ザ・バーズの後期が過小評価されるき
っかけになった罪作りなカントリーロ
ックの名盤『ロデオの恋人』

 そのサウンドはもちろん、ルックスも含め、60年代のアメリカで最もイカしていたロジャー・マッギン率いるザ・バーズ。今回、取り上げる『ロデオの恋人』はバーズ流のフォークロックを完成させた『ターン・ターン・ターン』やサイケデリックサウンドに挑んだ『霧の5次元』とともに彼らの代表作に数えられることが多い68年発表の6枚目のアルバムだ。現在ではカントリーロックの名盤として、揺るぎない評価を確立しているその『ロデオの恋人』ではあるけれど、実は彼らの代表作であると同時に後期バーズの過小評価を生むきっかけになった罪作りな作品でもあるんだから面白い。

 そもそも綻びの多い作品なのである。まずメンバーが相次いで脱退したため、バンドの状態はガタガタだった。新メンバーを加え、アルバムの制作に着手したものの、今度はアメリカンミュージックの歴史を辿りながらその未来を提示するというマッギンが思い描いていた壮大なアイディアが頓挫してしまう。そこでマッギンに代わって、レコーディングの主導権を握ったのが熱心なカントリー愛好家だった新メンバー、グラム・パーソンズだった。
 契約の関係上、パーソンズのリードヴォーカルが使えず、「クリスチャン・ライフ」と「涙の涸れるまで」の2曲がマッギンの歌に差し替えられるというドタバタもあったものの、結果、その後、カントリーロック・ブームに先鞭をつけた作品と謳われることになるアルバムが完成した。
 バーズが得意としていたボブ・ディランのナンバーを見事、バーズ流のカントリーにアレンジした「ゴーイング・ノーホエア」「なにも送ってこない」、当時、最もプログレッシヴだったロックバンドが真正面からブルースグラスに挑んだ「私は巡礼」「プリティ・ボーイ・フロイド」、R&Bナンバーをメランコリックなカントリーワルツにアレンジした「涙の涸れるまで」、そしてパーソンズの非凡なソングライティングの才能を印象付ける「ヒッコリー・ウィンド」「100年後の世界」。ほぼ全曲が名唱・名演である。
 それにしてもマッギンはなぜ易々と新入りに主導権を握らせたのか。そこのところがよく分からない。おかげで90年代半ば、オルタナティヴカントリー・ブームの延長上で、長い間、ロックファンから忘れ去られていた『ロデオの恋人』がそのルーツとして、再び脚光を浴びた時、パーソンズがずいぶんと持て囃されたのに対して、マッギンはバンドを乗っ取られた情けないリーダーという印象を残してしまった。パーソンズがバンドを抜けた後、アメリカンミュージュックの歴史を辿りながらその未来を提示するという野望の下、『バーズ博士とハイド氏』を皮切りに『ロデオの恋人』の延長上にありながらも単なるカントリーロックには収まり切らない快作(いや、怪作か?!)を立て続けにリリースしていったにもかかわらず、マッギンが再び主導権を握った後期バーズが前期や『ロデオの恋人』に比べ評価が低いのは、そのせいもあるような気がしてならない。ちなみにオルタナカントリーのルーツという意味でなら、純正カントリーロックの『ロデオの恋人』よりも断然、サイケデリックムードが若干、不気味に感じられる『バーズ博士とハイド氏』だと思う。
 もちろん、名盤には違いない。しかし、パーソンズの才能を信じて、彼に主導権を握らせた(に違いない?!)マッギンと、このアルバム一枚でさっさとバンドを抜けると、クリス・ヒルマンを引き抜いて、自らがフロントに立つ新バンド、フライング・ブリトー・ブラザーズを結成したパーソンズのことを考えると、なかなか複雑な気持ちになってしまうのだが、そんなバックグラウンドがカントリーロックの名盤をより一層味わい深いものにしてくれるのである。

著者:山口智男

OKMusic編集部

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