2枚組全23曲約2時間に渡る闇の桃源郷
ワールド!NINE INCH NAILSの名盤『
THE FRAGILE』!

今月待望の来日が決定したNINE INCH NAILS。最新作『Hesitation Marks』を聴き込んでいる熱心なファンも多いことだろう。作品数も多い彼らだが、ここでは傑作『THE DOWNWARD SPIRAL』に勝るとも劣らない『THE FRAGILE』(1999年発表)を取り上げたい。個人的にはALICE IN CHAINSの2ndアルバム『DIRT』に通じるクセと魔力を秘めたメロディーを持つ名盤である。

 豪雨と稲妻を呼ぶ男・トレント・レズナー。この例えにピンと来る日本のファンは多いことだろう。4年前の『SUMMER SONIC 2009』、そして、昨年の『FUJI ROCK FESTIVAL 2013』でNINE INCH NAILSのステージが始まるや空が異変し、尋常じゃない雨に加え、夜空に雷が閃光を放ち、そのたびに観客がドッと沸く。これも演出の一部かと勘繰りたくなるほど、演奏と天候がもたらす相乗効果でライヴそのものを劇的に盛り上げ、個人的にも忘れられぬショウになった。しかもそれを二度引き起こすなんて、ミラクル以外の何者でもない。今年2月末(もうすぐ!)に来日を控えているNINE INCH NAILS。今回は野外ではないが、何かしらのサプライズが起きるかもしれない。
 前置きが長くなった。ここでは個人的に彼らのお薦め盤を選出したい。一般的には『THE DOWNWARD SPIRAL』(1994年発表)が代表作であり、もちろんそちらも必聴の傑作だ。しかし、その後に発表された2枚組の大作『THE FRAGILE』を激しく推したい。トレント・レズナーはアメリカはペンシルベニア州で生まれ、5歳の頃からクラシックピアノを習い、人間関係を築くのが苦手、いや、人間嫌いで内向的な性格だった。優秀なアーティストにその手の人は多く、だからこそ、独自の音楽が形成されるのかもしれない。
 前作『THE DOWNWARD SPIRAL』は破壊衝動にまみれた爆発力とナーバスな電子音がせめぎ合い、トグロを巻くようなビリビリした緊張感が渦巻いていた。それに対して、『THE FRAGILE』はプログレッシヴロックバンド、YESの4thアルバムと同名の表題が物語るように、“こわれもの”となった断片を集めてパッチワーク的に繋げ、未開の、広大な、新天地に降り立った趣を備えている。もともとピンク・フロイドの『THE WALL』、デヴィッド・ボウイの『LOW』を聴き、加えてビートルズの『WHITE ALBUM』にも興味を持ち始めたトレントの音楽的嗜好性がこのアルバムで開花した印象を受けるのだ。
 前作と比較すると、圧倒的に重く、暗く、沈鬱としたムードが漂っている。だが、プレグレッシヴロックに通底する深みのある音色やストーリー性を感じさせ、2枚組全23曲という大ボリュームにもかかわらず、途中でダレることなく一気に聴けてしまう。DISC1(LEFT盤)の5曲目「WE'RE IN THIS TOGETHER」や、DISC2(RIGHT盤)の6曲目「STARFUCKERS,INC.」のようなキャッチーな楽曲も収録され、前作の反動なのか、トレント自身は次のアルバムはポップでメロディアスな方向に進むことをおぼろげながら考えていたらしい。
 必ずしもその通りになったかは本人にしか分からないところだが、誤解を恐れずに言えば、とても聴きやすい音源に仕上がっている。特にメロディラインが素晴らしい。その理由のひとつに彼にしか紡げない陰りと湿り気を帯びた音色が、儚げに、ゆらゆらと、力強く鳴り響いている。内側を向いたまま、外側へ開放されたような伸び伸びとした曲調が多い。作品としては難産を極めたようだが、その苦悩の果てに桃源郷に辿り着いたような崇高な世界感に満ちあふれている。その意味ではNINE INCH NAILSを普段聴かない人こそ是非聴いてほしいアルバムだ。大作ゆえにそれなりに作品と向き合う時間は必要になるかもしれないが、ページを一度めくってしまえば、続きがどんどん気になってしまう良質な読書体験に似た興奮を覚えることだろう。

著者:荒金良介

OKMusic編集部

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