OUTRAGEのスラッシュメタルが
世界標準であることが克明に示された
メジャーデビュー作『Black Clouds』
日本スラッシュメタルの雄
彼らが掲げるサウンドは日本ではメインストリームとは言い難いヘヴィメタル、とりわけそれをさらに過激にしたと言われるスラッシュメタルである。雑多な音楽シーンの流れに塗れることなく、今年デビュー35周年、結成から数えれば40周年というキャリアを着実に積み重ねてきた。本作を聴くとそれも納得というか、デビュー時からすでに貫禄と呼んでいい、確固たるスタンスを備えていたことを実感することができる。
最近ではそうした偏見を持つ人もかなり減ったと思われるが、ヘヴィメタルというと、とかく音がうるさいとか、演奏が長くてしつこいとか、メンバーの見た目が汚いとか、敬遠する人にはとことん敬遠されていた時期があった。OUTRAGEがメジャーデビューを果たした1987年の日本においても、まだ微妙に…ではあったであろうが、しかしながら確実に、その傾向はあったように記憶している。その辺はWikipediaの“ジャパニーズメタル”の記事に詳しい。以下の記述が興味深い。[1980年代当時のBURRN!編集長であった酒井康は一般層に浸透しているヘヴィメタルのイメージが「長髪、化粧、騒音、馬鹿」になっていると嘆き、宣伝目的で安易にバラエティー番組に出演するバンド側に対し「メディア(の影響力)は怖い。出演している側がシャレと思っていても、知らない人はマジで受け止めてしまう」と危惧すると同時に「ヘヴィメタルを理解していない人たち、つまり、一般メディア、マスコミ、それらに利用されているとは思わない頭の良い日本のバンド様によって一般大衆に“ヘビメタ”という言葉だけが浸透していっただけ」と痛烈な皮肉と批判を口にしていた]とある([]はWikipediaからの引用)。誤解に基づく偏見と蔑視であったというのは、老舗専門誌の編集長ならではの慧眼である。
ただ、そうは言っても、ライトユーザーにヘヴィメタルを理解させるのが難しかったことは、これもまた事実であっただろう。同ジャンルはテンポの速い楽曲も多く、それゆえにメンバー全員にかなりの演奏スキルが要求される。それだけのテクニックがないバンドの楽曲は聴くに堪えないのだ。うるさい演奏がただただ続くだけである。思うに、ヘヴィメタルを蔑視した人たちの中には、そうした聴くに堪えないヘヴィメタルを体験して(例えば、学園祭でのライヴとかで…ね)、うんざりしたという人たちも少なくなかったのではないかと筆者は想像する。とにかくヴォーカルとメインギターが一定のレベルじゃないと目も当てられない。聴くに堪えないどころか、本当に聴けたものじゃなくなるのだ。
何を言いたいかと言えば、それだけヘヴィメタルは精密さが必要な音楽だということだ。1990年代以降はジャンルも多岐に広がり、そのエッセンスを取り込んだアーティストも増えてきたので、ヘヴィメタルも一概にテクニック指向とは言えなくなった感もあるが、1980年代まではテクニックのないバンドはデビューなどできるはずもなかった。当然まともなバンドをライトユーザーが軽く聴く…なんて機会も少なかったと想像できる。無論バンドにとってメジャーは狭き門であっただろう。ちなみに、OUTRAGEよりも先にメジャーで活動していた日本のヘヴィメタルバンド、REACTION、PRESENCE(メタルバンドとして扱うには強引だが…)も1989年に解散しているので、彼らがデビューした頃、メタルシーンは冬の時代に突入しようと言っていいかもしれない。仮にそうだとすると、そんな中でOUTRAGEがメジャー進出したのは、彼らがその行く末を嘱望されたからであることは疑うまでもなかろう。以下の記述は、そうしたOUTRAGEの資質やポテンシャルを1stアルバム『Black Clouds』から探っていこうとする試みである。