切ないメロディーと
儚げなヴォーカルが
リスナーの心を打つ
ジェイホークスの名作
『ハリウッド・タウン・ホール』

『Hollywood Town Hall』(’92)/The Jayhawks

『Hollywood Town Hall』(’92)/The Jayhawks

90年代初頭、アメリカのロック界に登場したのがオルタナティブカントリー(以下、オルタナカントリー)と呼ばれる音楽で、これはパンク世代の若いミュージシャンが自分たちの音楽を表現するために方法論的にカントリーを取り入れたものであり、もちろんそこにはパンクロックが持っていたアナーキーな精神が包含されていた。今回紹介するジェイホークスは厳密に言えばオルタナカントリーのグループではないが、オルタナカントリーのムーブメントの中から登場してきたことは確かである。彼らのメジャーデビュー作『ハリウッド・タウン・ホール』(‘92)は70sフォークロックやカントリーロックをベースにした音楽性を持ちながらも、90sのオルタナティブらしさを感じさせる紛れもない傑作である。主要メンバーのマーク・オルソンとゲイリー・ローリスの手になる切ないまでに美しい楽曲群と、グラム・パーソンズ&エミルー・ハリスを想起させる彼らふたりの青臭いツインヴォーカルが実に素晴らしい。

パンク、ニューウェイブ、テクノから
ペイズリー・アンダーグラウンドへ

50年代終わりから60年代にかけて、ロックは一般大衆の若者たちに支持された。しかし、70年代半ばになると成熟を迎え、技術にしても楽曲の質にしても高度なものとなっていく。そんな時に現れたのがパンクロックであった。70年代半ばにパンクロックが市民権を得たことで、若者たちのロックに対する意識はそれまでとは変わっていった。それは、“拙い技術でもロックが演奏できる”ということだ。ポストパンク時代になると世界中でガレージバンドが急増し、演奏しやすいこともあって60年代のフォークロックやサイケデリックロックが再評価される。

80年代に入るとデジタル機器の普及が進み、ポピュラー音楽の主流はテクノやディスコ音楽へと変わっていくが、そんな時でも多くのガレージバンドはパンクロックの精神を忘れず、人力演奏でライヴをこなしオリジナル曲を作っていた。まず結果を出したのは、ジョージア州アセンズ出身のR.E.Mだろう。80年にインディーズデビューした後、バーズやヴェルヴェット・アンダーグラウンドの音楽を範として、パンク的な要素も併せ持っていたのである。デビューして間もなく大手レーベルへと移籍し、その後はCMJ(カレッジ・メディア・ジャーナル)の後押しもあり、若者たちの圧倒的な支持を集める。80年代は一般的(大人)な知名度と、ファン(若者)の知名度の差が大きくなった時代でもあって、最初のうちR.E.Mはビルボードなどメインストリームのチャートには登場しなかったが、CMJのチャートではいつも上位にいるという音楽産業の「ねじれ状態」を経験したグループだ。彼らと同じような立ち位置にいるアーティストたちのことを、いつしかオルタナティブロッカーと呼ぶようになる。R.E.Mと同じくアセンズ出身の人気グループとしては、B-52’sやラブ・トラクターなどがいる。

オルタナティブロックの動きは、アメリカの他の地域でも見られる。特によく知られているのは、L.Aのペイズリー・アンダーグラウンドと呼ばれる動きで、ロング・ライダース、グリーン・オン・レッド、ドリーム・シンジケート、レイン・パレードなどが知られている。中でもロング・ライダースは、綴りが“Long Ryders”で、バーズ(Byrds)への想いがひときわ強いグループだ。このグループのリーダーで音楽オタクでもあるシド・グリフィンは、1985年にグラム・パーソンズの伝記を出版しており、この本が当時オルタナティブフォークやオルタナティブカントリーロックのグループを激増させるきっかけのひとつになった。

セントルイスとミネアポリスの
ミュージックシーン

ミズーリ州セントルイスには、R.E.Mのピーター・バックにも影響を与えたアンクル・テュペロがいた。デビューアルバムの『ノー・ディプレッション』(‘90)がCMJで絶賛され、ライヴチケットは入手困難になっていた。彼らは前述したアーティストよりも古いカントリーとパンクをベースに新たな音楽を生み出す。オルタナカントリーというジャンルが成立したのは、アンクル・テュペロの存在が大きいのだが、それは彼らのサウンドを範にしたグループが次々に登場してきたからである。アンクル・テュペロは94年に解散後、サンヴォルトとウィルコの2グループに分裂し、90年代から21世紀にかけてオルタナティブロックシーンをリードする存在となっていく。主要メンバーのジェイ・ファーラーとジェフ・トゥイーディーは、ジェイホークスのマーク・オルソンとゲイリー・ローリスとよく似た存在で、彼らはよきライバルでもあった。

そして、ミネソタ州ミネアポリスには大スターのプリンスをはじめ、後に「Runaway Train」(‘93)の世界的ヒットで知られるソウル・アサイラム、ハニー・ドッグス、リプレイスメンツ、ギア・ダディーズなどがいて、ミネアポリスの中堅インディーズレーベルであるツイントーン(Twin/Tone)でソウル・アサイラムとレーベルメイトだったのが、今回の主人公ジェイホークスだ。

もうひとつ、ミネアポリスで忘れられないのが、インディーズレーベルのESD(East Side Digital)の存在である。ESDがリリースした多くのアルバムがオルタナカントリーの代表的なものであり、このレーベル抜きではオルタナカントリーは語れない。ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ、ブラッド・オレンジズ、エリック・アンベルの諸作、シェイキン・アポッスルズ、ボトル・ロケッツ、ゴー・トゥ・ブレイジズ、シュラムス、シェリ・ナイトなど秀作は多い。81年に設立されたESDだが、21世紀に入る頃には経営難になり、それからは活動縮小を余儀なくされた。

OKMusic編集部

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