【ライヴアルバム傑作選 Vol.11】
黒夢の
『1997.10.31 LIVE AT 新宿LOFT』は
清春のスピリッツを
最もよく表した反骨の一枚

『1997.10.31 LIVE AT 新宿LOFT 』('09)/黒夢

『1997.10.31 LIVE AT 新宿LOFT 』('09)/黒夢

3月20日に4年振りのニューアルバム『ETERNAL』がリリースというニュースに次いで、来年2025年2月9日まで1年間を通したツアーが発表された清春。今週はその清春のファーストキャリアである黒夢の作品を紹介する。本文にも書いたが、黒夢、そしてその後に清春が結成したSADSと言えば、一時期、怒涛の如く、全国ツアーを展開していた時期があり、当時を知る者としては、清春にはライヴアーティストとしての印象が強く残っている。黒夢、SADSのオリジナルアルバムには優れた作品が多いけれど、清春のバンド時代から1枚を選べと言われたら、このライヴ盤『1997.10.31 LIVE AT 新宿LOFT』で間違いなかろう。

最大で年間100会場全112公演!

先日──黒夢のメジャーデビューシングル「for dear」の発売日である2月9日、2024年3月から2025年2月9日まで1年間を通した30周年記念ツアー『清春 debut 30th anniversary year TOUR 天使ノ詩 『NEVER END EXTRA』』の日程が発表された。ズラッと日時と会場名が並ぶその様子を見て、実に懐かしい気持ちになった。思えば1990年代半ばの黒夢、2000年前後のSADSの全国ツアーは常にこんな感じだった。いや、当時のライヴは週末だけじゃなく、平日も当たり前のように行なわれていたので、正確にはこんなものではなかったと言うべきだろう。とりわけ解散直前の黒夢は、1998年から1999年にかけて100会場全112公演という超ド級の行程でツアーを行なっていたのだから、まったくもって今回の比ではなかった。しかしながら、こうしてライヴ日程が細かく並んでいる姿は何とも清春らしいものとして懐かしく思い出される。

振り返れば、黒夢がデビューした1990年から2000年頃は、いわゆるビジュアル系と言われるバンドが大きく台頭してきた時期だった。黒夢以外では、LUNA SEA、GLAY、L'Arc〜en〜Cielが相次いでメジャー進出し、皆、人気を獲得していった。活動規模がどんどん大きくなり、音源は軒並みミリオンを超えるセールスを記録し、コンサートも次第に大型化。スタジアム公演、ドーム公演も珍しくなくなり、『LUNA SEA 10TH ANNIVERSARY GIG [NEVER SOLD OUT] CAPACITY ∞』が10万人、『GLAY EXPO '99 SURVIVAL』が20万人、L'Arc〜en〜Ciel『1999 GRAND CROSS TOUR』東京公演が2日間で25万人を動員したのは、いずれも1999年のことだ。それぞれ順に5月、7月、8月のことである。各バンドがせめぎ合っていたこともうかがえる。

だが、黒夢はそこにはいなかった。件のバンドたちがライヴ会場のキャパシティを大きくし、最終的に上記のような超特大コンサートを開催したのに対して、黒夢はそれに倣わなかった。迎合しなかったと言ってもいいかもしれない。キャパを大きくするのではなく、会場の数を大幅に増やしていったのだ。全国各地から大都市へ観客を集めるのではなく、彼ら自ら全都道府県に出向いて行ったのである。別に清春は、彼らがあっちへ行くなら自分たちはこっちへ行く…というようなことは言っていなかった。当時よくインタビューさせてもらったのだが、少なくとも自分はそういうことは聞かなかったと記憶している。だが、全国のライヴハウスをくまなく回る当時の黒夢の方針には、ビッグキャパシティ傾向への反発、対抗心があったと見るのがスマートであろう。まさに比類なき、バンドのアイデンティティーを見出そうとしたのであった。

特筆すべきは、ライヴを開催するのが県庁所在地など大都市ばかりでなかったことだ。Wikipediaを見てみたら、1997年の『TOUR Many SEX Years vol. 2//Many SEX , DRUG TREATMENT』では、スターピアくだまつ、結城市民文化センターアクロス、鎌倉芸術館、1998年の『TOUR Many SEX Years vol. 5//CORKSCREW A GO GO!』では、守山市民ホール、泉の森ホールといった、少なくとも当時ロックバンドがツアーであまり訪れることがなかったと思われる会場名を見付けた(筆者の主観も入っているので、間違っていたらごめんなさい)。とても細かく回っていたことが分かる。インディーズバンドであったり、デビューしたばかりの人たちであったり、あるいはベテランと呼ばれる域に達しアーティストであったりが、普段なかなかメジャーな人たちが行かない場所でコンサートを行なうケースは今もたまに見かける。しかし、当時の黒夢はシングルもアルバムも出せば必ずチャート上位となっていたバンドである。当時も相当に稀なことだった。今そんなアーティスト、バンドはまったく見当たらないと思う。

OKMusic編集部

全ての音楽情報がここに、ファンから評論家まで、誰もが「アーティスト」、「音楽」がもつ可能性を最大限に発信できる音楽情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着