『SAMURAI SESSIONS vol.1』で示した
トライ精神は“サムライ・ギタリスト
”MIYAVIの面目躍如

音楽ファンの間で…いや、もしかするとそれ以外の人たちにも“海外で活躍する日本人ミュージシャン”として認知されているであろう、人呼んで“サムライ・ギタリスト”MIYAVI。今年はデビュー15周年となる節目の年で、4月5日にはベストアルバム『ALL TIME BEST “DAY 2”』も発売される。この機会に彼のディスコグラフィー&バイオグラフィーを振り返ってみたが、彼は世界に認められるべく着実に歩んできたし、その意志、意識は強烈だったことがよく分かる。泥臭い言い方をすると、デビューからここまで、努力を惜しまなかった人物なのである。今回はそんなMIYAVIの軌跡と、エポックメイキングな作品『SAMURAI SESSIONS vol.1』を斬る!

タッピング奏法のギターヒーロー

MIYAVI は2004年、シングルは「ロックの逆襲 -スーパースターの条件-/21世紀型行進曲」でメジャーデビューした。キング・クリムゾンなどを手掛けたMachineがプロデューサー、ニッケルバックなどを手掛けたジョージ・マリノがマスタリングに参加と、制作スタッフが世界標準であったこともさることながら、彼の意気込みが強かったことがビンビンに感じられるタイトルだ。この2004年は1989年以来15年振りにシングルのミリオンヒットがなかった年だそうである。ORANGE RANGEが大ブレイク、ポルノグラフィティの2枚のベスト盤が大ヒット、あるいはBUMP OF CHICKENやASIAN KUNG-FU GENERATIONらが本格的に頭角を表し始めた年でもあるので、バンド勢は決して元気がなかったわけではないが、業界全体として停滞気味があったことは否めない。そこで“ロックの逆襲 -スーパースターの条件-”と題した作品を世に問うたこと自体が、何とも痛快である。
このデビューシングル。所謂オルタナティブロックに分類されるラウドなサウンドで、まさしくロックそのものであり、“逆襲”というのもうなずける音圧だ。音は問答無用にカッコ良い。歌詞もとてもいい。
《エレキしょってシャウトかましゃ、/いつでもどこでも(anytime)ギターヒーロー》。
《きなよ、さぁbabyナウ。/くらえタッピング奏法!!!/ほらこいよ、さぁbring on/お見舞いするぜ?/きなよ、さぁbabyナウ。/くらえチョーキング奏法!!!/ほらこいよ、さぁbring on》。
エレキ。ギターヒーロー。タッピング奏法。チョーキング奏法──。自らをギタリストであり、なおかつ、彼の代名詞とも言えるタッピング奏法を得意とすることを高らかに宣言している。シングルはよく名刺代わりと言われることがあるが、本楽曲はこの上ない巨大な名刺であった。イントロに重なる笑い声や《金持ちたい/女抱きたい/有名になりたい/成り上がりたい/なら拳(て)あげろ。Put your hand up!》辺りのフレーズはご愛嬌な感じだが、それにしてもその勢いは買いたいところ。最注目は以下の歌詞だろう。
《こっから抜けだしたい/どっか飛びだしたい/自分変えたい/でも自分でいたい/なら旗あげろ。Raise your flag!》。
ブレイクスルーせんとするパワーが凝縮されているようではないか。以後もMIYAVIの楽曲でこの主張は貫かれていく。

ビジュアル系という出自を背負う

MIYAVIなもともとDué le quartzというビジュアル系バンドに属していた。このバンドの当時の画像を拝見すると、モロにゴシック系の出で立ちで、正統なるビジュアル系といった感じである。サウンドのほうも(申し訳ないことに、彼らの同時の音源を全て聴いたわけではないのだが、掻い摘んで聴いた限り)ハードかつパンキッシュではあるものの、こちらもまた正統なるビジュアル系の印象。Dué le quartzは2002年に解散し、MIYAVIはインディーズでソロ活動をスタートさせるわけだが、ここで着目したいのは、彼が自らの経歴を背負いながら活動を続けていったことである。まさしく《自分変えたい/でも自分でいたい/なら旗あげろ。Raise your flag!》(「ロックの逆襲 -スーパースターの条件-」)であったことに好感が持てる。2007年に発表したシングル「咲き誇る華の様に-Neo Visualizm-」にこんな歌詞がある。
《X、ルナシーに黒夢、先輩方が残した道しるべ 絶やさない様に 壊せ Irony》。
《まず見た目から でスキルも空って、それじゃマズイでしょ尚更/ファンが誇れるBig Artistに 胸はって言える様なHistoryにする為に》。
“Neo Visualizm”とはよく付けたものだ。《格好もジャンルも関係ねぇ んなもん脱いじゃえよ NANNTENE/ブチ壊せよ常識の防波堤 そろそろ火をつけましょ導火線》というフレーズもあるため、“自らがビジュアル系のジャンルにとらわれないために”という見方もあるが、これは文字通り、彼がビジュアル系を新たな次元に突入させようとした意志の表れと見るのがいいと思う。彼の男気を勝手に感じて、身震いしてしまうほどの内容だ。

有言実行のブレイクスルー

これで、以後のMIYAVIの作品が90年代の焼き直しのような、しょーもない楽曲ばかりだったらリスナーは閉口だったろうし、シーンからフェードアウトしていたに違いない。無論そんなことはなかった。彼はギタリストとしての持ち場を堅持しつつ、しっかり有言実行した。“日本人である自分たちにしかないアビリティーで勝負したい”というテーマで制作されたという『雅-THIS IZ THE JAPANESE KABUKI ROCK-』(2008年3月発売)、自身の歌とギター、オルタナティブロックバンド“54-71”のBOBOのドラムのみでサウンドを構成したアルバム『WHAT'S MY NAME?』(2010年10月)と、まさしく《格好もジャンルも関係ねぇ》を地でいく意欲的な作品を続々発表。そして、6thアルバムで完全に常識の防波堤をブチ壊した。それが『SAMURAI SESSIONS vol.1』だ。本作は所謂コラボレーション作品で、MIYAVIと他のアーティストとの合作である。コラボ作自体はミクスチャーやヒップホップシーンではむしろそっちがスタンダードなくらい…というのは流石に言いすぎとしても、別に珍しくもないスタイルだが、ビジュアルシーンとなると案外珍しい。いやいや、ビジュアルシーン内部でのコラボはいくらでもあるのだが、外部とのコラボはそれほど多くはない。小室哲哉とYOSHIKIとの“V2”のようなケースもあるにはあるが、ソロワークでの共作であって、本隊、母体で外部と接触を求めることは、少なくとも2000年代くらいまではあまりなかったように思う。そんな時期に積極的に他者とのコラボレーションを行なったMIYAVIにはそれだけでも花マルをあげたいほどである。

多ジャンルとバチバチやり合う!

しかも、この『SAMURAI SESSIONS vol.1』。コラボ作とは言ったが、楽曲の演者のクレジットが、例えば“MIYAVI vs HIFANA”や“MIYAVI vs KREVA”といった具合に、共闘ではなく対決であることを示唆している。どれもこれもかなりバチバチとやっている感じなのだ。M1「GANRYU」(MIYAVI vs HIFANA) からしてもうスリリングだ。もともとMIYAVIのタッピング奏法は指で弦を叩き付けて音を鳴らすものなので、HIFANAのサンプラーのパッドを叩いてビートを刻む独特のスタイルとでは、これは比喩でも何でもなく、本当にバチバチとやり合っている。インプロ的なイントロからジャジーに展開しつつも、サビは開放的に展開するポップなR&R、M5「PLEASURE!」(MIYAVI vs H ZETT M)も、その音のぶつかり合いもいいが、やはり白眉はM6「HA NA BI」(MIYAVI vs HIROMITSU AGATSUMA vs JIN OKI)だろうか。上妻宏光の三味線と沖仁のフラメンコギターが重なる、これは完全にバトルロワイアルだ。後半で聴くことができる3人のユニゾンは本当に素晴らしく、問答無用にアガるサウンドで、まさに火花が散っているようである。
そうした肉弾戦ばかりでなく、気のぶつかり合いというか、気の交歓でのバチバチ感もある。当代随一の日本人ラッパーのひとり、KREVAと組んで“タッピング奏法+ラップ”という新機軸を見出したM2「STRONG」(MIYAVI vs KREVA)がそうだ。また、フレンチエレクトロの 新鋭・YUKSEKをプロデューサーに迎えたM3「DAY 1」(MIYAVI vs YUKSEK)では、派手にタッピングギターに向かい合う感じはないが、シワジワと迫るテクノビートはその融合具合が心地良い。本作全体のプロデューサーである亀田誠治、坂本美雨とのコラボ作、M7「祈りを」(MIYAVI vs SEIJI KAMEDA vs MIU SAKAMOTO)では、もちろんギターもしっかり自己主張しつつ、坂本のシルキーな歌声とMIYAVIのヴォーカルとのシアトリカルな掛け合いが興味深い。…等々もあるが、個人的に推したいのはM4「SILENT ANGER」(MIYAVI vs TAKESHI HOSOMI)。細美武士らしい構築美にMIYAVIのギターがちゃんと重なり、the HIATUSでもMIYAVIでもない世界観が感じられる。途中で転調し、変拍子的なリズムになったり、それがその後に4つ打ちになったりと、展開もおもしろくて飽きない。歌詞も素敵だ。
《We've come too far to walk away now/Tomorrow's gonna change it anyway/We've come so far/Still doing fine/We're gonna make this day a better day》。
作詞は細美武士が手掛けているのだが、ここに綴られている想いはMIYAVIも大いに共感するところであったろう。MIYAVIから細美のリクエストして書いてもらったのかもしれないので実際にはどうかわからないが、MIYAVIにしてみれば、自らが壊した壁の向こうにも同じことをやっている同士を発見したような感じではなかったか。本作の意義深さ感じざるを得ない。MIYAVI 自身、“『SAMURAI SESSIONS』はライフワーク”と公言しているので、このシリーズは今後も継続されていくことだろう。続編にも期待したい。

著者:帆苅智之

OKMusic編集部

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