劇場公開を切望。
音楽ドキュメンタリーの大傑作
トーキング・ヘッズの
『ストップ・メイキング・センス』

ブライアン・イーノと組む

ところが、その後バンドは驚くような変遷を遂げていく。2nd作『モア・ソングス(原題:More Songs About Buildings and Food)』(’78)からはプロデューサーにブライアン・イーノがつき、1st作で示した音楽性をより発展させる。個人的には1st作から格段にリズムの飛躍が感じられたことで随分驚かされたものだ。アルバムからアル・グリーンの「テイク・ミー・トゥー・ザ・リヴァー」のカバーがビルボードチャートで全米26位に達するシングルヒットを記録する。続く『フィア・オブ・ミュージック(原題:Fear of Music)』(’79)では明らかにアフロファンクへの接近が聴き取れる。アルバムのチャートも全米で21位、英国でも33位と、この頃にはバンドは世界的にも注目される存在となる。イーノとの共同作業の最後となる『リメイン・イン・ライト(原題:Remain in Light』(’80)でデヴィッド、そしてバンドの目指した音楽は一応の完成をみる。アフロファンクを取り込んだこのアルバムのビート感は凄まじいほどだ。楽曲のほとんどがデヴィッドとイーノとの共作。またギターにエイドリアン・ブリュー(元フランク・ザッパ、キング・クリムゾン)がセッションで参加し、鋭角的、フリーキーなギターを披露している。楽曲を彩る演奏、楽器も複雑なものになり、結成時のシンプルさは微塵もない。文句なしの傑作だった。だが、このあたりから、バンド内に微妙な軋轢、波風が起こってきたのは間違いないだろう。

ティナ・ウェイマスとクリス・フランツはバンド内のサイドプロジェクトというスタンスでトム・トム・クラブを結成する。アルバム『おしゃべり魔女(原題:Tom Tom Club)』 (’81)もヒットし、大人気となる。『ストップ・メイキング・センス』ではこのトム・トム・クラブのコーナーが設けられていることもショーを楽しいものにしている。

また、デヴィッドのほうもソロ活動をスタートさせ、イーノとのコラボレーションアルバム『マイ・ライフ・イン・ザ・ブッシュ・オブ・ゴースツ(原題:My Life in the Bush of Ghosts)』(’81)を発表している。こちらも引き続きアフロビートを追求した傑作で高い評価を得る。

こうした、わずか3年ほどの間に凄まじいばかりの進化、変遷を遂げたバンドの姿、持てる限りの技量、知性、センス、エンターテイメント性を余すところなく示してみせたのがライヴ・ドキュメンタリーの傑作『ストップ・メイキング・センス』の凄いところだろうか。それを今回は4K版で生のライヴを目にするような鮮明さで楽しめるのだから、これは邦楽、洋楽に関係なく、全ての音楽好き必見の映像作品だと断言しておく。個人的にはそれまでの音楽ドキュメンタリー映像で話題を集めたものとしては、多くの豪華アーティストを招いて行われたザ・バンドのフェアウェル(解散)・コンサートを撮影した『ラスト・ワルツ』(’78年公開、監督マーティン・スコセッシ)があるが、そもそもの撮影手法もコンセプトも違うので比較の対象にすべきではないが、それまで自分が『ラスト・ワルツ』に対して最高の賞賛を送っていたはずなのに『ストップ・メイキング・センス』を見終わった瞬間、その感動があっさり更新されてしまったことを覚えている。それから40年が経ったということなのだが、果たして自分の中で『ストップ・メイキング・センス』に代わる感動の更新はされているだろうか?

全米では配給会社A24を通じて9月22日から劇場公開されている。11月1日現在、日本での劇場公開に関する情報は伝わってきていないのだが、遅かれ早かれ、公開は決まるだろう。信じて待ちたい。

追記:監督はアカデミー賞主要5部門を受賞した映画『羊たちの沈黙』(’91)でメガホンをとったジョナサン・デミ。彼は『ストップ・メイキング・センス』(全米映画批評家協会賞のドキュメンタリー映画賞を受賞)以外にも音楽ジャンルではニール・ヤングの『ハート・オブ・ゴールド〜孤独の旅路』『ジャーニーズ』等も制作している。

TEXT:片山 明

アルバム『Stop Making Sense / Special Edition』1984年発表作品
    • <収録曲>
    • 01. サイコ・キラー/PSYCHO KILLER
    • 02. ヘヴン/HEAVEN
    • 03. 天使をありがとう/THANK YOU FOR SENDING ME AN ANGEL
    • 04. ファウンド・ア・ジョブ/FOUND A JOB
    • 05. スリッペリー・ピープル/SLIPPERY PEOPLE
    • 06. バーニング・ダウン・ザ・ハウス/BURNING DOWN THE HOUSE
    • 07. ライフ・デュアリング・ウォータイム/LIFE DURING WARTIME
    • 08. メイキング・フリッピー・フロッピー/MAKING FLIPPY FLOPPY
    • 09. スワンプ/SWAMP
    • 10. ホワット・ア・デイ・ザット・ワズ/WHAT A DAY THAT WAS
    • 11. ジス・マスト・ビー・ザ・プレイス/THIS MUST BE THE PLACE(NAIVE MELODY)
    • 12. ワンス・イン・ア・ライフタイム/ONCE IN A LIFETIME
    • 13. ジニアス・オブ・ラヴ(トム・トム・クラブ)/GENIUS OF LOVE(TOM TOM CLUB)
    • 14. ガールフレンド・イズ・ベター/GIRLFRIEND IS BETTER
    • 15. テイク・ミー・トゥ・ザ・リヴァー/TAKE ME TO THE RIVER
    • 16. クロスアイド・アンド・ペインレス/CROSSEYED AND PAINLESS
『Stop Making Sense / Special Edition』('84)/Talking Heads

OKMusic編集部

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