水樹奈々が
歌のポテンシャルを世に知らしめた
金字塔的アルバム
『ULTIMATE DIAMOND』

『ULTIMATE DIAMOND』(’09)/水樹奈々

『ULTIMATE DIAMOND』(’09)/水樹奈々

9月15日(日)、水樹奈々のライヴツアー『NANA MIZUKI LIVE EXPRESS 2019』のファイナルとして、ZOZOマリンスタジアム公演が開催される。チケットはほぼソールドアウトしている様子で、改めて彼女のアーティストパワーを見せつけられている感じだが、今週の当コラムでは水樹奈々が名実ともに日本のトップシンガーのひとりとなった作品と言える『ULTIMATE DIAMOND』を紹介しようと思う。

ふたつ以上の顔を持つアーティスト

“天は二物を与えず”という諺がある。我がことを考えると“こちとら二物どころか一物も与えてもらってないや”と思う一方、末席も末席ながらエンタメ業界の片隅で仕事をさせてもらっていると、天から二物を与えられている人がいなくもないことに気付く。最近は二物どころか、三物も四物も与えられているような人もいるような気がして、神様というのは案外我らを不公平に作り給うたのだなと思ったりもする。パッと思い浮かんだところで言うと、ジャニーズ事務所所属のタレントたちはほぼ全員がそうだろう。容姿端麗で、運動神経抜群。歌に関してはちょっと遠慮させていただきたいという人たちもいるにはいるが、全体的には昔に比べて段違いに良くなっている。演技で賞を獲得することも珍しくなくなっているし、お笑い芸人顔負けのボケをかます人もいる。高学歴の人だってたくさんいる。さらには、農家や漁師をやる人もいるのだから本当に恐れ入る。タレント(talent=才能)とはよく言ったものだ。

ミュージシャン、バンドマンで、もう一物を所有されている人たちも少なくなくて、これも今パッと思い浮かんだ人で言うと、クリープハイプの尾崎世界観、SEKAI NO OWARIのSaori、WEAVERの河邉 徹あたり。バンドマンと小説家というケースだ。この二足の草鞋はわりとあって、古くは大槻ケンヂ、辻 仁成もそうだったな…なんてことも思い出した。音楽と並行して役者として活躍するミュージシャンは結構いて、ソロシンガーなら古くは沢田研二がそうだったし、今は福山雅治や星野 源がその筆頭格だろう。バンドマンでということで言えば、ここ数年、役者としてのキャリアを飛躍的に重ねているのは銀杏BOYZの峯田和伸(まぁ、銀杏BOYZのメンバーは今、峯田ひとりなんだけど…)。峯田は今や完全に天に二物を与えてられた印象だ。金子ノブアキのことも忘れちゃいけない。彼の場合、出演している映画やドラマが多いので、RIZEのドラマーであることを知らないという人がいるかもしれない。そうそう、バンドマンじゃないのだけど、天から幾物も与えられているアーティスト、その最近のナンバー1は、これはもう武田真治に尽きるだろう。サックスプレイヤー、役者、ナレーター、モデル、それに加えて筋肉である。独断ではあるが、天からもっとも寵愛を受けた男性アーティストに認定したい。

ここからが本題。今週紹介する水樹奈々もまた、天から三物も四物も与えられたアーティストという印象が強い。水樹奈々というアーティストをちゃんと意識したのは2004年のこと。とあるレーベルのプロモーター(彼女が所属するレコード会社の人ではない)と話していて、“水樹奈々がヤバい”みたいな話になった。確か、彼女のことは完全ノーマークだったのにチャートトップ10入りした…みたいなことだったと思う。そう言えば、自分もその名前を週刊誌のグラビアで見たなと思ってその人に訪ねてみると、彼女は声優だという。声優? 声優さんだけが載っているような雑誌ならグラビアもアリだろうけど、その週刊誌はメジャーな青年コミック誌だったので、正直ちょっと驚いた。その青年コミック誌を引っ張り出してきて見返すと、確かに“声優”とあった。少し語弊がある言い方かもしれないが、“声もルックスもいいとは!?”というのが率直な感想だった。その後、新宿駅だったか東京駅だったかで、彼女の日本武道館公演が決定した旨のポスターを見掛けて、絶賛の意味で“これは本格的にヤバいことになってんな”と思ったものだ。その後のアリーナ公演やスタジアム&ドーム公演の実現、音源のセールスとチャートの好リアクション、そして『NHK紅白歌合戦』への出場に関しては説明不要だろう。声優としても歌手としても第一線で活躍。天から二物以上を授かったことは間違いない。

収録曲全てで歌の上手さが光る

その水樹奈々がアルバムで初めてチャート1位を獲得し、名実ともに日本のトップシンガーのひとりとなった作品と言えるのが『ULTIMATE DIAMOND』である。この機会に初めて通して聴かせてもらったが、流石に…というか、当然のことながら…というか、歌はかなりしっかりしている。オープニングであるM1「MARIA & JOKER」から声がよく出ていることははっきりと分かるし、ぶれのないファルセットとか、単純に“歌が上手いなぁ”と思わせる歌唱である。また、この楽曲のサビ後半で聴かせるちょっとしたニュアンスの加え方も流石で、表現力に長けていることもありありと分かる。

以降、どの曲においても確かなヴォーカリゼーションを聴くことができるが──これはプロの歌手には本来備わっていなければならないことなので、ことさら強調すべきではないのかもしれないけれど──きっちりと音程がとれている上に、音符への言葉の乗せ方が丁寧なところは全編で確認できる。例えば、M13「蒼き光の果て-ULTIMATE MODE-」などは歌の音符はわりと細かいものの、妙にテクニックを多用することなく、生真面目にも思えるヴォーカルを見せている。かと思えば、M15「夢の続き」ではこぶしを多用したりしているので、さまざまなタイプの歌に対応できる技量を持ったヴォーカリストであることは間違いないようだ。

個人的に興味深く聴いたのはM7「Brand New Tops」。ポップなロックチューンで、ツインヴォーカルにも近いコーラスが入ったナンバーである。まるでふたりの水樹奈々が掛け合いしているような感じで、それが何とも堂に入った印象。この楽曲もまた表現力の幅広さをうかがわせるとともに、“水樹奈々にはこういうタイプを歌わせたい”といった、本人&スタッフとのチャレンジ精神が垣間見えると思ったところである。タイプはかなり異なるものの、M7「Brand New Tops」は、こののちにT.M.Revolutionとコラボレーションしたシングル「Preserved Roses」「革命デュアリズム」(2013年)にも近い雰囲気も感じた。直接的な影響はないと思うが…。

OKMusic編集部

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