エイジアのデビューアルバム
『詠時感〜時へのロマン』は
プログレの再評価につながった
記念すべき一作

一部のマニアックなファンのみに愛好されていた感のあるプログレッシブロックは、70年代の前半までは一般リスナーにも愛されていた。しかし、AORやパンクロックが登場した70年代中期以降は、「難解だ」「曲が長い」などの理由で徐々に衰退していく。80年代になってテクノやハウスなどのデジタル音楽が注目を集めるようになる中、プログレの再起をかけてエイジアが誕生。一般のリスナーにも愛される、新時代のプログレ作品として本作をリリースしたのである。

バグルスとMTV、エイジアの結成

バグルズのデビュー作「ラジオスターの悲劇」('79)は、エレクトロポップ(Wikipedia)の先駆けとして全英1位を獲得し、世界的に注目された。このグループの中心メンバーとして活躍したのが、ジェフ・ダウンズ(「ラジオスターの悲劇」をヒットさせた翌年イエスに加入、その後エイジアを結成)とトレヴァー・ホーン(ダウンズと一緒にイエスに加入、その後ZTTレーベルで一世を風靡する)の2人である。81年、MTVの放送が開始され、記念すべき最初のオンエアがバグルスの「ラジオスターの悲劇」であった。これは、当時のバグルスが、いかに時代の最先端であったかがよく分かるエピソードだと思う。

ホーンとダウンズはイエスに移籍するが、長くは続かず、先にホーンが脱退、その後イエスは活動停止に追い込まれる。イエスの天才ギタリスト、スティーブ・ハウは、キング・クリムゾンやロキシー・ミュージックなど、数多くの大物グループを渡り歩いたベーシストのジョン・ウェットンと出会い、新グループの結成に向けて準備することになる。結局、ハウを介して盟友ダウンズも合流し、エイジア結成へと動き出す。当初、グループのドラマーは、ホワイトスネイク、ゲイリー・ムーア、ジェフ・ベックなどのバックを務め、セッションマンとしての高い実力を知られていたサイモン・フィリップスであったが、元EL&Pのカール・パーマーに替わり、デビューアルバムの制作をスタートさせるのである。グループのサウンドイメージはダウンズが中心となり、曲作りにおいては、ウェットンとダウンズが中心で進められることになった。

エイジアのサウンド・メイキング

エイジアのサウンドコンセプトは“誰にでも分かりやすいプログレ”なのだが、70年代の終わりから80年代初頭にかけてシンセサイザーがめざましい発展を遂げ、ポピュラー音楽の世界は大きく変わろうとしていた。この時代、過激なものからポップなものまで、これまでにない種々雑多なロックが生まれつつあった。テクノ(Wikipedia)、ハウス、ニューウェイブ、エスニックミュージックなど、その多くが電子楽器(デジタルシンセサイザー)を駆使したものであり、おそらくダウンズは“これらの音楽は新時代のプログレではないか”というような印象を持ったに違いない。面白いのは、ダウンズと並んでバグルスの中心メンバーであったトレヴァー・ホーンも、同じようなスタンスであったことだ。

復活したイエスが、ホーンをプロデューサーに迎えて83年にリリースしたアルバム『90125』は、エイジアのデビュー盤よりも後でリリースされているが、同盤からシングルカットされた「Owner Of A Lonely Heart」は、それまでのイエスとはまったく異なる、ポップでダンサブルな要素を前面に押し出した作品で、ビルボードチャートで1位を獲得するなど、それまでのイエスでは考えられなかった結果を生み出した。この後、ホーンはZTTレーベルを立ち上げ、アート・オブ・ノイズやフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドなど、ヒット作を次々に生み出す名プロデューサーとして認められていく。ダウンズもホーンも、時代の流行を敏感に嗅ぎ取る能力に長けていたことはもちろんだが、この時期に音楽機器が大きな進化が遂げたことも、彼らの目指す音楽を創造する上で重要なファクターであったと思う。

エイジアの黄金期

さて、話は前後するが、満を持して82年に発表されたエイジアの記念すべきデビューアルバム『ASIA』(本作)は、プログレ愛好者(むしろプログレ愛好者には「こんなものはプログレではない」という人も多かったが…)だけでなく、彼らの思惑通り、一般のリスナーに絶大な支持を得た。ただ、彼らの活動は長期にわたっているので、どのアルバムから聴き始めれば良いのか、悩む人も多いだろう。しかし、エイジアの黄金期は、本作から3作目までだと僕は断言する。なぜなら、ウェットンのベース&ヴォーカルと、ダウンズのキーボード、そして彼ら2人の共作となる楽曲群こそがエイジアの魅力であるからだ。そういう意味では、本作を含む初期の3作と、彼ら2人がエイジアに復帰した、2012年以降に注目すべきだと思う。特に、今回の来日公演は、ギタリストこそハウからサム・クールソンに替わっているものの、ウェットン、ダウンズ、パーマーというオリジナルメンバーの3人がいるので、大いに期待できるはずだ。

本作の収録曲について

本作に収録された冒頭の2曲「Heat Of The Moment」「Only Time Will Tell」は、どちらも名曲中の名曲で、エイジアの代表曲の筆頭に挙げられる楽曲だ。この2曲については、こちら(http://okmusic.jp/#!/news/41659)を見ていただきたい。
3曲目の「Sole Sourvivor」は、エイトビートのメロディアスなナンバーだが、シンセによる多重オーケストレーションにより、出てくる音がやたらに重厚で、さまざまなリフが折り重なるように聴こえる。この曲もダウンズの几帳面な性格が出た、緻密さに満ちた名曲だ。ハウのギターはあまり前面には出てこないので集中しなくてはいけないが、よく聴くとシンコペーションの効いたフレーズやカントリー風のフレーズまで、実にカッコ良く決めている。哀愁を帯びたプログレハードロックといった風情。
4曲目まできて、ようやくひと息つける気がするほど、冒頭の3曲は強力なナンバー(3曲ともウェットンとダウンズの共作)ばかりだった。この「One Step Closer」は、覚えやすくてユーモラスなイントロが面白い。コーラスを重視したヴォーカルを中心に、ストレートなリズムに乗って、各種シンセがタペストリーのように絡んでいく。サビはAORっぽいメロディーだ。ハウはここでもカントリーっぽいフレーズを隠し味的に使っている。
5曲目「Time Again」は、70年代プログレを彷彿させるドラマティックなナンバー。重いシャッフルのリズムがパワフルで、そこに美しいコーラスと、メンバーそれぞれのテクニックがちりばめられている。この曲は4人の共作だが、メンバーそれぞれの見せ場が設けられているので、4人の共作には納得!
次の「Wildest Dreams」は、曲自体は普通のポップス的なメロディーを持っているのだが、凝った構成と変わったコーラス(合いの手?)のゆえに、一風変わった印象を味わえる。ブレイク部分はパーマーの独壇場で、叩きまくっている。ライヴで演奏すると映える曲だと思う。
7曲目の「Without You」はバラード曲だが、パーマーの出すリズムが硬めのエイトビートなので、あまり静かな印象は受けない。中盤からは複雑な構成に転じ、切れ味は鋭いけれども荒涼感を含んだクールなサウンドが味わえる。
続く「Cutting It Fine」は、英国プログレバンドらしい叙情性を持つナンバー。ハウのハードなギターリフに、ダウンズの多くのキーボードプレイがかぶさる、ある意味で最もエイジアらしい楽曲かもしれない。2曲目の「Only Time Will Tell」のイントロでも使われている、ファンファーレのようなシンセ音は、現在では幾分大げさに聴こえるかも…。覚えやすいリフとメロディーを持つ曲だが、後半のアウトロ部分はプログレ色で占められ、ここでもダウンズのシンセが大活躍している。
そして、アルバムの最後を飾るのは「Here Comes The Feeling」。アルバム中、一番長い曲(5分42秒)である。かなりのポップ感にはあふれているのだが、後半になると、少しこねくり回しすぎた感が否めない。テレビ番組『ベストヒットUSA』のテーマ曲とよく似ていると思われるかもしれないが、この曲想は先にエイジアが創り上げたスタイルである。
こうやって本作をじっくり聴いてみると、一般リスナーに理解してもらえるように、さまざまな工夫がされていることが分かる。個々のメンバーの演奏の繊細さや緻密さはもちろん、シンプルなリズム、ドラマティックでキャッチーなメロディーなど、誰でもが理解できるロック作品として巧みに作られていて、82年の年間アルバムチャートでは1位に輝いた。デビュー作にして彼らの代表作と呼べるのが、本作なのである。プログレが苦手な人でも大丈夫なので、ぜひチャレンジしてみてほしい♪

著者:河崎直人

OKMusic編集部

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