タイタニックの
沈没事故から歌が生まれ、
ポピュラー音楽の側面が見えてくる

美しいメロディーに対し、
おぞましい殺人や裏切りの心が歌われる

せっかくなので、バラッドの世界を少しだけ掘り下げてみようと思う。といっても、この世界をコラムのボリュームにまとめるのはどだい不可能というものなので、あくまでかいつまんで紹介するにとどめる。

その発祥の地のようなスコットランド、イングランドはバラッドの宝庫である。また、アメリカで生まれたバラッドも数多くあり、南北戦争の頃に書かれた歌、カウボーイソング、アウトローの物語、各地を放浪しながら歌を紡いだホーボー・ソングなどもそれに含まれるだろう。その米英のバラッドの多くにマーダー・バラッドや災害バラッドが含まれる。今もフォーク系のアーティストによって取り上げられることも多く、あのオリヴィア・ニュートン・ジョンもかつてはレパートリーにしていた「オハイオ川の岸辺 原題:The Banks Of The Ohio」という美しい曲があるが、これも実は婚約者を絞殺し、河に投げ捨てるという、陰惨かつ不可解なマーダー・バラッドである。実際にあった事件ではなく、16世紀頃、英国にあったバラッドを下敷きに、後にアメリカで作られたという説がある。

英国では膨大なバラッドを収めた大書『チャイルド・バラッド(原題:The English and Scottish Popular Ballads)』(フランシス・ジェームス・チャイルド著)がよく知られるのだが、その400年以上も昔に書かれたかもしれないバラッドの中には、今も愛聴されている歌が少なくないことは驚くべきことだろう。たとえば一般にも知られる例で言えばテレビCMなどにも使われることの多い、美しいメロディで知られる「広い河の岸辺 原題:Water is Wide」も、これまた心が洗われるような旋律と今日歌われている詞とは裏腹に、「オリジナル」で描かれているのは、悪辣に仕組まれた不倫の嫌疑による夫婦関係の崩壊だったりする。しかも実はメロディーもないのだ。

はじめ、バラッドは詩/詞であり、朗読のような形で披露されていたようだ。古典的なもの、寓話をもとにしたものから、近世になると今日における新聞の社会面の記事になりそうなバラッド(ブロードサイド)も生まれる。

例えば、こんなふうだ。どこかの村で結婚を間近にした男女が些細なもつれから一族を巻き込んでの凄惨な殺人事件に発展した。あるいは竜巻が田舎の村を襲い、小学校が吹き飛ばされて子供だけが全員死んだとしよう。
※話の流れからバラッドはダークサイドの物語ばかりなのかと思われそうだが、もちろん、そうではない。喜ばしい祝祭を描いたものや、収穫の喜び、美しい自然をテーマとした叙事詩、妖精が出てくる話、冒険譚など、多岐にわたる

OKMusic編集部

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