凛として時雨の
『still a Sigure virgin?』に
宿る中毒性を帯びた
オリジナリティー

『still a Sigure virgin?』('10)/凛として時雨

『still a Sigure virgin?』('10)/凛として時雨

5月18日より凛として時雨のワンマンツアー『Tour 2019 Golden Fake Thinking』がスタートするということで、今回は凛として時雨の名盤を紹介。4thアルバムにして自身初のチャート1位に輝いた『still a Sigure virgin?』をピックアップする。彼らはメジャーデビューから未だ10年余りのキャリアなので名盤に取り上げるには時期尚早という声があるかもしれないが、他に類するバンドが見当たらず、すでに何組ものフォロワーが現れている時点で、十分に殿堂入りクラスのアーティストだ。何よりもその作品が素晴らしいことは言うまでもない。

他に類するものがない存在

半年くらい前だったか、とあるレコードレーベルの方と話していて、こんな話になった。“最近の新人は既存のアーティストの影が見える子たちが多い。別に影が見えてもいいが、それを覆い隠すだけの独自性がないと結局、影ばかりが目立つ”。さすがに細かい言い回しは忘れたけど、そういう主旨だったと記憶している。こちらが“あぁ、確かに○○○○○○○○とか、△△△△△△△△みたいなバンドって相変わらず多いッスよね”と軽口を叩くと、氏は“ウチにもそういうバンドは少なくない”と自嘲しつつも、新人発掘担当のスタッフには“どこかで聴いたことがあるようなバンド、アーティストを見つけてくるな”と日頃から口を酸っぱくして言っていると強調していた。

ついでにもうひとつ別の話。これも少し前のことだが、たまたまインディーズバンドのステージを観る機会があった。どのレーベルとも未契約ではあったが、口コミで人気を集めて動員もそこそこ。ルックスも悪くなく、ソングライティングのセンスもテクニックも申し分ない…とまでは言わないまでも、個人的には十分に及第点は挙げられるかなという印象はあった。ライヴ後、彼らが出演していたライヴハウスのマネージャーに“なかなかいいバンドじゃなスか?”と、これまた軽口を叩くと“まだまだ”と一笑に付すマネージャー氏。氏曰く、“メロディーが××××××に似すぎ。おそらく自身が××××××のファンなのだろうけど、このままではこれ以上は無理”と、こちらはなかなか手厳しかった。

いや、冷静に考えてみれば、手厳しくも何でもない話だ。アマチュアのままならそれでもいいだろうが、もし彼らが自分たちの音源を一般消費者に買ってもらおうと考えるのであれば、所謂二番煎じが通用するわけはない。まぁ、“オリジナルよりも、そのコピーのほうがいい”という人が完全にゼロだとは言い切れないが、いたとしてもそれは極端にマとニアックな人だろう。やはり多くの人は“オンリー1である□□□□□□”を指向するし、よほど酔狂な人でもなければ、最初から明らかにその劣化版である“第2、第3の□□□□□□”へは向かわないはずだ。それが話題を集める可能性もなくはないし、注目されてスマッシュヒット…なんてケースが過去になかったわけでもないが、劣化コピーが末永く支持されてきた実例を少なくとも筆者は知らない。

アルバム『still a Sigure virgin?』と凛として時雨についての原稿作成に臨んでいたらそんなことが思い浮かんだので、徒然なるままに書いてみた。多くの人から支持を得ているアーティストは必ずそのアーティストならではの独自性を持っている。結成30周年、デビュー20周年なんて人たちは大なり小なりそういうオリジナリティーを備えていると言って間違いないし、ここ10年間で考えると、やはりそこで凛として時雨の名前は外せない。正直に告白すると、筆者自身は凛として時雨のアルバムをちゃんと聴くのは今回が初めてくらいだったりして、彼らに関しての知識は半可通どころの騒ぎでないのだけれども、それでも、このバンドが日本のロックシーンにおいて他に類するものがない存在であることはよく分かる。しかも、そのことは随分と速くから認識していた気がする。逆に言えば、ことさらその存在に注目せずともそのすごさが自然と耳に入って来ていたということになるわけだが、誰もが知る特大ヒットがあるわけでも、ドームツアーを行なうような動員があるわけでもない──言うならば、目に見える数字を持たないバンドの動向が、何となくにせよ、伝わってきたと考えると、彼らのすごさを改めて実感するところである。

OKMusic編集部

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