぱり1番大きかったのはアルバムを出したことですね。コロナ禍にSATOHや周りの仲間と一緒に始めた『FLAG』は、既存のジャンルとは異なる音楽をみんなで作っていくっていう気概でやっていたんですけど、どこか自分たちを出し切れずに進んできた感覚もあって。それを出し切るために、アルバムを制作することにしました。
だから、SATOHとしては今年から改めて活動を開始した気持ちというか。アルバムをリリースしたことでようやく「これがSATOHです」と胸を張って言えた気がするし、自分の気持ちとしてもすごくスッキリしたんです。なので今年はすごくやりきった感覚があります。
kyazm:俺もそう思います。アルバムを出したことで、考えることがすごくシンプルになりました。
――改めて今振り返って、『BORN IN ASIA』は自分たちにとってどのような作品になったと感じていますか?
Linna:自分たちの名刺にするつもりで作りました。何かっぽいものとか。どこかから借りてきたものを作るんじゃなくて、アジア人・日本人の自分たちがこの街で鳴らす音楽として、ナチュラルなものを作りたかった。『BORN IN ASIA』というタイトルはそこに由来しています。
kyazm:あと、日本のロックを変えるつもりで作ったアルバムというか、そのきっかけになる作品だとも思っています。これを出したことで、俺らのステージも確実に一段上がったし、今後はそのステージに見合うように新しいインプットを増やして、レベルアップしつつやっていくつもりです。 SATOHのこれからの活動をずっと屋台骨として支えてくれるアルバムになったんじゃないかなって思います。
――SATOHはエレクトロニック・デュオ(S亜TOH)を出発点としながら、オルタナティブなヒップホップ・シーンとの共振を経て、現在はロックをアイデンティティの軸に据えています。現時点では自身のスタイルについて固まったという手応えを感じていますか?
Linna:それはアルバムを作る前から考えていたことですね。そもそも音楽を本格的に作り始めたのはコロナ禍の少し前で、そのときはメルボルンに住んでいたんですけど、友だちができなくて暇だったからDTMを始めたんです。もちろん昔からギターを弾いたりしていたし、いろんな音楽が好きだったから、当時は無邪気にただ自分が好きな音楽を作っているだけでした。
……SATOHの活動を振り返ると、これまではその延長線上にあったような気がしていて。でも、いつまでもここにいてはいけないっていう思いもありました。それこそHarryの《骨のある》というリリックじゃないけど、自分の中にある決して変わらない遺伝子みたいな部分を突き詰めないといけないと思った。今はそれをギター・ロックの中に求めています。
kyazm:オルタナティブなヒップホップ・シーンとの共振というのは、まさにその通りですね。それに悩んだ時期もあったし、逆にそれが長所にもなっていた。でも、結局は自分たちはバンドというか、Linnaが言ったようにギター・ロックがルーツだから、やっぱりギターは外せないんですよ。
――SATOHや〈FLAG21〉の今後の活動、展開についてはどのように考えていますか?
Linna:来年は『FLAG』でニューイヤー・パーティを開催します。lil soft tennis、nasthug、Peterparker69とか今までの『FLAG』に出てもらってるアーティストに加えて、Harryをもう一度呼ぶし、あと同じくNYからFax Gangのkimjも来日してくれる。今、日本に住んでいるSinjin Hawke & Zora Jonesにも出演してもらう予定です。
kyazm:『FLAG』のブッキングに関してはLinnaがメインでやってるんですけど、今度のパーティについてはメンツ的にもこれまでとは違う新しいものになるので、俺もシンプルに楽しみです。そこから広がる関係性もめちゃくちゃ楽しみにしているし、すごく期待しています。
――今作のように海外のアーティストとのコラボレーションを含め、今後積極的に海外に打って出るプランはありますか?
Linna:SATOHの音楽と周波数が合う人って、今の時点でも東京にはたくさんいると思うんです。だから、国や場所は関係なく、自分たちと波長の合う人たちと一緒にやっていきたいですね。もちろん日本だけでなく海外でもライブをしたり、いろんな場所に出向いて、そういう人たちともっと出会いたいなって思います。
――最後に、SATOH、そしてHarryさんの今後の活動におけるビジョンや目標を教えてもらえますか?
Linna:無事にアルバムも出せたし、来年はバンドとして日本のロック・シーンに乗り込んでいくというか、これまで挑戦できなかった場所にも足を伸ばしたいです。そこに来てくれるお客さんとも交流していきたいし、そういう新しい出会いに対する好奇心もあります。
kyazm:うん。フィールし合える仲間を増やしていきたいですね。
Harry:次に日本に来るときは東京だけじゃなくて他の地域にも行く予定です。それから作品もどんどんリリースしたいし、あとは日本語歌詞の曲ももっと歌いたいですね。
【リリース情報】
■Harry Teardrop: X(Twitter)(https://twitter.com/harryteardrop) / Instagram(https://www.instagram.com/harryteardrop/)
【イベント情報】
■チケット販売中: LivePocket(https://t.livepocket.jp/e/flagnewyear2024tokyo)
SATOHとNY・ブルックリンを拠点に活動するHarry Teardropが初のコラボ曲となる「Aftershow」をリリースした。
SATOHはLinna Figg(Vo.)とkyazm(Gt. / Manipulator)によるデュオで今年3月にリリースした1stアルバム『BORN IN ASIA』でも話題を呼んだ。一方、Harry Teardropは中国/ベトナムをルーツに持つベッドルーム・ロックの新星だ。彼らは今年9月に東京・渋谷Spotify O-EASTにて開催されたSATOHらを中心とするアーティスト・コミュニティ〈FLAG21〉主催イベント『FLAG 2023』にて共演も果たしている。
「Aftershow」は同イベントにてSATOHのステージで披露された1曲であり、MVもLinna Figg自身が監督を務めている。今回のコラボレーションはSNSを通じてLinna FiggとHarry Teardropが繋がったことをきっかけにスタートしたプロジェクトだという。お互いに既成のジャンルやシーンの枠をはみ出すような活動を展開する2組は、どのように打ち解け、共作に至ったのだろうか。
今回はNYにいるHarry TeardropとSATOHをオンラインで繋いでインタビューを実施。コラボ曲の制作の背景やそこに込められた想い、そして1stアルバムを経て、より自身のスタイル/世界観を強固に確立したSATOHの今後のビジョンについて語ってもらった。
Text by Jun Fukunaga(https://twitter.com/LadyCitizen69)
Photo by Taichi Kawatani
「何かが欠けていると感じるときは、それが誰かのためになっている」
――SATOHとHarry Teardropさんの交流はどのようにして始まったのでしょうか?
Linna Figg(以下、Linna):僕がHarryを知ったのは「Ryley」という曲がきっかけだったと思います。あとから聞いたらHarryもlil soft tennisやHEAVENなど、僕らと近い日本のシーンのアーティストをチェックしていたみたいで。最初はラブリーサマーちゃんとやった「ON AIR」という曲に反応してくれたのかな。それでInstagramのDMでやり取りするようになり、そのうち「一緒に曲を作ろう」という話になりました。
Harry Teardrop(以下、Harry):LinnaとはDMでやりとりするうちに驚くほど共通点が多くあることに気がつきました。そして話していくうちに、目指しているものが一緒だと感じて、仲良くなっていきました。
――Harryさんはいつ頃から日本のシーンを追いかけていたのでしょうか?
Harry:最初のきっかけは母親の影響です。彼女は若い頃に日本に住んでいたこともあって、小さい頃から家では日本の音楽が流れていたし、「すごい」とか「嫌だ」みたいな日本語のフレーズも教えてもらいました。おそらく最初に聴いた日本の曲はSUPERCARだったと思います。
それから他の日本のアーティストの曲も聴き始めて、後にインターネットでディグるようになりました。日本語は英語と発音が全然違うので、それがリズムにも影響してくるのがおもしろいです。特に日本人のみなさんはギター・ミュージックが好きな印象があります。そして僕もよく日本のギター・ミュージックを聴いていました。
――HarryさんとSATOHのルーツやバックグラウンドで重なる部分はどんなところだと思いますか?
Linna:個人的に思うのは、ギター・リフのテイストです。あと「Aftershow」のMVのロケハンに一緒に行ったときに、Harryが「街のストラクチャーがカッコいい」って言って写真を撮っていたんですけど、そういったビルや街に対しての感覚にも、何か通ずる部分を感じるんですよね。
kyazm:今やっている音楽はロックな感じなんですけど、Harryも俺もルーツのひとつとしてジャズがあるんです。そこにシンパシーを感じます。もちろんお互いの音楽が好きだし。
Harry:Linnaとは波長が合っているし、kyazmとは今言ってくれたようにジャズをルーツとする部分が共通しているから、実際に一緒に演奏したときもすぐにマッチしましたね。
――「Aftershow」の制作はどのようにして始まり、完成に至ったのでしょうか?
Linna:デモを作ったのは、アルバム『BORN IN ASIA』のリリパで東京と大阪を回ったあと、ちょっと落ち着いたタイミングでした。なぜか自分が1人きりな感覚があって。周りに人はたくさんいるのに、みんなただ流れていく感じというか。別に不快なだけじゃなくて、同時にちょっとした心地よさもある、みたいな。それで曲のテーマとして、街と自分の孤独な感覚を表現してみようと思いました。
そのときにデモとして作ったものは、ある程度完成型まで作り込んでいたんですけど、後半がなんか足りない気がしてて。そこで「一緒に曲を作ろう」という話をしていたHarryに、その部分を全面的にリエディットしてもらいました。
Harry:曲のテーマに関して、僕もLinnaと同じようなことを感じていたから、その話を聞いて驚きました。特に街に対する孤独感については共感できた。僕らは異なる場所にいるけど、同じ視点を共有していることに心が動かされましたね。
それと、何かが欠けていると感じるときは、意外とそれが誰かのためになっているというのが自分の中にはあって、そういう関係性である人が友だちだと思うんです。この曲もそういう感じでお互いを補完し合うような形で作っていきました。その結果、東京とNY、それぞれの街の要素を取り入れることができたと思います。
デモの完成度が高かったこともあって、後半部分のビートに関しては1時間くらいでできあがりました。《and it goes on〜》というリリックもすぐに頭に浮かんできたし、そこからどんどんアイデアが湧いてきました。
――最初にデモを聴いたとき、kyazmさんはどんな風にアレンジしようと思いましたか?
kyazm:この曲はデモの段階から完成度が高かったので、全体感はある程度LinnaとHarryに任せる方がいいなと思って。その分、細かいギターのニュアンスとかエフェクトにこだわりました。
――Harryさんが手がけた後半のジャージー・クラブのリズムを取り入れたビートが印象的でした。プレスリリースでは「ジャージー・クラブのドラムを入れることで、僕ならではのNY的なひねりを加えたかった​​」とコメントしていますが、そのアイディアも自然と出てきたのでしょうか?
Harry:最初は冗談のつもりだったんです。NYではドリル、東海岸ではジャージー・クラブが流行っている/根付いているように、音楽は地域性と密接な関係がありますよね。それを敢えて無視してみました。結果的にとてもいいものになりましたね。
あと、この曲のリリックでは“エモさ”を意識しています。ポジティブな内容ばかりではないけど、このビートを足すことによって遊び心やエナジーが加わったと思っています。
3人それぞれが捉える“東京”
――“東京”もこの楽曲のテーマのひとつになっていると思います。みなさんにとって、東京はどのような街ですか?
Linna:人と人の距離が近いなと感じます。電車に乗ってもそうだし、隣人との距離とかもそう。同じ場所に人がたくさんいて、別々の方向に向かっている。まるで街全体がデカいスクランブル交差点みたいな感じがするし、お互い見知らぬ宇宙人みたいな感じもする。
それが街中のあらゆるところで交錯しているというか、ぶつかりそうなのにお互い上手に避けている。その感じがすごく幾何学的だと思います。
Harry:NYでは基本的には異なるバックグラウンドの人々とも気軽に繋がっていく傾向がありますが、たしかに東京はそれが少なく、孤立しているような印象も受けました。
でも、東京でSATOHの2人や友だちと実際に会ってみると、NYと同じように若い世代にはフランクに交流できる人たちがいることがわかりました。だから、日本でもコミュニケーションのかたちがだんだん変わってきているのかもしれませんね。
――Harryさんのヴァースには《骨のある》や《ずっと一緒にいたい》という日本語も出てきますよね。今作ではリリックを通して、どのようなメッセージを伝えようとしていたのでしょうか?
Harry:《骨のある》という言葉を選んだ理由は、自分が世界に対して思っていることが日本語にとても翻訳し難いものだったから。たしか、漫画の中でカッコよくなろうとしている人が「骨のある」みたいなことを言っていた記憶があって、音の響きもよかったし、フレーズ自体もカッコいいなと思ったのでリリックに入れてみました。
《ずっと一緒にいたい》に関しては、ダイレクトなメッセージ性を出したくて取り入れました。日本語の曲に感じるおもしろさは、そういったダイレクトに自分のメッセージを伝えるところにあると思っていて。英語でリリックを作っているときは「ポエティックなフレーズを作ろう」とか、そういうことを意識してしまいがちなんです。でも、日本語は自分が普段使っていない言語なので、もっと自由に、言いたいことをそのまま伝えようと思いました。
――kyazmさんは2人がリリックに込めた想いに対して、どのように感じていますか?
kyazm:東京に関してはLinnaとは捉え方が少し違うというか。基本的に俺は東京がすごく好きなんです。実際、都心の駅近に住んでいるし、俺としては便利であればあるほど都合がいい。人が多い雑踏とかも全然苦手じゃないし、2人の話を聞いてそういう街に対する解釈もあるんだなって気づかされました。
Linna:自分は長く東京とか日本で暮らしているけど、居心地がいいとか、ホームと思える場所って結構少ないんです。でも、Harryは初対面から昔から知ってる友だちみたいな感じで接することができた。だから、東京とかNYだけじゃなくて、世界中にそういう小さなホームがたくさんあるのかなと思いました。
kyazm:そうだね。海外のアーティストと一緒に制作するのは初めてだったけど、新しい可能性が見えたかな。Harryの来日パーティのときもSATOHのライブ・メンバーで彼のバック・バンドを務めて、音楽を通じて繋がれることを実感できたのはすごくいい経験でした。
――サウンド感に関しても、元々イメージしていた通りに仕上がったのでしょうか?
kyazm:デモの時点で完成形のイメージは固まっていたのですが、今回は初めてミックス・エンジニアを入れて完成させました。これまでは俺がミックス、マスターまでやっていたから、サウンド感に関しても自分たちのコンテキストみたいなものがあるんです。だからそのコミュニケーションの部分で時間を使ったけど、最終的には今までで1番いい音に仕上げてもらえました。
――kyazmさんはギターの音色を考えたとのことでしたが、どういうイメージで考えていったのでしょうか?
kyazm:今回はデモの段階からギターの種類やピックアップ、弾き方を少し変えたくらいで、あまり大きくは変更しませんでした。ただ、ギターのテイク自体は複数録音して、いいテイクを組み合わせて構築しています。その結果、曲の半分がテレキャスター、もう半分がストラトキャスターみたいな感じになっていて。こういったアプローチができたことは、個人的にもいい経験でした。
ギタリストが2人いるバンドでは、こういう手法は一般的だと思うんですけど、SATOHはユニット形式かつ宅録で曲を制作してきたので、ギターは1本でも構わないし、逆に何本でも重ねることができる。なので、これまでは特に意識していなかったんです。今回エンジニアとのやり取りの中で、こういうアプローチも含めて音作りに対する考え方の幅が広がりました。
――SATOHは最近バンド編成でライブをしていますが、『BORN IN ASIA』や今作でもビートはあえて打ち込みっぽい質感にしているように感じました。ビートに対するこだわりや意識している点を教えてもらえますか?
kyazm:ビートに関しては、シンプルによりしっくりくる方を選んでいくつもりです。
Linna:曲を作っているときは、打ち込みか生音かみたいなことよりも、例えばCIRCUS TOKYOのサウンドシステムで鳴らしたり、もしくは山手線に乗りながらイヤホンやヘッドホンで聴いたときに気持ちよく聴こえるかっていうことを考えています。聴いたり制作したりする環境に合った音の揺れ感みたいなものがあるし、それはそのまま自分たちのライフスタイルだと思う。
SATOHは東京のクラブやヒップホップ・シーンが出自なので、曲を作っているときは常にクラブのサウンドシステムで鳴らしたり、もしくは電車に乗りながらイヤホンやヘッドホンで聴いたときに気持ちよく聴こえるかっていうことを考えていて。それぞれの環境音が混ざった状態で聴いてもいい塩梅になるかとか、そういった自分たちなりの基準から外れない範囲であれば、打ち込みでも生音でもどちらでもいいのかなって考えています。
――東京を舞台にしたMVでは3人が一緒に集まりパフォーマンスするシーンもあります。MVはLinnaさんが監督したとのことですが、どういったことを意識しながら制作しましたか?
Linna:さっきお話した東京の幾何学的なイメージを、1番キレイにビジュアライズすることを目指しました。それとこの曲は“エモさ”もテーマのひとつなので、MVでもそこは意識していて。一般的にエモいとされる映像って、ちょっとザラザラしていたり、暖色系の赤みがかかっているようなものが多いと思うんですけど、今回はツルッとした質感を出して、登場人物の感情もより機械的な感じがするものにしたかった。そのためにロケ地も奥行きがあってキレイな場所を探しました。
――Harryさんとkyazmさんは完成したMVを見て、どう思いましたか?
Harry:最初に完成したMVを見たときはすごく感動した。これが渋谷のスクランブル交差点の街頭ビジョンで流れているところを見てみたいなって(笑)。
kyazm:すごくいいMVになったと思っています。特に途中で出てくるリリックや最後のクレジットが映像の隅に配置されているところが好きですね。
フィールし合える仲間を増やしていく
――3月に1stアルバム『BORN IN ASIA』をリリースし、9月にはO-EASTにて過去最大キャパの『FLAG』を成功させました。今年はSATOHにとってどのような1年になったと感じていますか?
Linna:やっぱり1番大きかったのはアルバムを出したことですね。コロナ禍にSATOHや周りの仲間と一緒に始めた『FLAG』は、既存のジャンルとは異なる音楽をみんなで作っていくっていう気概でやっていたんですけど、どこか自分たちを出し切れずに進んできた感覚もあって。それを出し切るために、アルバムを制作することにしました。
だから、SATOHとしては今年から改めて活動を開始した気持ちというか。アルバムをリリースしたことでようやく「これがSATOHです」と胸を張って言えた気がするし、自分の気持ちとしてもすごくスッキリしたんです。なので今年はすごくやりきった感覚があります。
kyazm:俺もそう思います。アルバムを出したことで、考えることがすごくシンプルになりました。
――改めて今振り返って、『BORN IN ASIA』は自分たちにとってどのような作品になったと感じていますか?
Linna:自分たちの名刺にするつもりで作りました。何かっぽいものとか。どこかから借りてきたものを作るんじゃなくて、アジア人・日本人の自分たちがこの街で鳴らす音楽として、ナチュラルなものを作りたかった。『BORN IN ASIA』というタイトルはそこに由来しています。
kyazm:あと、日本のロックを変えるつもりで作ったアルバムというか、そのきっかけになる作品だとも思っています。これを出したことで、俺らのステージも確実に一段上がったし、今後はそのステージに見合うように新しいインプットを増やして、レベルアップしつつやっていくつもりです。 SATOHのこれからの活動をずっと屋台骨として支えてくれるアルバムになったんじゃないかなって思います。
――SATOHはエレクトロニック・デュオ(S亜TOH)を出発点としながら、オルタナティブなヒップホップ・シーンとの共振を経て、現在はロックをアイデンティティの軸に据えています。現時点では自身のスタイルについて固まったという手応えを感じていますか?
Linna:それはアルバムを作る前から考えていたことですね。そもそも音楽を本格的に作り始めたのはコロナ禍の少し前で、そのときはメルボルンに住んでいたんですけど、友だちができなくて暇だったからDTMを始めたんです。もちろん昔からギターを弾いたりしていたし、いろんな音楽が好きだったから、当時は無邪気にただ自分が好きな音楽を作っているだけでした。
……SATOHの活動を振り返ると、これまではその延長線上にあったような気がしていて。でも、いつまでもここにいてはいけないっていう思いもありました。それこそHarryの《骨のある》というリリックじゃないけど、自分の中にある決して変わらない遺伝子みたいな部分を突き詰めないといけないと思った。今はそれをギター・ロックの中に求めています。
kyazm:オルタナティブなヒップホップ・シーンとの共振というのは、まさにその通りですね。それに悩んだ時期もあったし、逆にそれが長所にもなっていた。でも、結局は自分たちはバンドというか、Linnaが言ったようにギター・ロックがルーツだから、やっぱりギターは外せないんですよ。
――SATOHや〈FLAG21〉の今後の活動、展開についてはどのように考えていますか?
Linna:来年は『FLAG』でニューイヤー・パーティを開催します。lil soft tennis、nasthug、Peterparker69とか今までの『FLAG』に出てもらってるアーティストに加えて、Harryをもう一度呼ぶし、あと同じくNYからFax Gangのkimjも来日してくれる。今、日本に住んでいるSinjin Hawke & Zora Jonesにも出演してもらう予定です。
kyazm:『FLAG』のブッキングに関してはLinnaがメインでやってるんですけど、今度のパーティについてはメンツ的にもこれまでとは違う新しいものになるので、俺もシンプルに楽しみです。そこから広がる関係性もめちゃくちゃ楽しみにしているし、すごく期待しています。
――今作のように海外のアーティストとのコラボレーションを含め、今後積極的に海外に打って出るプランはありますか?
Linna:SATOHの音楽と周波数が合う人って、今の時点でも東京にはたくさんいると思うんです。だから、国や場所は関係なく、自分たちと波長の合う人たちと一緒にやっていきたいですね。もちろん日本だけでなく海外でもライブをしたり、いろんな場所に出向いて、そういう人たちともっと出会いたいなって思います。
――最後に、SATOH、そしてHarryさんの今後の活動におけるビジョンや目標を教えてもらえますか?
Linna:無事にアルバムも出せたし、来年はバンドとして日本のロック・シーンに乗り込んでいくというか、これまで挑戦できなかった場所にも足を伸ばしたいです。そこに来てくれるお客さんとも交流していきたいし、そういう新しい出会いに対する好奇心もあります。
kyazm:うん。フィールし合える仲間を増やしていきたいですね。
Harry:次に日本に来るときは東京だけじゃなくて他の地域にも行く予定です。それから作品もどんどんリリースしたいし、あとは日本語歌詞の曲ももっと歌いたいですね。
【リリース情報】
■Harry Teardrop: X(Twitter)(https://twitter.com/harryteardrop) / Instagram(https://www.instagram.com/harryteardrop/)
【イベント情報】
■チケット販売中: LivePocket(https://t.livepocket.jp/e/flagnewyear2024tokyo)

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