奥深い歌声で世界を魅了した
ナタリー・マーチャントの
ソロデビュー作『タイガーリリー』

『TIGERLILY』(’95)/Natalie Merchant

『TIGERLILY』(’95)/Natalie Merchant

ここのところ、女性を中心に大きな人気を博しているあいみょん。彼女は先進的な音作りをしているわけではないが、人間を観察する冷静な洞察力と類稀なる魅力的な歌声で、普遍的な作品を生み出していると言える。音楽性は違うものの、歌詞の特異性と歌声の素晴らしさという点で似ているのがナタリー・マーチャントだ。80年初頭からインディーズの10,000マニアックスに参加、93年にグループを脱退し、95年にソロデビュー作をリリースする。それが今回紹介する『タイガーリリー』で、アメリカでは500万枚以上のセールスとなった。彼女の代表作とも言える「ワンダー」や「カーニヴァル」を含む本作は、あいみょんの諸作と同じように、時代を問わず聴ける普遍的なサウンドを持った傑作である。

カレッジ・メディア・
ジャーナル(CMJ)

アメリカではメジャーのチャート(例えばビルボードなど)とは違う尺度で人気度を選出する『カレッジ・メディア・ジャーナル』(CMJ)という雑誌がある。これは、全米にネットワークされた大学のラジオ局を通して、リクエストやオンエア率などから、先進的な音楽ファンの学生たちが好む新しい音楽を紹介する雑誌で、セールスや知名度などとは無縁なだけに、メジャーのランキングとはまったく違う結果になるのが面白いところ。CMJのチャートではオルタナティブ系ロック、カントリー、フォーク、ワールドミュージックなど、インディーズからメジャーまでの種々雑多な音楽が紹介されている。90年代オルタナティブロックの隆盛はCMJのチャートが発端となっており、REM、ソニック・ユース、ニルヴァーナなどはCMJが生み出したスーパースターであるし、少年ナイフ、ボアダムズ、ザ・ブルーハーツなど日本のグループに大きな注目が集まったのも、CMJがその端緒であった。また、オルタナティブカントリーやアメリカーナといったジャンルは、CMJなしではきっと表面化しなかったであろう。

10,000マニアックスとスザンヌ・ヴェガ

ナタリー・マーチャントが在籍したオルタナティブ・フォークロックグループの10,000マニアックスは81年に結成され、彼女の知的で深遠な歌声がCMJチャートで注目を浴び、86年にはメジャー契約を果たす。グループは順調に活動を続け、89年の4thアルバム『ブラインドマンズ・ズー』は全米13位(ビルボード)、全英18位まで上昇している。この時期にはマーチャントはリードヴォーカルだけでなく、ソングライティングでも頭角を現し、ソロでの活動を望むようになる。

おそらく、マーチャントの中ではスザンヌ・ヴェガの存在が大きかったのだろう。シンセサイザーと打ち込みで幕を開けた80年代のポピュラー音楽シーンにあって、85年に生ギターの弾き語りでデビューしたスザンヌ・ヴェガは古くて新しいシンガーソングライターであった。デジタル機器の進歩のみが大きく取り上げられ、“歌”の力が軽視されていたかのような80年代に、ギター1本で自分の言いたいことを語るのは難しかったはずだが、スザンヌはしっかりと自分の立ち位置を獲得した。87年には幼児虐待のことを歌った「ルカ」をリリースし、新たな社会派シンガーソングライターの旗手として全世界にその名が知れ渡ることになる。マーチャントもスザンヌのようにグループの一員としてではなく、自分の言いたいことを自分自身で語りたいと思ったのだろう。そして、93年に10,000マニアックスを脱退し、ソロ活動に専念するのである。

OKMusic編集部

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