【独断による偏愛名作Vol.5】
佐藤聖子の等身大が詰まった
『After Blue』の魅力を
当時の“ガールポップ”シーンと共に
振り返ってみた

『After Blue』('92)/佐藤聖子

『After Blue』('92)/佐藤聖子

クリスマス時期でもあるので、(そんなものがあるのかどうか調べてもいないけれど)国内のアーティストのオリジナルクリスマスソングだけを集めたオムニバス盤とか、単独アーティストにしても、定番中の定番曲が収録されている、あの人の『○○○○○○○○』とか、あのふたり組ロックバンドのミニアルバム『△△△△△△△』とかを紹介しても良かったのだが、ここはあえて知る人が知る作品をピックアップしてみた。この佐藤聖子の2ndアルバム『After Blue』のタイトルチューンは、少し切ない印象のクリスマスソング。“クリぼっち”を嘆いている人がいるなら聴いてみてほしい。30年前にも同じような気持ちを楽曲にしたシンガーがいたことを確認できるだろう。

今も称えたい“ガールポップ”の動き

1990年代前半に“ガールポップ”なるムーブメントがあった。いや、正確には、“ガールポップ”をムーブメントにしようとする動きがあったと言うべきだろう。少なくとも筆者には“ガールポップ”自体が流行った記憶はない。安室奈美恵や浜崎あゆみがそこに関連付けて語られる節もあるようだが、安室は1990年代半ば、浜崎は2000年頃に、それぞれ単独でブームとなったのであって、女性ポップス、ロックシンガーがこぞってヒットチャート上位にランクされるような時期はなかったと思う。無論それなりにヒット曲はあった。人気となったアーティストもいた。その筆頭は森高千里だろうし、永井真理子や久宝留理子もこの時期に代表曲を生み出している。しかしながら、のちの安室、浜崎ほどにブレイクしたかと言えば否と言わざると得ないし、彼女たちの楽曲にしても同時期、一斉にヒットしたわけではなかった。“ガールポップ”と括られた女性アーティストを集めたライブイベントもあったようだが、現在のフェスほど規模の大きなものはなかったと思う。SHOW-YAが提唱した女性ミュージシャンのみによるフェス『NAONのYAON』は、初開催が1987年だから、“ガールポップ”よりやや早い(その意味では先駆けと言うことはできるかもしれない)。やはり、“ガールポップ”はムーブメントと呼ぶに至るものではなかったということになる。

ご存知の方も多いと思うが、“ガールポップ”は『GiRLPOP』であって、元は音楽専門誌の名称である。『GiRLPOP』についてはWikipediaの紹介が端的なので、以下それに譲る。[『GiRLPOP』(ガールポップ)は、エムオン・エンタテインメント(旧ソニー・マガジンズ)から発行されている音楽雑誌。ガールポップという言葉は、1990年代から2000年代中盤、ソニー・マガジンズが中心となって提唱したレコード会社と音楽産業の販売拡大戦略。日本の若手女性ポップス歌手・シンガーソングライターに焦点(フォーカス)をあて、メディアミックスという方法論(メソッド)でムーブメントを起こすことを目的とした。ブームが盛り上がるにつれ音楽ジャンル名としても使われ、さらにテレビ・ラジオ番組名にも使われるほどに成長し、このブーム期を示す一時期を表す言葉となった]とある。要するに、“ガールポップ”は出版社が仕掛けたものだったということだ。これもまた正確に記すなら、上記に[ブームが盛り上がるにつれ]とか[ブーム期を示す]とかあるけれど、“ガールポップ”は間違いなく誰もが知るようなムーブメントではなかったので、“仕掛けようとした”と表現するのが正しいだろう。雑誌『GiRLPOP』は1992年に創刊され、一旦2006年に休刊するも、2011年にはアイドルを中心とした内容で復刊。公式サイトを見ると、『2016 WINTER』を最後に発刊されていないようなので、再度休刊した模様である。

ここまでの拙文は“ガールポップ”を否定的に捉えているように聞こえるかもしれないが、むしろ逆である。ムーブメントには至らなかったかもしれないけれど、その心意気やよし…であったと思う。今も称えたいところではある。再びWikipediaから引用すると、同項目の説明に以下のような記述がある。[1990年代初頭、音楽業界は音楽番組が激減した冬の時代に入っていた。数少ないミリオンセラーアーティストを除いてはCDが売れない状況であり、特に女性歌手に関しては、1980年代に隆盛を誇ったアイドル歌手も下火となっていた。そのような状況の中、(中略)アイドル性を持ちながら、自ら作詞,作曲を行う若手の女性歌手、シンガーソングライターが数多くデビューを遂げており、これに目を付けたソニー・マガジンズでは、これらのアーティストを指す名称を造語し、各メディアで盛り上げていくことを計画]したという。Wikipediaなので必ずしも正確性を担保するものはないけれど、これが“ガールポップ”を提唱した背景のようである。業界全体の浮揚を考えた大人の仕事であったとするならば、その結果がどうあれ、その意志は否定するべきものではなかろう。(ここまでの[]はすべてWikipediaからの引用)

OKMusic編集部

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