黄金期のドゥービー・ブラザーズが、
最強のメンバーで創り上げた『スタン
ピード』!

70年代中期、アメリカンロックがAORやフュージョンに移行する直前、「まだまだ骨太のロックはあるぞ!」という希望を提示したのが本作だ。この後、グループの要であるトム・ジョンストンが体調を壊して休養を余儀なくされ、その代わりにマイケル・マクドナルドが加入、ドゥービーはAOR路線に転向し人気を博すことになる。トム・ジョンストン時代とマイケル・マクドナルド時代ではファン層が異なり、中年以上のおじさん達にとっては今でも、本作までが真のドゥービー・ブラザーズだと信じている人は多い。

ウエストコーストロックの頂点に君臨し
たドゥービー・ブラザーズとイーグルス

1975年は、アメリカのロック界にとって重要な年である。イーグルスの『呪われた夜』、フリートウッドマックの『ファンタスティック・マック』、リンダ・ロンスタットの『哀しみのプリズナー』、そして本作など、傑作とされるアルバムが次々にリリースされ、アメリカではウエストコースト・ロックの全盛期を迎えていた。もちろん、これらのアルバムは日本でも大きな話題となり、一般のリスナーにも一挙にアメリカ西海岸への注目が集まるようになった。それは音楽だけでなく、ライフスタイルにまで影響が及んでいた。車ならホンダのシビック(ウエストコーストのミュージシャンはホンダ好きが多かった)、ジーンズはリーヴァイス、パンハンドル・スリムやイーライのウエスタンシャツ、ジッポのライター、トニー・ラマのウエスタンブーツ、レッドウイングのワークブーツなどなど、ウエストコーストのミュージシャンたちがリリースするアルバムジャケットを丹念にチェックし、ブランドにまで(そんなに高くはないものが多かった)こだわった若者が巷にあふれていたものだ。急造のサーファーたちがアッと言う間に増えるのも、ちょうどこの頃からであった。
 
数あるウエストコーストロッカーの中でも、イーグルスとドゥービー・ブラザーズの人気は、日米を問わず圧倒的で、それが証拠に、どちらも翌年の76年に初来日公演を行なっている。僕は大学受験真っ最中の2月1日、イーグルスのコンサートに行き、グレン・フライの“We are Eagles, from Los Angeles !”という言葉にうっとりした記憶がある。当時は、それだけL.Aという場所に思い入れがあったわけで、それは僕だけではなく、多くの若者が同じだったのである。そういう時代だった。
アコースティックな感触とカントリーっぽい土臭さを聴かせるイーグルスと、ツインギター(トリプル時もあり)&ツインドラムスで、乾いた音で重たいロックを聴かせるドゥービー。両者のサウンドの違いはあったものの、どちらも好きだという人のほうが多かった。少なくとも、このふたつのグループ間で、阪神VS巨人のようにライバル視することはなかった。ドゥービーのほうがハードではあったが、実際には彼らもイーグルスのようなカントリー風味の曲が少なくなかったし、イーグルスもまた、ドゥービーのようなハードなロックナンバーを演奏していた。結局、ウエストコーストロックのファンは、西海岸のグループというだけで、どれも好きだったのだ。これは、その頃のウエストコーストロックのレベルが、相当高かったことの証しであると僕は思う。

メンバーの組み替えで最強のグループに

さて、ドゥービーの名盤を選ぶということで、デビュー盤から10枚ぐらいを聴いてみた。冒頭でも書いたように、僕の世代(少なくとも45歳以上)ではトム・ジョンストンがリーダーシップを発揮した、本作(5th)までが好き(もちろん例外の人もいるとは思うが…)なので、この中から選ぶことにした。そうなると、完成度の面からみて、3rdの『Captain and Me』(’73)か本作のどちらかが対象になるのだが、この2枚をよく聴くと、アルバムの充実度という点で、やはり本作に軍配があがると思う。『Captain and Me』には「Long Train Runnin’」や「China Grove」といったドゥービーを代表する2大ヒット曲が収められているし、カントリーロック風の佳曲「South City Midnight Lady」も収録されてはいる。しかし、本作『Stampede』のパワーは、やっぱりケタ違いにスゴいのだ。
その理由は、前作の『What Were Once Vices Are Now Habits(邦題:ドゥービー天国)』(’74)までゲスト参加していた、アメリカを代表するマルチプレーヤー、ジェフ・バクスターがグループの正式メンバーとなったことや、前作で脱退したドラムのマイケル・ホサックに代わって、これまた優秀なドラマー、キース・ヌードセンが合流したことで、これまで以上のパワフルなグルーブを生み出すことになったことが大きい。特にバクスターの加入で曲によってはジョンストンとのツイン・リードや、パット・シモンズとのトリプル・リードさえも可能となったわけだが、もともとコーラスには定評があった彼らが、演奏面で格段のスケールアップをしたことは大きな収穫となった。
残念なことに、本作リリース前にジョンストンの体調が悪くなり、マイケル・マクドナルドが加入、グループの音楽性はAOR路線へと一気にシフトすることになる。しかし、これは時代の要請でもあり、彼らだけの功罪でないことは確かである。
日本では、めんたんぴん、センチメンタル・シティ・ロマンス、ジプシー・ブラッドなどが『Stampede』までのドゥービー・ブラザーズに影響されていた。

『Stampede』について

本作がこれまでの作品と違うのは、前述した通り、アルバム全体にみなぎるパワーである。それまでの作品では、一見ラフでハードな演奏のように見えても、計算されてる感があって“こじんまりまとまっている”という印象が否めなかったのだが、本作はまるで新人ロッカーのデビュー作のように瑞々しい仕上がりになっている。
そして、これまた毎回のようにゲスト参加しているキーボードプレーヤーのビル・ペイン(リトル・フィートのメンバー)も、いつも以上に弾きまくっていて気持ちが良い。
他にも、スライドギターのライ・クーダー(名手であるが、音楽性が違うためドゥービーに参加するのは珍しい)、オールドスタイルの歌い回しが得意なマリア・マルダー、ホーンセクションやストリングスチームなど、豪華ゲスト陣が大挙参加し、いつも以上にサウンドの厚みが感じられる。
よく、ツインリード&ツインドラムという編成からか、サザンロックっぽいと評されることがあるが、その指摘は的外れだと僕は思う。確かにサザンロックを模範にした演奏をしている場合はあるものの、南部のバンドははもっと泥臭いルーツ寄りの音作りだ。それに比べて、ドゥービー・ブラザーズはどうひねって聴いても、西海岸ならではの明るい乾き切った音なのである。

『Stampede』の収録曲

収録曲では、『Captain and Me』に収録の「Long Train Runnin’」や「China Grove」のようなキラーチューンはなく、この2曲に匹敵するのは全米11位となったシングル「Take Me In Your Arms (Rock Me)」(モータウン・ソウルのカバー曲)ぐらいだろう。でも、そんなことは無視してもいい。なぜなら、アルバムとしての出来はご機嫌になるほど最高なのだから…。
 
1曲目は、ビル・ペインのイントロのピアノが文句なしにカッコ良い「Sweet Maxine」。ジョンストンらしい荒削りなヴォーカルと、メンバーのバシッと決まったコーラスは彼らならではの持ち味であるし、泥臭いホーンセクションとツインリードギターも素晴らしい。バクスターのスライドギター風ペダルスティールソロも効果的だ。
2曲目の「Neal's Fandango」も前曲のグルーブを引き継いで、ノリまくっている。ここではバクスターを中心にギターソロが展開するが、オールマンブラザーズバンドを手本にしたサザンロック風のテイストを醸し出している。
次の「Texas Lullaby」はミドルテンポではあるが、やっぱり身体が動いてしまうようなノリが継続。ペインのピアノとバクスターのペダルスティールがカントリーのテイストを巧く演出していて、これがウエストコーストロック特有のサウンドなのである。
4曲目の「Music Man」は「Long Train Runnin’」を思わせる曲で、ジョンストン得意のスタイルだ。カーティス・メイフィールドとニック・デカロによる、ホーンとストリングスのアレンジが秀逸!

LP時代、A面のラストになる5曲目「Slat Key Soquel Rag」と8曲目の「Précis」は、パット・シモンズがフィーチャーされたインスト。前作『What Were Once Vices Are Now Habits(邦題:ドゥービー天国)』所収の「Black Water」は、全米1位を勝ち取るが、フォークやジャグバンドスタイル(Wikipedia)の導入はシモンズのアイデアであった。どのアルバムにも、シモンズが主導権を握ったアコースティック感覚の作品が数曲収められているが、このフォーキーな香りもまた、ドゥービーの大きな特徴なのである。

そして、6曲目の「Take Me in Your Arms (Rock Me a Little While)」は、全米11位を獲得したカバー曲で、キャッチーなポップスをロックのリズムに乗せることで大ヒットした。ここでもバクスターのギターソロが光っている。ただ、ジョンストンのヴォーカルについて言えば、まだ骨太さを保っているものの、これまでのアルバムと比べると、少し線が細くなっているのは間違いない。おそらく、すでに体調が悪かったのであろう。
次の「I Cheat the Hangman」はシモンズらしい作品で、CSN&Yに影響されたコーラスと、トランペットソロを導入した幻想的な旋律が、アメリカンプログレのような趣きさえ感じる大作だ。
打って変わって、9曲目の「Rainy Day Crossroad Blues」は題名にもあるように泥臭いフォークブルースロック。ライ・クーダーのツボを押さえた絶妙なスライドギターは、いつ聴いても惚れ惚れする。曲の後半はスローになり、バクスターの味わい深いペダルスティールが実に効果的だ。
10曲目の「"I Been Workin' on You」は、ジョンストンお得意の黒っぽいロック。2nd『トゥールーズ・ストリート』に収録された大ヒット曲「Jesus Is Just Alright」タイプのナンバーで、ライヴ時には大受けすることで有名だ。
 そして、アルバムラストを飾る「Double Dealin' Four Flusher」も、スピード感にあふれた彼ららしいロックナンバー。ペインのピアノとエレピ、リードヴォーカルとコーラスのかけ合い、熱いリードギターなど、聴きどころは多い。
 
と、ここまで中年以上のおじさんたちを熱~くした『Stampede』を紹介したわけだが、若い人もぜひ大音量で本作を聴いてみてほしい。絶対に気に入ってもらえるはずなので、よろしく♪
なお、本作はビルボードで全米4位となり、ゴールドディスクも獲得している。

著者:河崎直人

OKMusic編集部

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