大ヒット曲「真夜中のオアシス」を
収録した
マリア・マルダーの初ソロ作
『オールド・タイム・レイディ』
敏腕プロデューサー、ジョー・ボイド
ジョー・ボイドは英米をまたにかけ、多くのグループやシンガーを見出した敏腕プロデューサーである。例えば、先週このコーナーで紹介した『スーパー・セッション』の文中に登場する『ホワッツ・シェイキン』(66)に収録された世界初のスーパー・セッション、エリック・クラプトン&パワーハウス名義の3曲はボイドのプロデュースだし、トラッドロックグループのフェアポート・コンヴェンションの諸作をはじめ、ピンク・フロイド、ソフト・マシーン、ニック・ドレイク、インクレディブル・ストリング・バンドなどを発掘している。彼がロック界に残した業績は、とてつもなく大きい。
ボイドのプロデュースの特徴は、アーティストの音楽ルーツを明確に感じさせる手法である。ジェフ・アンド・マリアの第1作『ポテリー・パイ』(‘70)では、オールドジャズ、フォーク、カントリーといった彼女の音楽的資質と、ジェフ・マルダーのバックボーンであるカントリーブルースをごちゃ混ぜにしつつも、各素材のテイストも損なわずに提示するという離れ業をやってのけた。この『ポテリー・パイ』にはさまざまなアメリカンルーツ音楽が詰まっているのだが、当時はジャンル分けができないために売れなかった。しかし、内容は素晴らしく、ボイドの面目躍如とも言える仕上がりであった。現在、こういう音楽はアメリカーナとして認知されているが、ボイドのやっていることは当時としては新しすぎたのかもしれない。
その後、ジェフ・アンド・マリア名義で2作目となる『スイート・ポテト』(‘72)をリリースしたものの結婚生活が破綻、彼らはそれぞれの道を進むことになる。ジェフはポール・バターフィールドの名グループ、ベターデイズに参加し、そしてマリアはソロに転向する。もちろん、ボイドは当初から彼女をソロ歌手としてデビューさせたかっただけに、プロデュースはボイドが担当することになる。