クラプトンの最高傑作とも言える
渾身の力作『いとしのレイラ』

ビートルズ解散後、ロックの向かう方向を50年にわたって導き続けたエリック・クラプトン。彼の経歴の中でも大きな転機となった、デレク&ザ・ドミノズのアルバム『LAYLA and other assorted love songs』('70)について、今回は語ってみたい。

これからクラプトンを聴いてみようとい
う人には、おススメ

 クラプトンのようなミュージシャンについて、“名盤を1枚を挙げるとしたら?”と問われても、これは無理な相談というものだ。1963年から2014年の現在までの半世紀にわたる活動で、単純にソロ名義でリリースされたアルバムだけでも20枚以上ある。これにバンド名義や各種ライヴアルバム、ゲスト参加まで含めると、これまでにリリースされたアルバムは膨大な数だ。また、彼の音楽スタイルは、時代や参加したグループによっても大きく変わるため、妄信的なファン以外は、“クリーム時代のクラプトンが最高!”“ブルースに復帰した90年代が好き♪”“70年代中期のレイドバック時代が良い”など、キャリアのどこか一部分を愛する“限定愛好家”みたいなパターンが、どうしても多くなってしまうのだが、これは仕方のないことである。
 では、これからクラプトンを聴いてみたいという人に対して、何を勧めれば良いだろうか…。スーパーギタリストとしてのクラプトン、ヴォーカリストとしてのクラプトン、ソングライターとしてのクラプトン、ブリティッシュロッカーとしてのクラプトン、アメリカンロッカーとしてのクラプトン、ブルースマンとしてのクラプトンなどなど、それらが詰め込まれた作品はあるのか、と考えてみる。“武道館のライヴを収録した2枚組の『Just One Night』('80)も名作だが、ちょっと小ぶりな気がするなぁ”とか“彼の敬愛するザ・バンドのメンバーをゲストに迎えた『No Reason To Cry』('76)は確かに名作ではあるけれど、少し地味かな”…などと悩みながら、彼の長期にわたるキャリアが総括できる作品として、デレク&ザ・ドミノズの『LAYLA and other assorted love songs』に落ち着くことになった。

アメリカのロックに目覚める

 60年代末、世界最高のギタープレーヤーとしてクリームに在籍し、全世界のロックファンを魅了していたクラプトンは、デビューしたばかりのアメリカのグループ、ザ・バンドのアルバム『Music From Big Pink』('68)を聴き、これが自分の探し求めていた音楽だと考え、クリームを解散(メンバー間の対立も激化していた)する。その後、新たにスティーヴ・ウインウッドやリック・グレッチ、ジンジャー・ベイカーらと“ブラインド・フェイス”を結成し、ザ・バンドに影響された名曲「Presence Of The Lord」を収録した唯一のアルバム『Blind Faith』('69)を発表する。そしてアメリカに渡り、ツアーを行なうのだが、前座に起用したデラニー&ボニーの音楽に魅せられ、彼らと行動をともにするようになる。デラニー&ボニーは、当時のアメリカンロック界では最高のグループのひとつで、クラプトンも参加したライヴ盤の『On Tour』('70)は、スワンプロックの名盤だ。

デレク&ザ・ドミノズの結成

 この時、クラプトンとともにバックを務めたベーシストのカール・レイドル('80年逝去)、力強いヴォーカルで定評のあるキーボードプレーヤー、ボビー・ウィットロック、ドラマーのジム・ゴードン(母親殺しで、現在も医療刑務所に収監中)らとデレク&ザ・ドミノズを結成する。クラプトンにとっては、アメリカ出身のミュージシャンたちと演奏するのが憧れであったし、事実この『LAYLA and other assorted love songs』を作り上げたことは、クラプトンの大きな転機となった。この作品以降、彼のサウンドの根底を支えるスワンプロックやカントリーロックといったテイストのベースともなるのである。
 また、オールマン・ブラザーズ・バンドを率いる名ギタリストのデュアン・オールマンのゲスト参加はすごいインパクトだった。デュアン・オールマンは、アメリカのロック界において、当時も今も最高のギタリストである。余談だが、今をときめくスーパーギタリストのデレク・トラックスは、当初デュアン・オールマンのそっくりさんとして認められたぐらいなのだ。要するに、オールマンのコピーをするだけでも神業だということ。彼の名前は、デレク&ザ・ドミノズのデレクから命名されており、一時期はクラプトンのバックも務めていた。

アルバム収録曲解説

1.「 I Looked Away」…クラプトンのハーモニクス奏法がロビー・ロバートソンみたいで、思わずニヤリとする。以降のクラプトンにも見られるメロディーの美しい名曲だ。クリーム時代には見られなかった“軽さ”と、クラプトンのよく歌うギタープレイも、この時期に確立されたものだろう。ボビー・ウイットロックのヴォーカルサポートが絶妙。
2.「Bell Bottom Blues」…冒頭2曲の、この完成度の高さはすごい。「 I Looked Away」と双璧をなす仕上がりだが、こちらのほうがブリティッシュロックの味付けがあって、若干重たいサウンドになっている。妻であったパティ・ボイドを奪い取ってしまうことになるものの、仲の良かったジョージ・ハリソンからの影響が感じられる。
3.「Keep On Growing」…“うん? これデラボニ(デラニー&ボニー)そのものじゃね?”みたいな感じ。カール・レイドルの弾むようなベースは、アメリカ南部出身ならではのカッコ良さ。この曲の後半で、デュアン・オールマンが初登場すると、ゆるめのギター合戦に突入。これぞ“レイドバック”サウンドなのだ♪
4.「Nobody Knows You(When You're Down And Out)」、7.「Key To The Highway」、10.「Have You Ever Loved A Woman」…これら3曲は、クラプトン得意のブルースのカバー。おそらく、セッション感覚で楽しみながら録音しているのだろうが、デュアン・オールマンの存在が緊張感を高めているのは間違いない。特に「Have You Ever Loved A Woman」では、クラプトンのヴォーカルもギターもいつも以上にタイト!
5.「I Am Yours」…アンプラグド時代にもつながるアコースティックな感覚で演奏される佳曲。オールマンのスライドがカントリー風で、やさしい雰囲気を醸し出している。
6.「Anyday 」…デュアン・オールマンのギターの職人技が堪能できる曲で、サザンロックっぽい仕上がりになっている。結構、緊張感あふれる仕上がりで、この曲に関してはレイドバックしていないところが斬新だ。
8.「Tell The Truth」…クラプトンの代表曲のひとつだが、デュアン・オールマンのスライドが光っているだけに、他のバージョンとはやっぱり違う。何度聴いても新たな発見があるが、素晴らしいのは極上の味わい深さ。ウイットロックに負けじと頑張っているクラプトンのヴォーカルも、枯れてて良い♪
9.「Why Does Love Got To Be So Sad? 」…ズバリ、名曲だと言い切ってしまおう。演奏は結構粗いところがあるのだが、僕はこれがアルバム中ベストかもしれない。デュアン・オールマンのギターが珍しくルーチンワークにはまってて、ちょっと残念。クラプトンのギターも消化不良気味だし、ノリも悪いし…オーバーダビングのせいかなぁ…でも好きなのだ。
11.「Little Wing」…ジミヘンの名曲をカバーしたもの。アレンジが少し古くさいのと、演奏も派手(特にドラム)で、このアルバムの中では浮いてしまった感が拭えない。ギターのミストーンもそのまま。おそらく一発録りで、セッションとして録音したものを使ったのだろう。この曲を収録した理由は、このアルバムの製作途中でジミヘンが亡くなってしまうからである。
12.「It's Too Late」…これは、古いR&Bのカバー。この曲も少し浮いた感じが否めない。でも短いし、次の「Layla」の導入部分として考えれば、全然問題はない。
13.「Layla」…実によくできた曲である。演奏もヴォーカルも文句なし、デュアン・オールマンのスライドは神がかってさえいる。よく、“後半のピアノ部分は必要?”っていう意見があるけど、オールマンのスライドが前半から続いてるからか、不思議と違和感はない。ブッカーT&プリシラ・ジョーンズのアルバム『Chronicles』('73)に「Time」という曲が収録されているのだが、「Layla」の後半部分とそっくりのメロディーが聴ける。機会があれば聴いてみてほしい。蛇足だが、“Layla”とはジョージ・ハリスンの妻であり、クラプトンと恋に落ちたパティ・ボイドのことである。
14.「Thorn Tree In The Garden」…アルバムを締め括るのは、叙情的なナンバーで、ヴォーカルと作詞作曲はボビー・ウイットロック。「Layla」で興奮してしまい、この曲を覚えていない人も少なくないと思うが、それでいいのだ、きっと。これ、興奮した気持ちを癒すために用意されている曲だと思うんだよね…え、違うの?

当初は売れなかった

 このアルバム、事情はよく分からないが、リリース当初はまったく売れなかった。ところが1年以上経過した72年になって「Layla」がシングルカット(遅いし…)されると、今度は驚くほど売れた。今では、ロック史上に残る名盤だという評価は確定しているが、売れる、売れないの違いって、案外そんなものかもしれない。
 売れるとか売れないにかかわらず、自分の耳で良い音楽を探していってほしい。

著者:河崎直人

OKMusic編集部

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