マイルス五重奏団で聴く
「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」
を通して激動の
50年代〜60年代の音楽シーンを想う

1964年発表:
『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』、
ジャズを革新するマイルス

コンサートホール(リンカーンセンター)らしい空気感を破る、万雷の拍手が止み、静寂を突くハービー・ハンコックのピアノに導かれるようにマイルスのトランペットが、それと分からぬ低音からイントロを奏で始める。バックを支えるのはハンコックのほかにロン・カーターのベース、トニー・ウィリアムスのドラム(時に17歳)、ジョージ・コールマンのテナー。メロディーは解体され、15分余りの演奏は中盤あたりになって主旋が現れるまで会場の人たちは『マイ・ファニー〜』だと気がつかなかったかもしれない。とても静かな演奏だが、息を呑むような美しさと緊張感、きわめて自由度の高い各人のインタープレイが空間を支配する中、どこまでも創造的なマイルスのトランペットが急勾配で天空を突き抜けていく。

この演奏(録音)は先に紹介した『クッキン』から8年後ということになります。その間、マイルスは尋常ならざるペースでスタジオ、コンサート会場での録音を重ねていて、アルバムを列挙してみると、『マイルス・アヘッド(原題:Miles Ahead)』 (’57)、『マイルストーンズ(原題:Milestones)』(’58)、『1958マイルス(原題:1958Miles)』(’58)、『ポーギー&ベス(原題:Porgy And Bess)』(’58)、『マイルス・デイヴィス・アット・ニューポート(原題:Miles Davis at Newport)』(’58)、『ジャズ・アット・ザ・プラザ(原題:Jazz at the Plaza Vol.1)』(’58)、『カインド・オブ・ブルー(原題:Kind of Blue)』(’59)、『スケッチ・オブ・スペイン(原題:Sketches of Spain)』(’59)、『サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム(原題:Someday My Prince Will Come)』(’61)、『ブラックホークのマイルス・デイビス(原題:At the Blackhawk)』(’61)、『マイルス・デイヴィス・アット・カーネギーホール(原題:Miles Davis at Carnegie Hall)』(’62)、『クワイエット・ナイト(Quiet Nights)』(’63)、『セヴン・ステップス・トゥ・ヘヴン(原題:Seven Steps to Heaven)』(’63)、『マイルス・デイヴィス・イン・ヨーロッパ(原題:Miles Davis in Europe)』(’63)とアルバムが作られている。ライヴ録音はもちろんですが、先のマラソン・セッションにしてもほとんどがワンテイクの一発取りで録られたとあり、驚異的な集中力と演奏力があったればこその離れ業だけれど、ただ憑かれたように演奏をしていたわけではなく、この間にはマイルス自身のジャズスタイルもビパップからハードバップ、クール、モードへと軽業師のように跳躍し、それはそのままジャズ史に刻まれる変革とも言えるものでした。
※リンカーンセンターで録音された音源は2枚のアルバムに編集され、本稿で紹介している『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』に5曲、そして残る8曲(挨拶も1曲とカウントして)分が『フォア・アンド・モア(原題:Four & More)』(’66)にまとめられている。「静」を意識させる曲で構成した前者に対し、「動」的な演奏を収めた後者では、ロックさえ凌駕するアグレッシブな演奏の応酬(トニー・ウィリアムスが圧巻)が聴ける。この盤もお勧めしたい。

OKMusic編集部

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