グラスゴー出身で
英フォーク・ロックを代表する
シンガーソングライター、
ラブ・ノークスを今再び

本作
『ドゥー・ユー・シー・ザ・ライツ』に
ついて

オリジナル盤は無数の電飾で形作られた建造物を写した写真(記憶に間違いがなければ、70年に日本で開催された万国博覧会のスイス館「光の木」)が使われている。現行の、ノークス自身の興したレーベル『NEON』からリイシューされた盤のジャケットは、若々しい、髪の長いノークスの写真がジャケットを飾っている。この頃の姿を見ると、ノークスはいかにもナイーブで誠実そうな、美青年然としたルックスをしている。そして、アルバムから聴こえてくる(少し鼻にかかった)歌声と演奏は、意外なくらい軽々と、いい具合に力の抜けたものだ。ちょうど彼より1歳年下の夭折したフォークシンガー、ニック・ドレイク(Nick Drake、1948〜1974)の作品のような、美しくも陰鬱な、深刻そうな音楽をノークスの歌から感じることはない。とはいえ、適度にトラッドっぽさ、ブルースやカントリー、フォーク、ブリティッシュポップスの香りを漂わせるような曲はよく練られている。凝っているのにとても親しみやすい。ヴォーカルはやや一本調子な感じもするが、なかなか切ないメロディーの曲も歌う。きっと繊細な心の持ち主だろうと察せられる。『オール・シングス・マスト・パス(原題:All Things Must Pass)』を出した頃のジョージ・ハリスンの作風にもどこか近いものがある。

もう一人、ノークスに近い音楽性のミュージシャンを挙げておくとすれば、故ロニー・レイン(Ronnie Lane 元スモール・フェイセス→フェイセス→スリムチャンス)だろう。とにかく、聴き流していてとても和ませられるのだ。曖昧な印象で申し訳ないのだが、不思議と収まりがいいというのがこの人の持ち味かもしれない。馴染みの店にある不動の定番メニューのような、なかなか他所では出せない味というか…。編成はノークスのギター、ヴォーカルのほか、セッションプレイヤーによるキーボード、エレキ・ギター、ダブルベース、ドラム。極力シンプルに抑えたのであろうバンドのアンサンブル、タメの効いたリズムなどからは、彼もまたザ・バンドの影響を受けたのだろうか。

とはいえ、キャッチーなメロディーがあるわけでもなく、アルバムはほとんど注目を浴びず、デッカレコードとの契約は1枚で終わる。だが、アルバムに収録されていた「トゥゲザー・フォーエヴァー(原題:Together Forever)」がやはりスコットランドのバンド、リンディスファーン(Lindisfarne)によってセカンド作『フォグ・オン・ザ・タイン(原題:Fog On The Tyne)』(’71)でカバーされるなど、ノークスの楽曲センスは一定の評価を得る。そしてこの時期、やはり同郷のシンガーソングライターで、フィフス・コラムというバンドをやっていたジェリー・ラファティとジョー・イーガンに誘われ、ノークスはスティーラーズ・ホイールの結成に加わる。後に「スタック・イン・ザ・ミドル・ウィズ・ユー(原題:Stuck In The Middle With You)」の世界的なヒットでも知られる英フォークロックの名バンドなのだが、ノークスはデビュー盤が出る前に脱退しているので、彼の参加した音源が残されていないのは惜しまれるところ。喧嘩別れしたわけではなく、ジェリー・ラファティとジョー・イーガンはノークスのソロ作のレコーディングに参加するなど、交流は続く。特にジェリー・ラファティとは長く友好的な関係が続いたようだ。

そして、スティーラーズ・ホイールやジェリー・ラファティと同じA&Mレコードから、ノークスのセカンド作『ラブ・ノークス(原題:Rab Noakes )』(’72)がリリースされる。引き続きバンド編成で、スティーラーズ・ホイールでの経験も加味し、バンドならではの聴かせどころ、デビュー作からさらに深めたルーツ色など、内容はかなり聞きごたえのあるものに仕上がっている。プロデュースにはボブ・ディランの諸作、サイモン&ガーファンクルを手掛けたボブ・ジョンストンがあたるなど(彼は先述のリンディスファーンの『フォグ・オン・ザ・タイン(原題:Fog On The Tyne)』のプロデュースを担当しており、その流れでノークスのことを知ったのだろう)、ノークス自身も自信作だったが、これも売れなかった。いいんだけどなあ〜と、思わずつぶやいてしまうのだが、結果は虚しく、A&Mとの契約もこれで終わる。それでもミュージシャン、業界受けするというのか、さほど間をおかず、今度は大手ワーナーとの契約がまとまる。それを機に心機一転、ノークスはアメリカに活動拠点を移している(すぐまたグラスゴーに戻るのだが)。

OKMusic編集部

全ての音楽情報がここに、ファンから評論家まで、誰もが「アーティスト」、「音楽」がもつ可能性を最大限に発信できる音楽情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着