【愛はズボーン インタビュー】
自由を謳歌する
痛快なニューアルバム
新作アルバム『TECHNO BLUES』は、大阪発の愛されバンド・愛はズボーンのアイデンティティーを決定的なものにした作品だ。“大きなステージで映える曲”を目指したという同作を掲げ、結成10周年を“DO IT MYSELF”の精神で進む4人に話を訊いた。
まだまだ評価されるべきだから
できるだけ届ける方法を考えた
快調な気分を感じる素敵なアルバムだと思います。ご自身たちではどんな手応えを持っていますか?
富永
今作に入っているシングル曲からシーケンスを入れ始めたんですけど、それが板についてきた実感があります。
ドラマーとして意識したことはありますか?
富永
シーケンスの中にすでにドラムの音が入っていることが結構あったので、それに合わせて叩いてみて、叩きながらグルーブを出すことを考えました。ライヴではボタンを押したりとやることが増えたんですけど、クリックを鳴らしながらも自由に叩くことを練習しましたね。
GIMA
シーケンスが入ったことで表現の幅が広がったところはめちゃめちゃあって。これまでも愛はズボーンは“自由にやります!”と言ってきたんですけど、ジャンルにとらわれない愛はズボーンらしさを一番良くまとめることができたアルバムだと思います。あと、メンバー同士の信頼感もアルバムに入ってきている気がします。共通言語も増えましたし、失敗も見せれる関係性ができているからこそ、より自由な表現ができるようになったんじゃないかなと。
白井さんはどうですか?
白井
前のアルバム(2017年11月発表の『どれじんてえぜ』)も十分ポップだと思っていたんですけど、それ以上に一発聴いただけで伝わるような作品になりましたね。
確かにそうしたポップさは今作の特徴のひとつだと思います。作曲者として意識したところはありますか?
金城
広くしていきたいっていうのはめっちゃ考えてました。それは抽象的な意味ではなくて、広い会場を視野に入れて曲作りをするというか、大きなステージで映える曲にしたいと思いました。そういう曲を作らないと次には行かれへんと思っていましたし、外に羽ばたくための曲をいっぱい作ろうと思いました。
それは内心に抱える野心の裏返しでもあるんでしょうか?
金城
現状に満足していないからでしょうね。野心は強かったです。自分の表現に対して思っている評価をもらったことがないですし、まだまだ評価されるべきだと思っているので、できるだけ届ける方法を考えなきゃっていう気持ちはありました。近距離のお客さんをびっくりさせる音楽はいっぱいやってきたけど、その集客では自分の求める景色が見えなくなってきたので、ホールで流れた時にドカン!と聴こえるものに挑戦しました。
作品からはテクノやシンセポップからの影響がうかがえますが、そうした作曲の舵取りは金城さんのアイディアですか?
金城さんのバックボーンはどんな音楽になるのですか?
金城
ルーツはThe Chemical Brothersです。最近はサブスクでいろんな楽曲を聴いてるんですけど、よくジェフ・ミルズを聴いています。あとは、UnderworldとかFatboy Slimのようなド派手なブレイクビーツですね。僕は派手なものが好きなので、ストイックに聴くというよりかは、酒を飲みまくっている時に聴いています。
メンバーのみなさんもテクノには馴染みがあるんですか?
白井
はい。僕も金城くんの影響でテクノを聴くようになって、The Chemical BrothersやDaft Punkは普段から聴くくらい好きなアーティストでした。バンドのサウンドも自然とこういう方向になっていった気がします。
金城
ずっとやりたかったんですよ。クラブミュージックの中でもテクノが好きで、うっすい言い方かもしれないですけど、テクノって一番アガる音楽だと思うんです。ライヴハウスでガレージバンドが鳴らすドカン!っていう爆音を体感するのもめっちゃ好きなんすけど、シーケンスとかキーボードのような飛び道具的な要素のあるバンドも好きで。どっちが広いところに相応しい音になるかを考えたら、シーケンスを使った音だったんですよね。
つまり、タイトルの“TECHNO BLUES”のうち、テクノの部分は金城さんの趣向が出ているものだと。一方のブルースはGIMAさんのアイデンティティーと見ていいんですかね?
好きなブルースマンを挙げるとしたら?
GIMA
サム・クックです。SEでかけている「A Change Is Gonna Come」っていう曲を聴いて僕はブルースにハマったので、サム・クックがきっかけを作ってくれたブルースマンでした。あと、自分の声を好きになれたのはトム・ウェイツのおかげなので、トム・ウェイツにも感謝していますし、僕はブルースに出会って音楽人生が豊かになったと思います。
GIMAさんにとって、ブルースはどういう音楽だと思ったから響いたんでしょうか?
GIMA
ブルースは精神性なものだととらえています。自分を見つめることだと解釈していると言いますか、自分が何を考えているかをしっかり見つめた上で、それを叫びにしたり、歌詞にすることだと思うんです。そういう意味では、愛はズボーンはブルースなんじゃないかと。
GIMAさんが書かれた「BARAO」はまさにそういう曲ですね。
GIMA
二十歳くらいに書いた曲でなんですけど、その時の自分には結構背伸びした曲になっていたので、歌えなかったんですよね。でも、本当のことを書いた曲ではあったし、今は背伸びをせずに地に足をつけて歌えるようになったので、今回のアルバムに入れることにしました。
クレジットが白井さんとGIMAさんのふたりなのは?
GIMA
当時のまま入れようとすると『TECHNO BLUES』には入らないと思ったので、この機会に編曲ごと作り直しました。
白井
メロディーや歌詞はめっちゃ好きやったので、僕は歌を邪魔しないようなアレンジを思い浮かべて作りました。
“今なら歌える”と思ったのは、GIMAさんの中で何が変わったからですか?
GIMA
カッコつけなくなったのが大きいです。僕はずっと何かになりたかったし、ずっと人からどう思われたいかを考えながら生きてきたんですよね。常に鏡を見て生活しているみたいな感じやったと思います。
GIMA
うん。無人島にひとつ持っていくなら鏡やった。でも、素でいることがアーティストとしても、ひとりの人間としても一番大事だと思えて、そういうのを考えなくなりました。それがブルースに出会ったタイミングでもありましたし、“あなたはあなただから、そのままでいい”と人に言えるようになったのも自分が素になったからです。それによって歌える曲が増えたのかなと。