これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!

これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!

COLORの『激突!!』は
自由なる意志を貫き、
現在のV系シーンに
多大な影響を及ぼした神盤

『激突!!』(’88)/COLOR

『激突!!』(’88)/COLOR

現在、Dir en greyやMERRY、baroque、sukekiyoらが所属し、かつてはBY-SEXUALやかまいたちを送り出したレーベル、フリーウィル。ビジュアル系を扱う国内最大規模のプロダクションだが、そのフリーウィルの代表であり、総合プロデューサー的な立場で所属アーティストに接しているのがDYNAMITE TOMMYである。今や経営者として面がクローズアップされることがほとんどだが、その辣腕も氏がヴォーカルを務めていたCOLORでの活動がバックボーンになっているのは疑いのないところ。今週は、まさに“自由なる意志”が発揮されたCOLORのデビュー作『激突!!』を解説する。

Xの向こうを張った西の大物

“東のX、西のCOLOR”。初期ビジュアル系シーンを語る際にちょくちょく目にする言葉であり、シーンの黎明期を端的に表したものと言える。1980年代後半のインディーズシーンにおいて、関東ではX(現:X JAPAN)、関西ではCOLORが台頭し始めたことで、それがのちのビジュアル系に発展していった。

ただ、X JAPANを紹介する時に(少なくとも再結成以降には)この台詞が出てくるのをほとんど見たことがないので、これは専らCOLORというバンドを説明する場合の常套句と言える。1990年代後半に活動が滞った以降(註:正式な解散発表はされていないようなので、このような表現とした)、2003年と2008年にライヴを行なっているものの、それは不定期かつ長期スパンを経てのものだったので、今やこの言葉はCOLORというバンドがX JAPANと並ぶシーンにおけるレジェンドのひとつであることを示すものとして使われることがほとんどであろう。レジェンド=伝説には尾ひれが付きもので、とある事実を拡大解釈していたり、根拠が不明だったり、単に空気でそう呼ばれているような場合がなくもないが(それゆえに最近はレジェンドを軽視する傾向にもあるようだが)、COLORは正真正銘、ビジュアル系シーンのレジェンドのひとつである。COLORがいなかったら今のビジュアル系はなかった。いや、あったかもしれないが、現在とその姿を変えていたのは間違いない。

シーンを形成した自主レーベルの設立

COLORがいなかったら今のビジュアル系シーンはその姿を変えていたとは断言したが、とは言え、COLORがそう意識して活動していたのかというと、そういうことでもない。そもそもCOLORは〈大阪にてDYNAMITE TOMMYが「こんなクソみたいな世界ムカつくからありとあらゆる手段で叩きつぶしてやる」ために〉結成されたバンドだという(〈〉はWikipediaから引用)。AIR JAM世代以降とは真逆と言ってもいい、破壊的な衝動が基にあったようだ。パンクで言えば、初期パンクでなく、ハードコアパンクの主張を継承していたかのように思える。まぁ、“ありとあらゆる手段で…”とは言っても、そこは日本での話。あくまでパンクのDIY(=Do It Yourself)精神を強く反映させたと見るのがよかろう。
1986年にフリー・ウィル・レコード(現:フリーウィル)を設立したのもそうしたCOLORの反骨精神、その発露のひとつと考えられる。COLORの最初の音源、1stEP「MOLT GRAIN」はそのフリー・ウィル・レコードからのリリース。DYNAMITE TOMMY言うところの “クソみたいな世界”を、COLORならではの“手段で叩きつぶそう”としたのだろう。ちなみに、X(現:X JAPAN)のYOSHIKIが自身のレーベルであるエクスタシーレコードを設立したのは1986年4月だ。フリー・ウィル・レコード設立の月日が不明だったので、レーベル設立に関してお互いに直接的な影響があったのかどうかは不明だが、交遊のあった両バンドだけに、そこで何かしら情報交換等があったとしても不思議ではないだろう。いずれにせよ、1980年代後半の同時期に東西の人気バンドが自らのレーベルを持ったことは、強大なエポックであり、のちのシーンに及ぼした影響は計り知れない。

パンクロックが色濃くでた作品

音源の話をしよう。そんなCOLORが1988年1月に発表した1stアルバムが『激突!!』である。先ほど若干パンクの話をしたが、X(現:X JAPAN)の1stアルバム『Vanishing Vision』はヘヴィメタル、プログレが色濃く出ている一方、『激突!!』はパンク色が強い。つまり、“東のX、西のCOLOR”というのは、同じ音楽性のバンドが東西で人気を二分していたとかではなく、出で立ちやライヴのスタイルが近いバンドが東西にいて、それぞれに人気があった…という解釈が正解。今そんな人がいるかどうか分からないが、X JAPANから入ってCOLORを聴いて、“これは私が求めていたものと違う”と思う人がいても無理からぬところかと思う。

逆に言えば、Hi-STANDARDやAIR JAM世代のパンクが好き人でCOLOR未体験者がいるなら、そのルーツ──いや、彼らと同じルーツから派生した前世代のパンクロック、あるいは、実在したパンクロックのもうひとつの可能性として聴いてみると面白いかもしれない。M1「KILL TIME」、M3「LA LA MIE」、M5「WE MUST BE A DEAD OR ALIVE」、M9「A.R.O」。いずれもサビメロのキャッチーさが際立ったパンクナンバー。M7「DOLPHIN KICKS」のメロディーはややマイナーで、ハードコアパンク的と言えるが、曲自体は決して明るくないのにどこか陽性な感じはやはりパンクのそれだろう。COLORよりバンド歴が若干先輩のLAUGHIN' NOSEの初期作品を彷彿させるような印象がある。また、シンガロングが多い点もパンクらしさを助長していると思う。シンガロングが似合うというのではなく、実際にシンガロングしているナンバーが多いのだ。M1、M5、M7、そしてM8「FEARFUL SPALOW」、M9「A.R.O」、M10「BEAT THE PEOPLE」と後半は連発。この辺はほとんどCOLORの得意技と言っていいだろう。

パンクに留まらないギターのセンス

さて、ここからが『激突!!』の、そしてCOLORの音楽性の核心。前述の通り、基本的にはパンクの体裁を成した楽曲が多いのだが、随所随所でパンクとは異なるアプローチがなされているのである。分かりやすいところではM1「KILL TIME」とM11「LEFT WING」のイントロ前。どこかプログレ風のシンセが聴けるM1、「Phantom of the Opera」風というか、若干QUEEN風なM11は、いずれも、少なくとも当時のパンクにはなかった発想ではなかろうか。まだある。それは主にギターサウンドのアプローチだ。まず、M2「FLYING DIVING」。複雑なギターリフもそうだし、ハンマリングやプリングを使った表現もどちらかと言えばメタル寄りだろう。2曲目にこれを置く辺りにCOLORが単純なパンクバンドではないことがうかがえる。

伸びやかなギターを聴かせるM6「PURPLE CARPET」はハードロック的、M8「FEARFUL SPALOW」では跳ねたリズムと相まってファンクロック的。特にM8はブルージーなテイストもあり、大袈裟に言えば、ちゃんとルーツミュージックを理解しているギタリストが弾いている印象だ。M10「BEAT THE PEOPLE」で聴かせるThe Clash風からTHE POLICE風へと展開していくギターは、ロンドンパンクの系譜を示しているとの見方は深読みすぎるだろうが、とても興味深いサウンドであることは間違いない。この辺はTATSUYA (Gu)、CINDY (Gu)の両ギタリストの手腕によるところが大きいわけだが、TATSUYAはこの時まだティーンエイジャーだったというから驚き。〈COLORを知る者が「DYNAMITE TOMMYがいなくてもTATSUYAさえいればCOLORは成立する」と言うほど貢献度は高かった〉というのだから(〈〉はWikipediaから引用)、そのテクニックはファンからのお墨付きをもらっていたものであった。確かに間奏のギターソロはどれも素晴らしいものばかりだ。

ジャンルや東西の垣根も叩きつぶす

興味深いサウンドはギターに限ったものではない。M4「50cc」はオールディーズタイプのR&R。この辺りはMARRY(Ba)とTOSHI (Dr)とのリズム隊が楽曲に躍動感を持たせている。これ以外にもM5「WE MUST BE A DEAD OR ALIVE」など、ベースラインは面白いものがあって、Sex Pistolsのグレン・マトロックが醸し出すグルーブ感を彷彿させるところ。ただ、そんなMARRYはベースがまったく弾けなかったにもかかわらず、DYNAMITE TOMMYに共感してCOLOR加入したというから、これまた驚きだ。DYNAMITE TOMMYのカリスマ性を知らしめるとともに、ズブの素人からここまでベースをプレイできるようになったMARRYの漢気を感じるエピソードだ。

先ほど“シンガロングしているナンバーが多い”とも書いたが、ユニゾンだけではなく、M9「A.R.O」ではメンバーが順番にヴォーカルを担当する、所謂“歌を回す”ところがあったり、ヴォーカル、コーラスも面白い。その点でとりわけ注目したのはM2「FLYING DIVING」だ。サビでのコーラスワークはソウルフル…とは言いすぎかもしれないが、そのハイトーンヴォイスが重なる様子は、まさに“FLYING DIVING”に相応しい解放感がある。それもそのはず(と言うもの変だが)、このコーラスにはX(現:X JAPAN)のToshlが参加している。今聴いても素晴らしいテイクである。ちなみにDYNAMITE TOMMYは2009年には元Xの沢田泰司(Ba)とともにバンドを結成しており、東西で人気を二分していた両バンドの親交の深さをうかがわせる。その意味ではCOLORは東西の垣根、ジャンルの垣根も確実に“叩き潰した”のである。天晴である。

TEXT:帆苅智之

アルバム『激突!!』1988年発表作品
    • <収録曲>
    • 1. KILL TIME
    • 2. FLYING DIVING
    • 3. LA LA MIE
    • 4. 50cc
    • 5. WE MUST BE A DEAD OR ALIVE
    • 6. PURPLE CARPET
    • 7. DOLPHIN KICKS
    • 8. FEARFUL SPALOW
    • 9. A.R.O
    • 10. BEAT THE PEOPLE
    • 11. LEFT WING
『激突!!』(’88)/COLOR

OKMusic編集部

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