【さとうもか インタビュー】
ほとんどの作品が
“一瞬と一生”から
インスパイアされたもの
自分のやりたかったことが
今までの作品以上に出せた
そして、エレキギターのお話もあった「愛ゆえに」は複雑な恋心が描かれたロックバラードで、《二人の時間はくだらないよ》と歌う中にも力強さを感じます。
最初この曲は弾き語りが合うと思っていたのですが、歌詞を最後まで書き上げた瞬間に“これは絶対にロックや!”という気持ちになって。この主人公はつらくて涙が出てしまっても、ちゃんと前に進もうと決意した、弱いけどすごく強い女の子なんです。弾き語りで静かに過去を振り返るような、余裕のある心情ではないと思ってバンドサウンドに決めました。もともとギターソロはバンドメンバーの中川翔太さんに弾いてもらおうと思っていたのですが、私が弾いたデモのテイクをなぜかみんなが褒めてくれて、そのまま使うことになったんです。上手すぎない不器用な感じがリアルで、この主人公にも合っていたのかもしれません(笑)。
そこから打ち込みのダンスチューンに切り替わる「パーマネント・マジック」への展開も心が躍りました! 80~90 年代の魔法系アニメの主題歌をイメージしているそうですが、歌詞の魅惑的な感じやところどころに入っている効果音、転調が多めなのもぴったりで。
歌詞で描いている主人公のどうしようもない感じとサウンドのポップさが絶妙にマッチして、レトロ感と今っぽさの両方が混在する曲になったと思っています。編曲はANATAKIKOUの松浦正樹さんを中心に、もかバンドのみんなと作っていきました。松浦さんのアイディアマンなところや緻密な音作りの構成力は誰も真似できないバランス感覚で、一緒に制作させていただく中でたくさん学ばせてもらいました。あと、ビートはかねもとまさやさんに叩いてもらった生ドラムと打ち込みのビートが混ざっていて、より楽しいリズムになっています。この曲の主人公は自分自身のことを理解しているように見えるけど、本当は浮ついた夢を見がちな人で、その感じも言葉選びやアレンジで伝わっていたら嬉しいです。
「Strawberry Milk Ships」は“架空の野球チームの一夏の思い出からできた応援ソング”ということで、もかさんの自由でユニークな発想力に思わずクスッときました。このようなストーリー性のある曲は他にもたくさんストックがあったりするのでしょうか?
4年ほど前に作った曲でライヴでも演奏したことがなかったのですが、アルバムのコンセプトにぴったりだと思って入れました。この世には存在しない“野球演奏”や“バッターチャンス”といった造語をわりと無意識に使っているところもお気に入りです。他にもストーカーらしき人が家に押しかけてきた曲や、おばあさんがもうこの世にはいない旦那さんを想いながら夜の浜辺を散歩する曲など、いろいろな曲がありますよ。
いつか聴ける日が楽しみです! アルバムも後半に差し掛かった7曲目の「あぶく」はしっとりとした曲調に夏の終わりを感じましたが、曲順にはどんなこだわりがありますか?
今作はジャンルの統一感がまったくないんですよね(笑)。だから、曲順を決めるのはかなり苦戦して、結果的になんとなく夏休みの始まりから終わりみたいな流れになっている気がしますね。中でも、「あぶく」は特に入れる場所を迷った曲のひとつです。私の中で一番ユニークな曲が「Strawberry Milk Ships」と「アイスのマンボ」だったので、その間に心を落ち着けるイメージで挟んでみました。
ジャンルで言うと「アイスのマンボ」もラテン系のリズムが楽しめますね。アレンジを担当した浦上想起さんとはどのようなやりとりがあったのですか?
夏がテーマならアイスの曲は絶対に必要だと思ったのと、前からラテン系のリズムが好きだったのでマンボに挑戦したくて「アイスのマンボ」を書いたのですが、その流れで先にタイトルを考えたので“そもそもマンボってどんなのだっけ?”となったりもしました(笑)。曲を書いてからは、浦上さんと一緒に作ったら絶対に楽しい曲になるだろうという期待がどんどん大きくなったので声をかけさせていただいて。私が最初に送ったデモは昭和っぽさがあったのですが、そこからイメージを膨らませていったら浦上さんからすごすぎるデモが送られてきたので大興奮しながら、その時はなぜかフラダンスを踊りました(笑)。その瞬間から私の夏は始まりましたね。アレンジをお願いさせていただいたアーティストさんはもともと大好きな方たちなので、今回の制作はとても刺激になりましたし、さらにファンになりました!
また、「My friend」は抑揚の付け方にヒップホップっぽさがありますが、歌唱面で意識したことはありますか?
この1年間、楽曲にフィーチャリングで参加させていただくことが多くて、少しずつヒップホップに合う歌い方を勉強していました。それと、自分から自然に出てくる音楽はパーソナルなイメージの曲が多かったのですが、今作にはそういう曲がなかったので、その両方を活かせる楽曲として制作中に「My friend」を作りました。学生時代に長い休みがあるたび“休みが明けたら全部の運命が変わってしまいそうだな”と思っていたので、そんな気持ちをこの主人公に託しています。
最後に収録された「ラムネにシガレット」は、ずっと信じられるものを欲しがっている心情と、すがるように歌う声がすごく耳に焼き付きました。
私が学生時代に仲の良かった人と車でコンビニに行った時に、その人が飲み終わったラムネの瓶に入ってるビー玉を私にくれて、それがすごく嬉しかったんです。でも、その人は空いた瓶をすぐに灰皿にしていて、ビー玉なんかで喜ぶ自分が子供っぽく思えてなんとも言えない気持ちになりました。ビー玉のきれいな水色と煙ったいタバコが対照的で、印象に残っている出来事です。曲順も迷ったんですけど、直感でこの曲を最後にして、1曲目の「Glints」では《永遠に夏してたい》と歌っているにもかかわらず、最後の「ラムネにシガレット」では《夏なんてつまらない》と歌っている矛盾した部分も気に入っています。
全10曲それぞれの魅力が楽しめますが、全体的に「Glints」の話でも出てきた“一瞬と一生”のような刹那的な儚さと一生記憶に残るものがテーマになっているようにも感じました。
たぶん今作に限らず、私が作ってきたほとんどの作品が“一瞬と一生”からインスパイアされてできたものだと思います。今回のアルバムだと特に「Glints」にそういった気持ちを強く持って書きました。過去の作品だと「melt summer」(2018年8月発表の配信楽曲)や「ケイトウ」(2019年5月発表のアルバム『merry go round』収録曲)などに分かりやすく出ていると思います。
では、改めてアルバム『GLINTS』はどんな一枚になったと思いますか?
自分のやりたかったことが今までの作品以上に出せた気がしてとても嬉しいです。本当の感情を何度も噛み砕き、練り直して作ったので、私の中では全て大切な宝物です。一緒に作ってくれたアーティストのみなさんには本当に感謝の気持ちでいっぱいで、この作品がたくさんの人たちに届いてくれるといいなと思います。
取材:千々和香苗
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アルバム『GLINTS』2020年8月5日発売
ANTHOLOGY
さとうもか:1994年生まれ、岡山県出身在住。3歳からピアノを始め、初めての発表会で弾いた「ガラスの靴」という曲の最初の“シ・ド・ミ”の和音で音楽が好きになる。高校音楽科卒業後は音楽短期大学へ入学し、ガットギターやピアノの弾き語りを始めた。2018年3月に1stアルバム『Lukuwarm』をリリースし、19年5月には2ndアルバム『Merry go round』、20年1月に1stシングル「melt bitter」を発表。さとうもか オフィシャルHP
「Glints」MV
「愛ゆえに」MV