タイタニックの
沈没事故から歌が生まれ、
ポピュラー音楽の側面が見えてくる

『Ernest V Stoneman: Unsung Father Country 1925-34』('08)/V.A.、『People Take Warning: Murder & Disaster Songs 1913-1938』('07)/V.A.

『Ernest V Stoneman: Unsung Father Country 1925-34』('08)/V.A.、『People Take Warning: Murder & Disaster Songs 1913-1938』('07)/V.A.

カナダのニューファンドランド島沖の大西洋で起こった海難事故。沈没したタイタニック号を見るために探検ツアーで乗り込んだ潜水艇タイタンが潜水後に連絡が途絶え、決死の捜索も虚しく、発生から4日後(6月22日)に海底で水圧で破壊された状態で発見され…というものだった。事故からちょうど1カ月ほどが経つ。災害、災難の悲惨な記憶は日々更新され、話題に上らなくなっていくものだけれど、事故に遭われた方々には心よりご冥福をお祈りし、二度とこうした事故が起こらないことを願うばかりだ。

実は正直に白状すると、この事故の一報を目にした時、不謹慎かもしれないが「昔なら、これもまた歌になってヒットしただろうな」と思ってしまったのだ。沈没船を見に行った潜水艦が、また沈没した…というか今度は浮上しなかった、という顛末は、先に沈んだタイタニック号の事故もあわせ、格好の「災難バラッド」ネタだ、というわけである。実は、あの有名なタイタニック号が沈没したのは今から111年前の1912年の4月14-15日のことだったのだが、この災難はいくつもの歌を生むきっかけになった。

今回はこの、タイタニック号の沈没事故をモチーフにしたヒット曲「The Titanic」を歌ったアーネスト・ストーンマンと、こうした「災難ソング(バラッド)」とポピュラー音楽の成り立ち、因果関係について触れてみようと思う。ご紹介するのはストーンマンのコンピレーションCD『Ernest V Stoneman: Unsung Father Country 1925-34』と『People Take Warning: Murder & Disaster Songs 1913-1938』だ。
※20世紀前半に書かれたマーダー・バラッド、災害ソングばかりを集めたもの。ヒルビリーからブルースまで、アーティストは多岐に渡っている。対機械(事故)、対自然(災害)、人間対人間(殺人)と、非常にわかりやすくカテゴリーに分けられている。

事故直後から、
それを題材とした歌が作られ、
ヒットする

1912年頃というのは、もちろんテレビ放送など始まっていないし、ピッツバーグで開局された初の民間向け放送局KDKAがラジオの放送を開始するのでさえ1920年のことである。民衆が事故を知るのは新聞だったのだろうか。それが口火を切るように、マスコミが飛びつく、というのは昔も今も変わらないが、事故から1カ月後には早くも『Saved From The Titanic』(1912年5月)という劇映画が公開されたのをはじめ、先を競うように米国だけでなく、ドイツ、イタリア、フランスでもサイレント映画が公開される。1997年制作の例の大ヒット映画以前にも、事故直後から何作も映画が作られていたのだ。そして、音楽業界も、ほとぼりが冷めないうちから、事故を歌ったレコードが矢継ぎ早に制作され、発売されたという。いやはや商魂たくましいというか…。テレビもラジオもない時代、伝えなければ、という報道の意義も少しはあったのだと思いたいが、根底には好奇がまさる人間の本性に対する需要と供給という、露骨(正直)な構図が見てとれる。

タイタニックを題材とした歌は事故直後のみならず、その後も多くのアーティストによって作られ、ウディ・ガスリーやレッドベリー、ピート・シーガー、ニューロストシティ・ランブラーズ…などのアーティストが活躍する60年代になってもカバーされたり、またオリジナルが作られたりしている。

今回のアルバムとしてピックアップしたアーネスト・ストーンマンのCDは彼の最初期の1925年から1934年にかけてのレコーディングを中心に集めたもので、「The Titanic」も収録されている。レコード(SP盤)はタイタニックの事故から12年後の1924年に録音され、実数は把握できていないが、大ヒットしたとされる。ストーンマン自身にとってもデビューシングルがいきなり生涯最大のヒット作になったのである。
※CDにはヒット曲製造機みたいな、ストーンマンの巧みなソングライティング、滋味豊か、といいたくなる味わい深い演奏がたっぷり味わえる。録音こそ古いが、歌、演奏センスは今でも十分に通用する。

♬それは月曜日の午前1時頃だった、
 タイタニック号が揺れ始めると
 人々は、”主よ、私は死にます “と叫んだ

 あの大きな船が沈んだ時は悲しかった

 あの大きな船が沈んだときは悲しかった
 夫や妻、小さな子供たちが命を落とした

 あの大きな船が沈んだ時は悲しかった…

Ernest V. Stoneman-The Titanic 1924

4番まであるうちの冒頭のパートのみ訳してみたが、ストーンマンの作った、誰でもすぐに覚えられそうなシンプルなメロディーに、史実をもとにした物語仕立ての詞(バラッド)、感情に訴える印象的なフレーズをリフレインさせた構成は、ゴスペルや讃美歌のようでもあり、それは今にして思うが現代のポップスにも通底する、巧みなつくりである。

OKMusic編集部

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