MONGOL800の『MESSAGE』が湛えるシン
プルがゆえに奥深いメッセージ

今年8月に発表した7thアルバム 『People People』を引っ提げて、9月29日から全国25カ所29公演に及ぶリリースツアーをスタートさせたばかりのMONGOL800。流石にホール公演は増えたものの、結成以来、今も沖縄を拠点にライヴバンドとしてのスタンスを崩さない3ピースバンドである。2001年に発表した2ndアルバム『MESSAGE』がトリプルミリオンに達するメガヒットを記録し、ビジネスライクになってもいささかの不思議はないと外野は思うのだが、一切浮足立つことなく、10数年間、その姿勢を堅持し続ける彼らは驚異的にすら見える。本稿ではその『MESSAGE』を分析してみた。

MONGOL800の2ndアルバム『MESSAGE』は、インディーズで初めてオリコンチャートで首位を獲得したアルバムであり、累計280万枚以上を売上げ、現在もCDセールス歴代トップ30にランキングされる名盤である。もちろん1位になったから良い作品だとか、売れたから傑作だというつもりはない。しかし、チャートに関して言えば、この『MESSAGE』の軌跡はすごいと素直に認めざるを得ないものである。リリースは2001年9月だが、週刊ランキング1位になったのは2002年7月。実に7カ月を要している。トップ100に7カ月間ランクインし続けるのはCDバブルの頃でさえ簡単なものではなかっただろうし、『MESSAGE』のチャートリアクションはそれだけで名盤と呼ぶに十分なものではなかろうか。M1「あなたに」が洗濯用洗剤のテレビCM曲に起用されたという好機があったことは否定できないが、とは言え、インディーズであるがゆえに広告宣伝費はメジャーレーベルの比ではなかっただろうし、ましてや当時、彼らは大学生で、夏休みを利用して全国ツアーを行なっていたというくらいなので、高度な販売戦略があったとは想像しがたい。当然、優秀なディストリビューターのバックアップがあってこそのことであろうが、『MESSAGE』の大ヒットはその作品の良さがジワジワと口コミで広がっていったことに他ならなかったと思われる。
MONGOL800は上江洌清作(Ba&Vo)、儀間崇(Gu&Vo)、髙里悟(Dr)による3ピースバンド。ことロックにおいては必要最小限のメンバー構成と言ってよい。しかも、ライヴステージは当然のこと、音源においてもそのサウンドをギター、ベース、ドラムスの3つの楽器で成立させている。同一楽器のオーバーダビングはあるが、それにしても過度な重ね録りは見受けられない。実にシンプルで、誤解を恐れずに言えば、何も変わったことはやっていないようにも聴こえる。シンプルだからと言って、それがイコール内容の薄さではないことは後述するが、サウンドに妙なものが糊塗されていないゆえに、ほとんどの楽曲において歌のメロディーが立っている。変な言い方だが、歌メロが最優先されているという感じだ。しかも、そのメロディーへの歌詞の乗せ方が巧みなので、極めてキャッチーなのである。白眉はアルバム『MESSAGE』のリード曲、M1「あなたに」とM3「小さな恋のうた」だろう。♪あなたに逢いたくて 逢いたくて♪(M1「あなたに」)。♪ほら あなたにとって大事な人ほど すぐそばにいるの/ただ あなたにだけ届いて欲しい 響け恋の歌♪(M3「小さな恋のうた」)。もともとそのメロディーにその言葉が用意されていたかのような、この旋律にはこの歌詞しかはまらないような最適感。冒頭の1、3曲目でこれであるから、『MESSAGE』は、まさしく“掴みはOK!”なアルバムなのである。
『MESSAGE』はジワジワと口コミで広がっていった…と書いたが、このアルバムの聴き応えも、ジワジワと効いてくるようなところがある。キャッチーな楽曲を間口に聴き進めていくと、総体的にはシンプルで軽快なロックサウンドに乗せたポップナンバー…所謂メロコアに分類されるものの、決してお気楽なパーティチューンばかりではないことが分かる。いや、“ばかりではない”どころか、このアルバムが湛えるメッセージはかなり奥深い。《矛盾の上に咲く花は 根っこの奥から抜きましょう/同じ過ち繰り返さぬように 根っこの奥から抜きましょう/そして新しい種まこう 誰もが忘れてた種まこう/そしたら野良犬も殺されない 自殺するまで追いつめられない/どこの国も優しさで溢れ 戦争の二文字は消えてゆく/そして振り出しに戻し 今 素敵な世の中を作ろうか》(M10「矛盾の上に咲く花」)。《泣かないで人々よ あなたのため明日のため/すべての国よ うわべだけの付き合いやめて/忘れるな琉球の心 武力使わず 自然を愛する/自分を捨てて誰かのため何かができる》(M11「琉球愛歌」)。《同じ土の上で なぜに人は殺し合う/お国のために命捨てる/そんな常識従うな》(M13「夢叶う」)。後半には、沖縄出身バンドだからこそ、説得力を増す歌詞が並ぶ。M14「Dandelion」の中に配されたシークレットトラック、ミディアムバラード「MESSAGE」もそうだ。《この島に生を受けて時流れはやし早二十年/変わりゆく時と共に大切な物まで失うものか》《流行りメディア欲に負ける少年少女/自分らしさ自分捜す旅自分の事だけ/親のおかげ周りの支え今のあなたあるの/そんな小さなものさしで誰と比べるあなたの価値》。ここでは単なる“反戦平和”の主張だけでなく、しっかりとした自己同一性に着地する。M13「夢叶う」辺りは某代議士に言わせたら「利己的だ」と揶揄されそうな内容かもしれないが、本作を聴けば、この想いは里を愛する気持ち、家族を愛する気持ちから導かれたものであることがわかるだろう。それでも「利己的だ」と言われるのであれば、それは“小さなものさし”で比べているにしかすぎないが、非常に残念だ。そういう価値観は他人に押し付けるべきではない。
先に、シンプルだからと言って、それがイコール内容の薄さではない…とも書いた。この深層部に到達するまで、サウンドも決して単調なものばかりではないことにも気付く。例えば、M5「月灯りの下で」。最初こそ派手さはないものの、後半に向けてテンションが上がっていく。徐々に昂っていくロッカバラードという感じだろうか。また、M10「矛盾の上に咲く花」は所謂ポップさとは一線を画し、メロディーもサウンドも “硬派”と形容するのが相応しいナンバーだし、ミディアムのM12「Dear My Lovers」は、しっかりとしたメロディーと相俟って、そのサウンドメイキングには壮大な雰囲気が感じられる。これまた、歌詞の世界観と同様、後半に進むに従って、味わいを増していくのである。聴き終わると何とも言えない充実感を得るはずだ。そして、その後、再び『MESSAGE』を聴く時、M1「あなたに」に確かな体温を感じ、M2「Song for you」で新たな高揚感を得るといった具合に、初めて触れた時とはまた違った印象を抱くのではないかと思う。本稿をお読みの方の中で、随分と『MESSAGE』を聴いていない…なんて方がいるなら是非お試しいただきたい。いい映画や小説は年齢を重ねるに連れて感想が変わっていくという。『MESSAGE』にはそういった作品と同じようなテイストがあると思う。邦楽のアルバムでは珍しいタイプではなかろうか。

著者:帆苅智之

OKMusic編集部

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