邦楽シーンをダンスモードにシフトさ
せたtrfの最大のヒット作『BILLIONA
IRE』

EXILE TRIBEの台頭で今やすっかり日本の音楽シーンに根付いた印象のあるダンスミュージック。80年代にはまだまだ一部好事家たちの嗜好品といったものであったが、それを一般層に浸透せしめたのは間違いなく、この人たち、trfである。ヴォーカル+DJ+ダンサーというそれまでのメジャーシーンにはなかったスタイルで、後のアーティストたちに有形無形の影響を及ぼした歴史に残る音楽ユニットだ。

先日取材させてもらった、とあるミクスチャーロックバンドの楽曲の歌メロが随分と個性的な印象だったので、その方のルーツミュージックを尋ねてみると「若い頃、聴いていたのは小室ファミリーでしたね」との返答。残念ながらその個性的な歌メロとルーツミュージックとの間に因果関係を見出せなかったが(苦笑)、1990年代半ばに多感な時期を過ごした日本人にとってはやはり小室哲哉プロデュースのアーティストは避けて通れないものだったのだろうと妙に納得させられもした。俗に言う小室ファミリー、小室サウンド。安室奈美恵、華原朋美、globe、H Jungle with tらがその代表格で、各々ミリオンアーティストであり、氏のプロデュースによる楽曲CDの累計発売枚数は3,000万枚を超えたというから、この時期、まさに時代は小室哲哉を中心に回っていたといっていい。そんな小室ファミリー、小室サウンドの筆頭がtrf(現在:TRF)である。グループ名はTK RAVE FACTORYの略称。1994年のシングル「survival dAnce 〜no no cry more〜」からミリオンを連発し、ブームの火付け役となった。本稿ではその「survival dAnce」も収録されている4thアルバム『BILLIONAIRE〜BOY MEETS GIRL〜』を振り返る。
trfは1991年にその構想が立ち上がり、1993年にシングル「GOING 2 DANCE/OPEN YOUR MIND」、アルバム『trf 〜THIS IS THE TRUTH〜』でメジャーデビューを果たした音楽ユニットである。メンバーは、ラップ、DJ、サウンドクリエイト担当のDJ KOO、ヴォーカルのYŪKI (現:YU-KI)、SAM、ETSU、CHIHARUのダンサー3名の5名で構成。世は所謂ホコ天、イカ天のバンドブームを経てのビーイング・ブームの頃で、そこに対してDJ+ヴォーカル+ダンサーによるダンスミュージックをぶつけようとした小室哲哉と、レーベルであるavexの先見の明にはすごいものがあったと言わざるを得ない。あるいは、当時すでに久保田利伸がブレイクしており、『SUPER EUROBEAT』なるコンピレーション・アルバムのシリーズもヒットしていたから(このシリーズの発売はavex)、マーケティングセンスが冴えわたっていたと言えるのかもしれない。1994年にリリースされた4thアルバムである、本作『BILLIONAIRE〜BOY MEETS GIRL〜』はtrf初のミリオンセラー作品だが、今聴いてもそれまでの邦楽シーンにおけるミリオン作品とは微妙に趣を異にしている印象がある。これはもちろん作品の質が低いという意味ではなく、所謂ポップスとは若干雰囲気が違うのだ(若干…というところがポイント)。
今となってはそれに何の珍しさもないだろうし、そのことがtrfがシーンのパイオニアであったことを逆説的に証明していると思うが、このアルバムは…M5「TRUTH’94(UNPLUGGED STYLE MIX)」とM6「KOOL LOVERS SENTIMENTAL(MEANING OF 3 MIX)」は除くが、当然のことながらダンスミュージックの要素が前面に押し出されている。ダンスミュージックの要素とは簡潔に言えば、ビートとループ感である。オープニングのレゲエナンバーM1「BILLIONAIRE(ORIGINAL SUMMER’94 MIX)」からしてそうで、誤解を恐れずに言えば、単調と形容してもいいのかもしれない。ラップ調(韻を踏んでいるわけじゃないから、あくまで“調”)なパートもそれを強調している感がある。キックとスネアを強調したビート、そこに乗るメロディーも比較的短い小節で繰り返されることから生まれる気持ち良さ、陶酔感こそがダンスミュージックの醍醐味のひとつと言えるだろうが、本作の肝はそこである。M2「Le Bleu(GRAND BLEU DANCE)」もM4「Sexual in Gravure (JAZZY GROOVE MIX)」そうだし、M3「BOY MEETS GIRL(12”CLUB MIX)」とM7「survival dAnce(12”REMIX)」もシングルバージョンとミックスを変えることで、そのダンスミュージックならではのカタルシスを増幅させている。こうしたスタイルの音楽が大衆の支持を得てミリオンセールスを記録し、第36回日本レコード大賞でベストアルバム賞を受賞したことは、日本の音楽シーンにおいてかなりのエポックメイキングだったと言って間違いない。それまでもさまざまなアーティストのヒットシングルのディスコミックスというものもあったし、ロックバンドのリミックスアルバムが発売されることもあり、それなりの評価を受けた作品もあったが、それらが本家を超えることはなく、一部好事家たちのものという印象は否めなかった。そんなダンスミュージックを一気にメインストリームのド真ん中に持ち上げたtrfの功績は計り知れない。
その偉業の要因は…と言えば、それはとりもなおさず、小室哲哉の作るメロディーの大衆性にあると断言していい。ダンスミュージックならではのループ感、ビート感をベースに、日本の音楽で最も支持を受けているポップスならではの抑揚あるメロディーをミックスさせたのである。これによりリスナーは違和感なくtrfの世界観に没頭していったと想像できる。先に「M5「TRUTH’94(UNPLUGGED STYLE MIX)」とM6「KOOL LOVERS SENTIMENTAL(MEANING OF 3 MIX)」は除く」と書いたのは、この2曲はメロディーが前面に出ているためだが、これらを収録しているのもおそらく大衆を意識した結果ではないかと思われる。Jポップとダンスミュージックの中庸と言えばいいか。『BILLIONAIRE〜BOY MEETS GIRL〜』はこのバランス感覚も悪くない。この辺は後の日本のヒップホップやEDMにも少なくない影響を与えていると思う(無論それは、その演者ではなく、それらのリスナーへ多様性を与えたという意味で…であるが)。また、これはDJ KOOの手腕だろうが、サウンドクリエイトの妙も聴き逃せない。無国籍感というか、多国籍感というか、南米系のパーカッションにアジアンテイストを合わせたり(M1「BILLIONAIRE(ORIGINAL SUMMER’94 MIX)」、東南アジアの民族音楽に和楽器を加えたり(M3「BOY MEETS GIRL(12”CLUB MIX)」と、単に耳障りがいいだけでなく、優れたポップミュージックに不可欠なオリジナリティーもちゃんとあるのだ。
その後、trfは小室哲哉プロデュースから離れ、リリースのペースは全盛期とは比べるまでもなくなったが、現在も現役である。2012年にリリースした『EZ DO DANCERCIZE』というエクササイズDVDの大ヒットが記憶に新しいところだ。SAM、ETSU、CHIHARUが「EZ DO DANCE」「survival dAnce 〜no no cry more〜」「BOY MEETS GIRL」に合わせたダンスエクササイズプログラムで、こちらもミリオンセールスを記録した(CDとDVD両方でミリオンセールスは日本人歌手初だとか)。あと、彼ら絡みのトピックとしては、何と言っても、DJ KOOのタレントとしてのブレイクであろう。俗に言う天然キャラクターでバラエティー番組で大変重宝されていることは説明不要だと思う。90年代半ばに一世風靡し、日本の音楽シーンのその後の方向を変えてしまったtrfだけに、そのメンバーのポテンシャルはやはり伊達ではないのだと痛感する。

著者:帆苅智之

OKMusic編集部

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