スーパースターになった
リオン・ラッセルが
自分のルーツへ大きく舵を切った
意欲作
『ハンク・ウィルソンズ・バック』

彼の中に眠っていたハンク
(ウィリアムス)
グランド・オール・オープリーへの
オマージュ

さて本作。待望のラッセルの新譜をターンテーブルに乗せた人たちは大いに戸惑わされたことだろう。オープニングの1曲目「ロール・イン・マイ・スウィート・ベイビーズ・アーム」、こ、これはブルーグラスじゃないか! 当時はまったくと言っていいくらい無関心だったカントリーやブルーグラスに親しむようになっている現在、反省の気持ちも含みながらこのアルバムに向き合ってみると、その出来栄えに感心してしまう。本気度が伝わってくるというか、レコーディングの場所として彼が選んだのがデッカレコード専属の敏腕プロデューサーで、数多くのカントリーのレコーディングを手がけ、ナッシュヴィルサウンドの革新者として知られるオーウェン・ブラッドリー所有のバーンスタジオなのだ。さすが業界人らしく、このあたりの選択もリオンは鋭い。

1. ロール・イン・マイ・スウィート・ベイビーズ・アーム/Roll in My Sweet Baby’s Arms (Trad)
2. シー・シンクス・アイ・スティル・ケア/She Thinks I Still Care (Dickey Lee)
3. アイム・ソー・ロンサム・アイ・クッド・クライ/I’m So Lonesome I Could Cry (Hank Williams)
4. アイル・セイル・マイ・シップ・アローン/I’ll Sail My Ship Alone (Henry Bernard / Morry Burns / Lois Mann / Henry Thurston)
5. ジャンバラヤ/Jambalaya(On the Bayou) (Hank Williams)
6. ア・シックス・パック・トゥ・ゴー/A Six Pack to Go (Dick Hart / Johnny Lowe / John Lowell / Hank Thompson)
7. ザ・バトル・オブ・ニュー・オリンズ/The Battle of New Orleans (Jimmie Driftwood)
8. アンクル・ベン/Uncle Pen (Bill Monroe)
9. アム・アイ・ザット・イージー・トゥ・フォーゲット/Am I That Easy to Forget (Carl Belew / Shelby Singleton / W.S. Stevenson)
10. トラック・ドライヴィン・マン/Truck Drivin’ Man (Terry Fell)
11. ウインドウ・アップ・アバヴ/The Window Up Above (George Jones)
12. ロスト・ハイウェイ/Lost Highway (Leon Payne)
13. グッドナイト・アイリーン/Goodnight Irene (Lead Belly / Huddie Ledbetter / John A. Lomax)
14. ヘイ・グッド・ルッキン/Hey, Good Lookin’ (Hank Williams)
15. イン・ザ・ジェイルハウス・ナウ/In the Jailhouse Now (Jimmie Rodgers)

収録曲を眺めてみると、これはハンク・ウィリアムスにこだわるというよりは、あくまでグランド・オール・オープリーを彼なりに再現している風なことが見てとれる。オープリーはナッシュヴィルのライマン公会堂で行われていたラジオの公開生放送で、リオンは子供の頃愛聴していたといわれる。
※2006年公開の映画『今宵、フィッツジェラルド劇場で(原題: A Prairie Home Companion)』(出演:メリル・ストリープ、リリー・トムリン、他。/監督:ロバート・アルトマン)では、グランド・オール・オープリーの情景がほぼ忠実に描かれている。

レオンは自分のブレーンであるカール・レイドルらごく僅かなプレイヤーを連れて行ったほかは、ほとんど現地調達のようなかたちでミュージシャンを揃えるつもりだったが、先のオーウェン・ブラッドリーに助言を求めたであろうことが想像される(彼はプロデューサーとしては関わっていない)。マッスルショールズでのレコーディングを経験済みとはいえ、そこは南部の、カントリーミュージックのど真ん中である。「ロングヘアのヒッピー崩れが何しに?」とナメてかかってくるのは見えているから、誰か仲立ちをする人物を介するべきだろうと。結果、渋い面子が参加している。

ナッシュヴィルサウンドを支えるプロ集団がズラリ。“The Nashville A-Team”と呼ばれる連中が呼ばれている。エリアコード615からも参加者がある。ブルーグラス界からも何名も。面白いのは、バンジョー、ドブロ、フィドル、ギターなどは複数人の参加があるものの、マンドリン奏者がいない。ビル・モンローの「Uncle Pen」なんかカバーしているのであれば、マンドリンは必須かと思うが、コードとメロディは自分のピアノでいく、とレオンは考えたのだろうか。

レオンとのセッション時はニューグラス・リヴァイバルのメンバーで、その後、ビル・モンローのブルーグラスボーイズに加入するブッチ・ロビンス(バンジョー)が、のちに彼自身の自伝の中で面白いコメントを残している。スタジオでほぼ一発録りのようなかたちで一斉演奏を行なったのだが、大音量で大人数、音数が多いにもかかわらずロビンスの弾くバンジョーの一音に対しレオンがさりげなく指摘したのだという。同じブルーグラスのミュージシャンでさえ気づかないその音を聴き取っていたレオンの耳の良さにロビンスは驚愕したのだそうだ。

この後、レオンはさらに“ハンク愛”を深めていくように、まるでライフワークのごとく以下のように続編が作られていく。それに対してセールスやチャートがどう、という野暮なことはもう言うまい。

Hank Wilson’s Back Vol. I (1973)
Hank Wilson, Vol. II (1984)
Legend in My Time: Hank Wilson Vol. III (1998)
Rhythm & Bluegrass: Hank Wilson, Vol. 4 w/ New Grass Revival (2001)

また、今や名実ともにブルーグラス界のトッププレイヤーであるサム・ブッシュ(マンドリン)、ベラ・フレック(バンジョー)擁する、当時は新進のブルーグラスバンド、ニューグラス・リヴァイバル(略称NGR)とがっぷり四つを組んだアルバム『The Live Album (Leon Russell and New Grass Revival)』(’81)を制作するなど(逆にNGRのアルバムにリオンが客演というケースもあった)、互いに認め合う関係になる。

後年はよりカントリーミュージックに接近して、レッドネック / アウトロー・カントリーの重鎮、ウィリー・ネルソンとデュオ作『ワン・フォー・ザ・ロード』(’78)を制作している。

OKMusic編集部

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