元祖ライヴバンド、子供ばんどの実態
を音源に閉じ込めた傑作ライヴ盤『D
YNAMITE L・I・V・E』

明るく、楽しいライヴステージを信条とした子供ばんど。決して大ブレイクしたバンドではないが、彼らが残した足跡は間違いなく後の日本ロックシーンに多大なる影響を与えた。

88年にライヴ2000本を達成

今でこそライヴバンドを標榜するロックグループは多い…というか、もはやロックバンドとライヴバンドとはほぼ同義語となっている感すらあるが、ライヴを活動の中心とするバンドが少なかった1980年代初頭に、全国各地でライヴをしまくっていた子供ばんどは、日本ロック史において忘れてはならない存在だ。もちろん、当時、彼ら以外にもライヴ中心のバンドがいなかったわけではないが、子供ばんどの場合、誰もが知っているようなヒット曲があったわけでも、芸能的な話題を振りまいたわけでもないというのがポインだろう。まぁ、アニメ『北斗の拳』の主題歌となった「HEART OF MADNESS」や「SILENT SURVIVOR」はスマッシュヒットしたが、『北斗の拳』と言えばクリスタルキングの印象が強いだろうし、ヴォーカル&ギターのうじきつよしが役者として活動を始めたのは1990年頃からなので、80年代、彼らは彼らのスタンスのまま、実直に活動を続けていたと言ってよい。そして、1988年にライヴ2000本を達成。それを機に“全て出し切った”と活動を休止するのは何とも皮肉な話ではあるが、ザ・ブルーハーツやBUCK-TICK、ユニコーンがデビューしたのが1987年であるから、まさにバンドブーム直前の時期にこの偉業を達成したことはもっと称えられていいと思う。
子供ばんどのデビューは1980年。未だニューミュージック全盛かつ、アイドル文化華やかし頃ではあったものの、YMOの出現でテクノポップがブームとなり、RCサクセションが台頭してきたので、ロックバンドには微妙な追い風が吹いていた時期だったように筆者は記憶している。ただ、当時のシーンで活躍していたバンドというと、RCサクセションはもとより、ARBにせよ、ザ・スターリン、THE MODSにせよ、雰囲気がストイックというか、アンダーグラウンドな存在で、どこか退廃的な匂いを感じさせるバンドがほとんどだったように思うが(そこが魅力的に映ったわけだが)、子供ばんどはその楽曲にも佇まいにも暗さがほとんどなかった。楽曲はメジャーコードのハードブギの印象が強いし、今も思い出すメンバーの顔はライヴステージでの笑顔だ。筆者は当時前述のバンドを同時に聴いていたが、今となってみても整合性がないというか、少なくとも子供ばんどは浮いている気がする。そもそも整合性のある聴き方をするリスナーというのも気持ちが悪いものでそのことはどうでもいいのだが、筆者の中で子供ばんどは当時のバンド群の中では異彩を放つ存在だった。でも、理屈抜きで大好きだったし、何度かライヴへ行き、ステージ最前でかぶりついてメンバーの演奏を観ていた。

コンサートの楽しみ方を教わった

そんな子供ばんどの作品から一枚を選ぶなら、デビューアルバム『WE LOVE 子供ばんど』も、変則的な3枚組『GIANT(HOP,STEP,JUMP)』もいいが、やはりライヴアルバム『DYNAMITE L・I・V・E』に尽きるだろう。これほど“ライヴバンド”子供ばんどを端的に表した作品はない。そう断言できる。まずM1「Introductionn~ジャイアントマンのテーマ」のSEにも近い、これからライヴが始まるという高揚感を表したテイクが素晴らしいのだが、注目はM2「お前のことばかり」。このテイクはいきなり観客とのコール&レスポンス、そしてJICK(=うじきつよし)のMCで始まる。こんなライヴ盤はなかなかない。「子供ばんどが野音(=日比谷野外音楽堂)に出ちゃいけないってのかよ? 来月はワンマンコンサートやろうと思ってるんだぜ、今日のノリ次第によっちゃ…そんなの嘘さ(会場笑)」。当時、子供ばんどが置かれてる状況がよく分かる台詞だ。客観的に見たらそもそもこんなにMCを収録する必要があったのかと思わなくもないが、さにあらず。このJICKのMCを含んでこその子供ばんどだ。M2のアウトロで「お前のことばかり」のメロディーに合わせてJICKはこう歌っている。「手拍子だけは忘れないでよろしく頼むぜ。だって高い金払ったんだろう? やるだけやんなきゃ損だぜ。立ったり座ったり勝手にやれよ」。こんなことを聴いたらその後のライヴへの臨み方が決まろうというもの。ロックコンサートの楽しみ方は間違いなく子供ばんどから教わった。某公会堂で警備員の制止を振り切って最前列に行ったことは今となっては申し訳ない気持ちにもなるが、当時はそう誘うJICKが目の前に居たので仕方がないことだ。いや、本当にすみませんでした。「お前のことばかり」に続く、M3「頑張れ子供ばんど」は彼らのテーマ曲かつキラーチューンであり、否応なしにテンションが上がるし、その後、ベーシスト・湯川トーベンがヴォーカルを務めるM4「アル中ロックンローラー」で疾走感を増す構造は子供ばんどのライヴの熱さのそのものだ。
アナログ盤ではM5からB面に遷り、以下のJICKのMCから幕を開ける。「これはライヴレコーディングしてんの、このステージ、ホントに。(観客沸く) お前らな、急に歓声の何か反応がよくなったじゃないか?(笑) (観客沸く~中略)うるせーこの野郎! 急に(音源に)入れようとしてるな? このレコードはいつ出るかわかんないけど、これの出来が良かったら秋とか冬とかに出せることになるかもしれないから、みんな楽しみにしてしててください」。そして続くのが、ミディアムナンバーM5「だからそばにいておくれ」というのは何とも泣かせる並びだ。ライヴあってのバンド、オーディエンスあってのバンドを体現しているようでもある。しかも──この楽曲はツッペリン風で始まり、ボブ・ディラン風に展開するのだが、歌が始まった途端に会場から拍手が起こる。この拍手が予定調和ではなく、その場に居合わせた人たちが気持ちの高まりとともに拍手しているのでは…と思わせるタイミングなのだ。ライヴ盤ならではのマジック。今聴いてもちょっと感動的である。ちなみにこの音源は、日比谷野外音楽堂、久保講堂、中野サンプラザでの録音音源を収録しているが、プロトゥールスなどない時代に、これだけのテイクを集めたスタッフワークにも拍手を贈りたい。

祝! 再始動! レジェンド復活!

その後、M6「DREAMIN’(シーサイド・ドライヴ)」という子供ばんど初期の代表曲を挟み、ラストM7「踊ろじゃないか」を迎える。これもJICKのMCで始まる。「OK! 最後は目いっぱいリラックスしていってもいいか? みんなもリラックスしていくんだぞ! 警備のお兄さんもリラックスしてください。カメラのおじさんもリラックスしてください。OK! みんな、楽しくやろうぜ! 座ってるなんて馬鹿馬鹿しいぜ! 『踊ろじゃないか』!」。ハードブギの真骨頂、享楽的とも言えるダンスチューンである。このテイクはオーディエンスがサビの《踊ろじゃないか?》と合唱する様子までしっかり収録しているだけじゃなく、途中、「こんなに(会場が)いっぱいになるなんて思わなかったぜ! やるじゃんか、お前ら! 何か来年はイケそうな気がしてきた!」と感極まるJICKのMCもしっかりと収めている。アウトロではギターで「うさぎのダンス」(※《ソソラ ソラ ソラ うさぎのダンス》ってヤツです)を披露。最後の最後まで観客を楽しませるサービス精神を忘れない辺りも子供ばんどらしい。ドキュメンタリー映画の如き、臨場感。全7曲収録と、下手したらマキシシングルくらいの曲数しか収められていないのものの、『DYNAMITE L・I・V・E』はまるで本公演を体験したかのような充実感が得られる見事なライヴ盤である。ちなみにちなみに──筆者は最近まで知らなかったが、この『DYNAMITE L・I・VE・』は当時カセットテープ版も発売されており、何とLP版よりも曲数が多いと聞く。マスターが紛失していたら仕方がないが、そうじゃなければ、そんなものを隠していても誰ひとり得をしない。これはぜひとも復刻してほしいところだ。

ご存知の方もいらっしゃるとは思うが、1988年に活動を休止していた子供ばんどは2011年に再始動している。各地でのフェス出演のほか、ティーンの頃、子供ばんどの熱心なリスナーだったユニコーンやジュンスカイウォーカーズらとともにイベント出演を果たした上、もちろんワンマンライヴも開催と、彼らの信条だったといえるライヴ活動を元気に展開。2013年にはオリジナルアルバム『CAN DRAIVE 55』をリリースと、再始動後は極めて順調のようだ。80年代初頭に疾風の如くシーンを席巻したバンドなだけに、今となってはもう当時のような速度で活動しなくともいいと思うのは筆者だけじゃなかろう。年に数回で構わないので、当時のような粋のいいライヴステージを観せてくれることを希望する。

著者:帆苅竜太郎

OKMusic編集部

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