山嵐の『未体験ゾーン』は日本のミク
スチャーシーンに燦然と輝く早熟すぎ
た名盤だ!

90年代の最後に産み落された山嵐の2ndアルバム『未体験ゾーン』のインパクトは、本当に凄まじかった。海外のラップ・メタルとシンクロしながら、国内のミクスチャー・ブームにおける先頭ランナー兼火付け役となった大名盤をここでは紹介したい。今から15年前に出た作品だけに“懐かしい!”と感じる元キッズもいるだろうし、まだ未チェックの若いリスナーにはぜひぜひ聴いてもらいたい。

1999年と言えば、小渕恵三のブッチホンが新語・流行語大賞を獲り、「だんご3兄弟」のCDが大ヒットした。だが、90年代最後のロックの日(6月9日)に山嵐の2ndアルバム『未体験ゾーン』がリリースされたことを忘れないでほしい。本作はオリコン初登場15位を記録し、インディーズシーンにその名を瞬く間に轟かせた。当時メンバーは20歳である。
山嵐は96年に地元の神奈川県藤沢市にて、SATOSHI(Vo)、KOJIMA(Vo)、KAZI(G)、武史(B)、YOSHIAKI ISHII(Dr)の5人組で結成(00年に麻波25のギタリスト・YUYA OGAWAが加入)。翌年には《やってきたぞ 山嵐登場》(「山嵐」)でお馴染みの1stアルバム『山嵐』で97年にデビューを飾る。当時メンバーはまだ18歳という若さだった。00年前後に隆盛を極めたニューメタル勢の流れの発端にもなり、ヒップホップの要素を取り入れた新種のヘヴィロックとして90年代中盤に頭角を現したKORN。山嵐はZeebraなど日本のヒップホップにも慣れ親しんでいたことから、“ヘヴィな音に日本語でラップを乗せる”という発想でバンドを組む。97年にはLimp Bizkitがデビュー作を発表し、同時多発的にラップを本格的に取り入れたラウド系バンドが増殖し、それがラップメタルのブームにつながった。山嵐は世界的にも見ても数年遅れの洋楽追従サウンドではなく、ほぼ同タイミングだったことも特筆すべき点であり、もちろん国内のラップメタル/ミクスチャー・シーンを牽引するサウンドで聴き手の横っ面をぶん殴った。
1stアルバム『山嵐』は抑えが効かない10代の勢いとエナジーが爆発し、荒削りながらも全楽器がフォワード体制で攻め込んでくる野獣性に富んでいた。今作に入っている「山嵐」や「BOXER'S ROAD」は、いまだにライヴ必須チューンとしてプレイし続けている。そして、ライヴや経験を重ね、飛躍的な成長を見せたのが『未体験ゾーン』だ。当時メンバーは「アイデアがあふれてきてしょうがなかった」と零し、レコーディング自体も新しいことに挑戦する喜びに満ちていたという。ラップのスキルは向上、演奏は抜き差しのダイナミズムが生まれ、実に個性豊かな全14曲が揃った。その一方で楽曲の整合性は高まり、作品全体を通してトータル性もあり、コンセプト・アルバムとまではいかないが、ビシッと引き締まった内容に仕上がっている。
表題曲はイントロのギターリフからキャッチーで、否が応にも高揚感を高められる超名曲だ。さらに蠢くような図太いベースフレーズが特徴的な「LOOP」の躍動感もたまらない魅力を放っている。また、4曲目から7曲目まで(「犯人」、「犯行」、「逃亡生活」、「手の平のSHOW」)はストーリー仕立てのドラマチックな作風で引き付ける。特に「犯人」におけるSATOSHIの早口ラップは、本職のラッパーにも勝るとも劣らない緊張感が渦巻いている。
アルバム後半には初めて打ち込みを用いたヒップホップのトラックのような「牙城」、ラッパ我リヤの2人とコラボレーションした「嵐2000」はお互いの持ち味を最大限に引き出したミクスチャーの決定打的楽曲で、悶絶せずにはいられないカッコ良さ。評判も良かったために、後々も何度かタッグを組んでいる。改めて原稿を書くために本作を聴き返したが、古さを微塵も感じない。日本のミクスチャーシーンに燦然と輝く早熟すぎる名盤だ。

著者:荒金良介

OKMusic編集部

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