デッド・オア・アライブの極めつけデ
ィスコヒット5曲
ディスコ全盛期の80年代中期、ド派手なユーロビート作でヒット曲を連発し、日本中を沸かせたモンスターグループがデッド・オア・アライブだ。しかし、ディスコファンからすればスーパースターだが、一般的な音楽ファンにすると「そういえば、そんなグループあったなあ」程度の反応だと思う。ディスコでバカ受けしたのは、自らディスコが大好きだったピート・バーンズの緻密な計算があったからだろう。
日本のディスコで圧倒的な人気を誇った
デッド・オア・アライブの怒涛のユーロ
ビート
980年、英リヴァプールで結成されたデッド・オア・アライブ。グループというよりはピート・バーンズのワンマンバンドで、彼のグラマラスな装いと骨太のヴォーカルのアンバランスさで数多くのファンを獲得する。デビューしてから多くの奇行で世間を騒がせたが、今年10月に急性心不全で亡くなった。彼の奇抜なファッションとゲイっぽい動きは、MTVの登場とともに世界的に広まり、カルチャー・クラブのボーイ・ジョージなどと並んで、大いに注目された。
84年にリリースされたデビュー作の『美醜の館(原題:Sophisticated Boom Boom)』は、当時流行していたシンセを中心に、ダンサブルなサウンドを展開し、その硬質でクールな感覚が受け大ヒットした。同アルバムからシングルカットされたKC&ザ・サンシャインバンドのカバー「That's The Way(I Like It)」では、オリジナルと聴き比べてみると分かるが、ファンクのグルーブ感はまったくなく、すでに無機質のユーロビートで勝負している。
2ndアルバム『ユースクエイク(原題:Youthquake)』(‘85)では、プロデュースにSAW(ストック、エイトケン、ウォーターマン)を迎え、時代の最先端をいくディスコサウンドを作り上げている。全世界でメガヒットした「You Spin Me Round(Like A Record)」や「Lover Come Back To Me」などをリリース、以降ユーロビートでディスコ界を席巻していくのである。
さて、それでは、デッド・オア・アライブの極めつけディスコヒットを5曲セレクトしてみよう。
1.「That's The Way(I Like It)」(
‘84)
ピート・バーンズが、いつユーロビートに関心を持つようになったのかは定かではないが、70年代ミュンヘンのディスコに興味を持っていたことは確かだし、ドナ・サマーに代表されるユーロビートの先駆者に注目したのは、ピートに「このサウンドが流行する」という先見の明があったからだと思う。すでに愛されていたディスコの定番曲を、あえて実験的にユーロビート化したのは、彼の考えるサウンドがどれほど受けるのかを試すアンケート調査のようなものを狙ったのではないだろうか。蓋を開けてみると大ヒットし、彼は大いに自信を持ってディスコに殴り込みをかけることになる。アルバム『美醜の館』に収録。
2.「You Spin Me Round(Like A Recor
d)」(‘84)
デッド・オア・アライブの名を全世界に知らしめた大ヒット曲がこれ。特に日本での人気は高く、早めのBPM(曲の速度のこと)が体質に合ったのか、90年代に入っても彼らのブームが続くのである。この曲、メロディーは単純だし、打ち込みのリズムもチープで、“聴く”という意味においては適していないのだが、“踊る”という意味においては最高の素材である。この曲がヒットしたことで、SAWのプロデュース手腕に注目が集まり、バナナラマ、リック・アストリー、カイリー・ミノーグらがこぞって彼らをプロデュースに迎えることになる。ディスコにおいて、彼らプロデューサーチームの全盛期がやってくるのである。全英チャート1位。
3.「Lover Come Back To Me」(‘85)
2)と同様、2ndアルバム『ユースクエイク』に収録されたナンバー。この曲はメロディーが良いので、普通に演奏すればメロディアスなロック作品になったと思う。少しヴォーカルがミック・ジャガーに似ていたり、ニューロマンティックス風の感覚もあったりするなど、ピートの工夫というか努力の跡が感じられる作品になった。80年代中期のデッド・オア・アライブは飛ぶ鳥を落とす勢いで、日本ではどの曲がかかってもディスコでバカ受けしていたものだ。今となっては“そういう時代だった“としか言いようはないが、あれはディスコファンの多くが罹った感染症のようなものだったのかもしれない。それだけ、ディスコ界でピートのカリスマ性がスゴかったのだろう。ジャズのスタンダードで有名な「恋人よ我に帰れ(原題:Lover, Come Back To Me)」とは同名異曲。
4.「In Too Deep」(‘85)
この曲もセカンドに収録されていたが、3)と同じくニューロマンティックス的な作品で、トーマス・ドルビーやハワード・ジョーンズのような繊細さを持った奥深い仕上がりになっている。デッド・オア・アライブの魅力って、ピートの容姿とそれを裏切る男性っぽい声、そして意外に熱いヴォーカルのシャウトが単調なユーロビートに乗っているという、いくつかのアンバランスさ(“違和感”と言ったほうがいいのか)が魅力になっているのではないだろうか。この頃、ピートは整形手術の失敗で、すでに苦悩の日々が始まっていたのだが、まだまだ人気に翳りは見えず、表面上は順風満帆に見えていたのだから人生とは皮肉なものである。
5.「Turn Around And Count 2 Ten」(’
88)
4thアルバム『ヌード』に収録されていたナンバー。このアルバムはSAWから離れ、デッド・オア・アライブ(といってもピート)が初めてセルフプロデュースしたもの。僕は彼らの楽曲としては、これが一番素晴らしいと考えている。サウンド自体はシンセで成り立っているので、前作と大きな変化はないが、曲作りが巧みで、曲の構成も格段に良くなっている。おそらく、彼らの曲でこれが一番だという人は少なくないはずだ。ただ、この曲のリリース前から彼らの人気には翳りが出始めている。ディスコで似たようなユーロビートが増えすぎて、誰もが食傷気味になっていたことや、ジャネット・ジャクソン、ホイットニー・ヒューストンら、アメリカの黒人シンガーらがディスコでの巻き返しを図りつつあったことも無関係ではないだろう。ただ、日本ではこれ以降もデッド・オア・アライブの人気は高く、ピートの逝去の際には多くのファンがSNS等で哀悼の意を表していた。
著者:河崎直人