これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!

これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!

奥田民生、Theピーズ、
the pillows、YO-KINGが結集!
短期間でロックへの敬愛を詰め込んだ
『O.P.KING』

『O.P.KING』(’03)/O.P.KING

『O.P.KING』(’03)/O.P.KING

今週は、奥田民生、大木温之(Theピーズ)、佐藤シンイチロウ(the pillows、Theピーズ)、YO-KING真心ブラザーズ)の4人による、好事家にはたまらないコラボレーションであったO.P.KINGを取り上げる。2003年の夏限定という短命のバンド(?)だったが、その刹那に放ったR&Rはこの4人ならではの見事な結晶であった。2008年に日本テレビのCMで復活、さらには2014年のYO-KINGと奥田民生との合同ライヴでも復活と、2003年以降、わずか2回再結成しているが、今年は結成15周年。そろそろ、もうまたやってもいい頃のような気もするが…どうでしょうか、みなさん?

ロックアーティストのコラボ

フィーチャリングを含めて、普段は活動をともにすることがないアーティスト同士のコラボレーションというのは、見聞きしてるこちらにも燃えるものがある(時に萌えるものもある)。ヒップホップではもはや定番化していると言っていいので、若い世代にとっては、コラボレーションは当たり前くらいの認識なのかもしれないが、MTV世代、USA for Africaによる「We Are The World」の直撃世代辺りには格別な想いがあるのではなかろうか。「We Are The World」での、Michael Jackson、Lionel Richie、Stevie Wonder、Cyndi Lauper、Bruce Springsteen、Ray Charles、Daryl Hall & John Oates、Bob Dylanら、米国を代表するスーパースターたちが大挙して登場し、ヴォーカルを回して、印象的なサビを合唱する様子は多くの人を興奮させた。それに倣ったかたちであろう。

日本でも2011年、東日本大震災の復興支援として、サザンオールスターズ、福山雅治、ポルノグラフィティ、Perfumeらが参加した“チーム・アミューズ!!”による「Let's try again」が制作されているし、それ以前の1997年1月には小室哲哉が自身がプロデュースや楽曲を手掛けたアーティスト達に賛同を求めて、“TK presents こねっと”名義で「YOU ARE THE ONE」を発売している。“TK presents こねっと”には小室哲哉自身はもちろんのこと、氏も参加しているバンド、ユニットであるTMN、globe、H Jungle with t、さらには安室奈美恵、trf、hitomi、華原朋美らが参加している。

ロックシーンでも例を挙げていけば枚挙に暇がなく、東京スカパラダイスオーケストラ辺りのフィーチャリング、コラボは相当数に及ぶし、最近で言えば、斉藤和義、スガシカオ、トータス松本、大槻ケンヂら1966年生まれのアーティストが集った“ROOTS66”は豪華なコラボだ。それぞれに思い入れの楽曲やユニットがあるだろうが、そんなコラボの例として、ここではO.P.KINGを取り上げてみたい。

一夜限りがその夏限定に延期

O.P.KING は2003年、当初は一夜限りの予定で結成されたバンドである。メンバーは奥田民生、大木温之(Theピーズ)、佐藤シンイチロウ(the pillows、Theピーズ)、YO-KING(真心ブラザーズ)の4人。奥田の“O”、the pillowsとTheピーズの“P”、そしてYO-KINGの“KING”で“O.P.KING”。B. B. Kingをもじったのだろうが、バンド名がいかにも適当で、本当に一夜限りのバンドであったことがうかがえる。だが、そのライヴがメンバーの想像を超える反響だったため、その年の夏限定で活動を続けることとなる。しかも、その夏にChuck Berryの来日公演でオープニングアクトを務めたのだから、Chuck Berry本人、もしくはそのスタッフがO.P.KINGなるバンド名にブルース魂を喚起させられたからかもしれない。…まぁ、それは冗談にしても、このメンバーであるからして、音楽ファンからの反響が大きかったのは十分に想像できる。

ここまで止まることなく活動を続けている奥田民生とthe pillowsはもとより、YO-KINGは2001年に真心ブラザーズの活動を休止して、その翌年にアルバム『愛とロックンロール』を発表してソロ活動に弾みを付けたところだし、1997年に活動休止していたTheピーズはO.P.KING結成の前年である2002年に佐藤を正式ドラマーに迎えて活動再開したばかり。まさに熱々の4ピースが揃って音を出したのだから、盛り上がらないわけがない。一夜限りのライヴを観た人が延命を望むのは当然だし、観れなかった人なら尚更のことだ。

メンバー全員が均等に楽曲へ参加

フロントの弦楽器3人がヴォーカルを務めている上、それぞれが各々のバンドではメインコンポーザーなのだからして、期間限定にしろ、誰がメインヴォーカルをやるのか、あるいは誰が作曲をするのか──揉めないまでも、傍からは調整が大変そうだなと思ってしまうが、その辺は当時ですらオーバー30のベテランロッカーのこと。さすがに民主主義。アルバム『O.P.KING』は全8曲収録で、O.P.KING名義が2曲、カバーが3曲、そして3人それぞれの作詞作曲が3曲ずつと、誰が突出することなく、きちんとバランスを取っている。とてもピースフルだ。O.P.KING名義のM1「O.P.KINGのテーマ」とM8「通り過ぎる夏」にしても、M1はキャッチー、M8はメロディアスだが、コードは少なくて、いい意味で複雑ではなく、シンプルなR&Rの動と静を用意した印象で、誰かひとりの手に委ねられている感じがない(強いて言えば、個人的には前者が民生、後者がYO-KINGっぽいメロディーな気もするが、その辺はリスナーによって感じ方が異なるであろう)。注目なのは歌詞。「O.P.KINGのテーマ」は民生→YO-KING→大木と歌を回していくのだが──。
 《連れだって行こうぜ 気になってきたら/わかちあって行こうぜ かみ合ってきたら/まちがってみようぜ 煮つまってきたら/またがってみようぜ 分かりあってきたら》(民生)。
 《関わりあわなきゃ おもしろくはないだろう/関わりあわなきゃ 何も生まれないだろう/自分があればいい そのままいればいい/自分でいればいい そのままいればいい/どこでも いつでも 誰とでも 何とでも》(YO-KING)。
 《燃えつきとこーぜBaby せっかくだから/遊ばれきろーぜ 人生チャックベリーだから》(大木)。(以上「O.P.KINGのテーマ」)
 …と、それぞれが歌うパートはそれぞれが書いた歌詞と分かる内容なのである。「通り過ぎる夏」も同様で、それぞれ《通り過ぎる夏》というフレーズで締め括っているが、それ以外は全て各人が手掛けている。しかも、こちらは佐藤も歌っている。
 《俺は知らねー/何も聞いてない/夏の記憶も/風に揺れるはっばも/ぼんやりばっかしてるほど/まだ涙は枯れてねーぞ/温泉行きてーなー/海水浴に行きてーなー/来年40》(「通り過ぎる夏」)。
 《俺は知らねー/何も聞いてない》辺りはライヴ感がある作風だし(?)、この人、実はいい声をしていることも分かってとてもいい。

各コンポーザーの個性も発揮

フロント3人それぞれがコンポーズしたナンバーは、M1「O.P.KINGのテーマ」のあとに連続して配置されている。まず、大木のM2「ミサイル畑で雇われて」。どう聴いてもTheピーズと言える、荒々しいギターリフが鳴り響く骨太なR&Rだ。ベースとほぼユニゾンのギターもとてもカッコ良い。《オレもミサイルで ビビらせてやろーだ/祈りの無力を思い知ればいい/カツアゲだらけなヤンキー世界で/喰いっぱぐれなきゃいーんだ だけだ!》辺りの歌詞から、バンドではあまりお目にかかったことがない政治的なメッセージも感じられるのも、こうしたスペシャルな場だったからであろうか。
 
民生が手掛けたM3「Rock'N'Rollが必要だ」はオールドスクールなR&R。即興演奏のようなスタイルで、流石に若々しいし瑞々しい。《ロックンロールに必要な物はスピード/ロックンロールに必要な物はビート/ドラマーとベースグイングインギターギュイーン/安全なテレビよりも全然ファニー/ヘル新聞ヘル雑誌よりもむしろクリーン/ボーカルはいつもOKベイビーイェー》と綴られる歌詞も勢いで書いた感じだが、心なしか、いや、完全に民生のテンションが高くて、そこがいい。

 M4「OVER」はYO-KING節全開。《ひねりつぶしたい あの夏の重い思いは》に始まり、《変わることはない とんぼは秋に飛ぶんだ》~《ふわふわ舞いおちる ぼたん雪 東京の空》、そして《白とピンクのちょうどあいだくらいの/桜の花びらが歩道の脇にたまってる》~《悪いときは過ぎたよ 今からもっと良くなってくんだ》と連ねっていく歌詞は泉谷しげるの「春夏秋冬」のオマージュのようでもある。サウンドは「Twist and Shout」や「Day Tripper」などThe Beatlesへのリスペクトも随所に見られる上、佐藤のコーラスワークがいいことも強調しておきたいところだ。

ジョン・レノン愛を感じるカバー曲

カバー3曲も見逃せないし、聴き逃せない。実はこのメンバーらしさというか、絆みたいなものが感じられるのはカバー曲だったりする。M5「BAD BOY」はLarry Williamsの1959年の楽曲だが、1965年にThe BeatlesがJohn Lennonのヴォーカルでカバーしたことで有名。The Beatles版はキャピトルレコードが「何でも良いから早くアメリカ用に2曲よこせ」と要請したため、急遽録音されたナンバーだったという逸話があるのだが、O.P.KINGの場合も、一夜限りがその夏限定の活動になったため、おそらくは音源も急きょ制作されたのであろう。だとするなら、そこで「BAD BOY」を持ってきたのは洒落が効いているし、The Beatles好き、John Lennon好きのメンバーならではのチョイスだったと言える。オリジナルのLarry Williams版はブラスやピアノが入っているが、民生が歌うO.P.KING版はバンド演奏のみで、The Beatles版を忠実にカバーしている印象だ。

M6「RIP IT UP〜Ready Teddy」はRichard Pennimanの楽曲で、Elvis Presleyのカバーが有名だが、John Lennonがソロ時代にこの2曲をメドレーでカバーしている。オリジナルはブラス入り、Presley版はピアノ入りだが、John Lennon版はテンポがやや緩やかなものの歯切れは良く、朴訥としながらも全体的にグイグイとドライブしているYO-KINGのヴォーカルは、やはりこちらをお手本としていると思われる。若干こもった感じで割れ気味のサウンドもいい具合だ。

M7「Hippy Hippy Shake」のリードヴォーカルは大木(カバー曲3曲もしっかりと3人それぞれがメインヴォーカルを務めているのだ!)。こちらは、原曲はアメリカのChan Romeroだが、リバプール出身のThe Swinging Blue Jeansのバージョンが有名で、当然The Beatlesもカバーしている。オリジナルはオリジナルで十分にカッコ良いのだが、ややもったりしている感じを、O.P.KING版ではシャープなR&Rに仕上げているのは流石であろう。YO-KINGの煽りもいい具合でライヴ感もある。斯様に、The Beatles、特にJohn Lennonを敬愛するアーティストたちが集い、オリジナルにもカバーにも、ロックアーティストとしての面目躍如を見せつけたのがO.P.KINGなのであった。

TEXT:帆苅智之

アルバム『O.P.KING』2003年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.O.P.KINGのテーマ
    • 2.ミサイル畑で雇われて
    • 3.Rock'N'Rollが必要だ
    • 4.OVER
    • 5.BAD BOY
    • 6.RIP IT UP〜Ready Teddy
    • 7.Hippy Hippy Shake
    • 8.通り過ぎる夏
『O.P.KING』(’03)/O.P.KING

OKMusic編集部

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