大晦日からニューイヤーへ。
全盛期のザ・バンド+ディランの
傑作ライヴで新年を熱く楽しむ

昨夏、80歳で亡くなった
ロビー・ロバートソンの
執念とも言える仕事

彼の訃報はその年に亡くなられた音楽関係者の中でも、大きな衝撃を伴ったひとりだった。晩年(というか2000年以降)の彼はメインワークとも言える映画音楽に関わる仕事とあと半分はザ・バンドの遺産をいかに次世代に伝えていくかに費やされていたと思う。そのため、彼のソロ作が少ないまま終わってしまったことは残念で仕方がない。過去の遺産、栄光にばかりしがみついていると揶揄する向きもあったが、自分の精魂を傾けた活動=ザ・バンドだったのだから、その仕事に没頭することは彼の納得のいくものだったのだろうし、それらは大いに讃えられて然るべきものだと思う。旧作のリマスター、ボックス盤の制作、そしてドキュメンタリー映画『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』(2020年公開)の制作などなど、特にロック史上に残る名作、彼らのデビュー作『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』や通称ブラウン・アルバムと呼ばれる2nd作『ザ・バンド』が良質な音でリイシューされたことは素晴らしく、古くからのファンだけでなく、新たな若い世代のリスナーを獲得したことは、もっとも彼の望むことだっただろう。今さらながらこのバンドの音楽性がいかに優れたもので、2000年頃から高まりを見せたルーツミュージックへの注目を考えた時、彼らがとてつもない影響力を持つバンドで、アメリカのポピュラー音楽の流れを変えた存在であったことを証明するようなものだった。ただ、3作目の『ステージ・フライト』(‘70)と5作目となった『ロック・オブ・エイジズ』(‘72)に対しては発表当時、ロビーは納得のいく仕上がりとは感じておらず、ずっとモヤモヤしたものを抱えていたらしい。何が不満だったのか、それはわからない。一度世に出してしまったものに、あとになって、「ああしておけば良かった」と思うことは珍しいことではない。そうは思っていても、多くの場合、時間と労力、経費の面で手をつけられずにいるケースがほとんどではないか。

そんな時、タイミング良く行方不明だった『ロック・オブ・エイジズ』のもとになった1971年の年の瀬から1972年のニューイヤーにかけてのライヴの、16チャンネルマルチトラックテープがキャピトルレコードの倉庫で発見されたという報せがロビーに届く。1st、2nd作のリイシューに続き、念願の『ロック・オブ・エイジズ』のリイシュー=『ライヴ・アット・アカデミー~』のプロジェクトに彼は着手する。『ライヴ・アット・アカデミー~』についての詳細はすでに2013年のリリース時に音楽雑誌やネット・ニュース上でさんざん紹介されているはずなので割愛させていただくが、なおかつ触れるとすると、かつてザ・バンドの『ロック・オブ・エイジズ』は、おおむねセットリストに従って構成されたものだと思っていたのが、実は1971年12月28日から31日までの4連続公演の中から寄りすぐりのトラックをひとつのコンサートのようにまとめ上げたものだということが明らかになった。しかもMCを含め、全ての音源を素材化し、かなり精妙かつ大胆な切り貼り作業が行なわれている。そうとは知らず、このライヴ盤はひとつのコンサートをそのまま収録したもので、オールマン・ブラザーズ・バンドの『フィルモア・イースト』やアレサ・フランクリン、ダニー・ハザウェイの…と挙げ出したらきりがないが、同様のスタイルをとった70年代屈指のライヴ名盤群に並べられる一枚と思い込んでいたものだったのだが、事実は違った。そして、前述の通りロビーはそのあたりにもこだわりがあり、大幅に手直しをしたかったらしい。

『ライヴ・アット・アカデミー~』を聴いて、ロビー・ロバートソンが本当に示したかったことはいくつかあると思うが、そのひとつは現代でなければ成し得なかったものではないだろうか。LPとCDによる収録時間の違いは、1回のコンサート(2部構成)を丸ごと収録することが可能となり、12月31日の大晦日のショーが5枚組の拡大版の3枚目と4枚目に収められている。それから粒立ちのいい音質への改善は、楽器演奏、とりわけギターのピッキング、アドリブ、コード演奏など、これまで他の楽器の音に埋もれて聴き取れなかったものを浮かび上がらせることに成功している。ギタリストとしても第一級のプレイヤーであるロビーの上手さ、彼の代名詞のようなチェット・アトキンスらカントリー・ギタリスト由来のピッキングハーモニックス(通称チキンピッキング奏法)の巧みなプレイを存分に聴けるようになった。もちろん、他のメンバーたち、リヴォンの引き締まったドラムの響き、フレットレスのベースを操るリック・ダンコのグルーブ感、このふたりによる鉄壁のリズムを背景に哀愁漂うリチャード・マニュエルのヴォーカル、ルーツに忠実でいながら、唯一無比のプログレッシブな感覚でバンドに彩りを加えるガース・ハドソンのキーボード、そしてこの一連のコンサートのためにアラン・トゥーサンがまとめ役となって組まれたホーンセクションの厚みのあるファンキーなサウンド。また、ほとんどの楽曲を手掛けている(とされる)ロビーのソングライティングの才には、今さらながら驚嘆させられる。それらが半世紀以上も前の演奏と思えない、くっきりと輪郭のある音像を伴って響いてくる。そこからは過去のどさ回りで鍛え抜かれたザ・バンドのライヴバンドとしての底力、魅力を伝えている。

それらを引き出すべく、自らプロデュースを手掛けるロビーとミックスを担当しているのがボブ・クリアマウンテンだ。彼は並ぶ者のいない名ミックスエンジニア、名盤請負人、なんて言われることもある才人で、手掛けたアーティストにはデヴィッド・ボウイ、ブルース・スプリングスティーン、ローリング・ストーンズ、ポール・マッカートニー、シェリル・クロウ…と錚々たる名前が並ぶ。

OKMusic編集部

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