グラスゴー出身で
英フォーク・ロックを代表する
シンガーソングライター、
ラブ・ノークスを今再び
2000年代に入ってからの
充実ぶりにも注目したい
そして、約10年ほどBBCでの仕事を勤め上げ、その職を辞すると、彼は自らインディーズレーベル『NEON』を立ち上げ、以前にも増して旺盛な活動を再開する。その頃の写真を見て随分驚かされたものだ。ピシッと糊の効いたシャツに皺ひとつないオーソドックスなスーツを着て、白くなった髪をきれいに撫でつけ、まるで定年間近の初老の紳士というか、庶務課で日がな給料計算でもやっていそうな風貌なのだ。若い頃の面影を必死で探っても、その片鱗は見つけられず、まるで別人に見える。だが、ミュージシャン魂というか、シンガーとしての魅力は少しも衰えておらず、むしろ磨きがかかっているふうだから見上げたものだ。ラジオで培ったフレキシブルなセンスだろうか、オリジナルにこだわらず、あのトーキング・ヘッズの「サイコ・キラー」やベックの「デヴィルズ・ヘアカット」をさりげなくカバーしてみせたりする。若い頃から気負いを感じさせない人だったが、老界に入っていっそう無理のないヴォーカルに磨きがかかり、洒脱な味わいを加えている。オリジナルの曲づくりも実に巧み。足りないものを探すとすれば、ヒット性だろうか。でも、そんなことが歌、曲の評価を決めることではない。ノークスらしさ、があれば充分だ。
2000年以降の旺盛な活動には目を見開かされる。自らの旧作のリイシュー、新作、ライヴ録音、また長いつき合いとなったバーバラ・ディクソンとのデュオ作を出す一方、ザ・ヴァラフレイムスというバンドを組み、アルバムも2作残している。どれも時代の主流になり得ないものだけれど、全て秀作と言っても過言ではない。だからこそ、それらがほとんど一般に知られないまま、彼が急死(死因は不明。突然死と言われている)してしまったことは残念でならない。
代表作ということでは別のアルバムを選ぶことも考えられたのだが、彼の庶民的な音楽性、フォーキーな作風が今なお胸を打つデビュー作『ドゥー・ユー・シー・ザ・ライツ』は英国フォーク・ロックの名盤だ。ぜひ聴いてみてほしい。また文中にあるノークスとつきあいのあったジェリー・ラファティー、バーバラ・ディクソンについても、いつか個別に紹介できる機会があればと思っている。
TEXT:片山 明