ジム・モリソンの世界が爆発するドア
ーズの1stアルバム『ハートに火をつ
けて』

今なお世界中の多くのアーティストに影響を与え続けているバンド、ドアーズ。彼らの攻撃的で神秘的で退廃的なロックは真似できようにもできない強烈な匂いを放っている。そしてジム・モリソンほど本来の意味での“カリスマ”という言葉が似合うヴォーカリストもいないだろう。そのことがドアーズ初心者にもダイレクトに伝わるのが1967年にリリースした1stアルバム『The Doors(邦題:ハートに火をつけて)』だ。

ドアーズの底知れない世界

誤解を怖れずに書けばドアーズはロックの王道とは離れた奇妙なバンドである。ジム・モリソンとレイ・マンザレク(Key)が1965年にUCLAの映画学科で出会ったことがきっかけで結成されたバンドなのだが、ジムは若いうちから詩を書いていたもののロックやブルースにはほとんど興味がなく、バンド経験もなかったという。そしてロビー・クリーガー(Gu)はもともとフラメンコに精通していたギタリスト。ジョン・デンズモア(Dr)はジャズがルーツのドラマー。独特のオルガンのフレーズで知られるレイ・マンザレクもクラシック、ジャズ、ブルースに影響を受けたミュージシャンだ。つまり、誰ひとり「ロックンロール! イエー!」みたいなテンションのメンバーは存在しない。チャック・ベリーやリトル・リチャードへの憧れからスタートしたローリング・ストーンズやビートルズとはまったく異なる資質を持ったバンドなのである。しかも、ドアーズにはベーシストが存在しなかった。これだけでもうある意味、アウェイなバンドだったと思う。
そんな異色のバンドではあったが、デビューして間もなく、人気が大ブレイク。1stアルバムに収録されている「ハートに火をつけて(Light My Fire)」はビルボードチャートのNO.1ヒットを記録する。身体にはりつくスリムな革パンに上半身、裸のジム・モリソンの写真を見たことがある人は多いと思うが、ジムは一躍、セクシャルなロックスターとして熱狂的な支持を得ることになる。
個人的には子供の頃に「ハートに火をつけて」や「タッチミー」などのヒット曲はラジオで耳にしていたが、アルバムを聴いたことがなかったし、ライヴ映像も観たことがなかったから、ジム・モリソンの色気のある声とオルガンの音が印象に残っていた程度で、背伸びしないと聴けない大人っぽい音楽という印象があった。のちに『ザ・ドアーズ』の1曲目を飾る「ブレイク・オン・スルー」を聴いて“こんなに衝動的な面を持ったバンドなのか!?”と衝撃を受けるのだが、ドアーズと言えば忘れられない思い出がある。20代前半、編集プロダクションで働いていた頃、彼らの音楽をかけたら、先輩の男性から「ドアーズは聴きたくない」と言われたのだ。「なぜですか?」という問いに彼は「このバンドを聴くと学生紛争の頃を思い出すんだよね。血の匂いがする」と答えた。当時、流行っていた音楽だったから、思い出したくない場面がフラッシュバックしてしまうということだったのだろう。その時代をリアルには知らないだけに驚いたが、実際、ドアーズを生んだアメリカではベトナム戦争時に兵士たちが彼らの音楽を好んで聴いていたそうだ。のちにフランシス・コッポラ監督による映画『地獄の黙示録』(1979年)に「ジ・エンド」が起用され、ドアーズ人気が再燃したので、そのタイミングで彼らに触れた人も多いと思うが、ベトナム戦争を描いたこの作品の撮影現場でスタッフが聴いていたのもドアーズの曲だったそうである。彼らの音楽は決して戦闘的ではない。なのに人間が血を流し、争う場面とリンクしたのは虚無感のようなものが流れているからなのだろうか。いや、本当にそうなのだろうか。ドアーズの残した音楽を聴きながら、そんなことを考えている。

1stアルバム『The Doors(邦題:ハート
に火をつけて)』

大ヒットを記録した「ハートに火をつけて」の約7分にも及ぶオリジナルヴァージョンが収録されている1stアルバム。個人的には「ブレイク・オン・スルー」と「水晶の舟」、「ジ・エンド」の3曲が収録されているだけでも、この作品は買いだと思う。まず、「ブレイク・オン・スルー」はイントロのリフとジム・モリソンのシャウトするヴォーカルにゾクゾクさせられる。3曲とも詩人の本領発揮のナンバーだと思うのだが《向こう側に突き抜けろ》というフレーズはロックミュージックの本質を見事に表しているのではないだろうか。ジムがどういう意図で書いたのかは分からないし、それは死後の世界を意味していたのかもしれないが、閉塞した状態(モヤモヤした気持ち)を蹴り飛ばして突き抜けることを促すことこそ、ロックという音楽がメッセージし続けていることではないかと思うとやはり、これは神曲である。ドアーズがのちにパンクロックに多大な影響を与えたことが一発で分かるのが「ブレイク・オン・スルー」である。そして、「水晶の舟」は《日々は輝き、同時に苦痛に満ちている》と歌う美しくもセンシティブなバラード。鍵盤のフレーズも切なさを倍増させ、ドアーズのロマンティシズムを浮かびあがらせる。ロビー・クリーガーがシタールのようなフレーズをギターで弾いている「ジ・エンド」は闇の中に吸い込まれていくような鳥肌モノのナンバーで、ジョン・デンズモアのドラムもドラマティック。蝋燭の灯りだけでレコーディングしたというエピソードが残されているが、この曲に漂う神秘的というか宗教的な空気感はワン・アンド・オンリーであろう。11分以上にも及ぶ演奏、ポエトリーリーディングに近いスタイルから空気を切り裂くシャウトへと移行するジム・モリソンのヴォーカルを聴いていると本当にどこかに連れていかれそうになる。
この3曲のみならず、のちにデヴィッド・ボウイもカバーしたクルト・ワイルの「アラバマソング」のカバーが収録されているところにもドアーズというバンドの趣向性が表れている。
なお、スターダムに登り詰めたのち、ジム・モリソンは酒とドラッグに溺れ、奇行が取りざたされるようになり、アルバム『LAウーマン』(1971年)をリリースした直後に、旅先のパリのアパートのバスタブで27歳という若さで死亡。ジミ・ヘンドリックスやジャニス・ジョップリンとともに若き天才アーティストの死は多くのリスナーに衝撃を与えた。この1stアルバムの頃からジムは死へと向かっていたというとらえ方もされているが、20代前半のロックアーティストが死と隣り合わせの感性で作品を作っているのは特別なことではないように思える。ジャケット写真もそうだが、彼の視線はいつも、どこか遠くを見ていた。ジム・モリソンが突き抜けたかった先、ハイウェイや蛇に乗って目指したかった地は“終わり”ではなく精神を解き放てる場所だった気がしてならない。

著者:山本弘子

OKMusic編集部

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