ゴスペラーズが
貫禄ある歌とコーラスで
大人のR&Bを魅せた
『Soul Serenade』
ヴォーカルグループならではの凄み
しかし、だからと言って、肝心のヴォーカルパートが全て“コンテンポラリーR&B然”となっているかと言ったら、そんなこともないのは本作で最も重要なことではないかと思う。ループするトラックに乗せて、ある程度のメロディーは決まっているものの、比較的自由な旋律を歌うのが今のR&B。フェイクやアドリブが多いのが常だ。もちろん、この『Soul Serenade』でもそうしたヴォーカリゼーションはある。随所にある。M1「パスワード -Powers G Mix-」の後半で畳み掛けようにフェイクが入ってくるし、M3「Forgive Me」ではシャウトがどんどんワイルドになっていくところなどは迫力があってとてもいい。だが、いわゆるサビで奏でられている歌の主旋律は生真面目なまでにブレがない。ものすごくきちんと歌われていることに気付く。プロの楽曲なのだからきちん歌われていて当たり前なのだが、いい意味で精密機械のような鋭さが感じられる。M1「パスワード -Powers G Mix-」にしても《L×O×V×E×U》の箇所はとても正確に主メロとコーラスが重ねられている印象だし、M3「Forgive Me」の《Forgive me tonight/I love you all night》の部分もそうだ。だからこそ、フェイクが活きているとも言える。主メロとコーラスとのバランスにも突飛な感じがなく、抑えめというか控えめというか、ことさらにコーラスワークのすごさを鼓舞しているようには思えない。
だが、それがいい。M4「裸身」《裸身の愛を抱きしめよう》《きりがないほど君が欲しい》辺りは派手さこそないものの、歌詞に力点が置かれていることがはっきりと感じられて、楽曲全体の説得力がここでグッと増しているように思える。個人的に最もインパクトを感じたのはM8「Slow Luv」。このサビはパッと聴きにはあまり難しいことをやっていないように思える。しかし、じっくり聴き込むと、素人にもそのすごさが感じられるテイクだ。譜面に起こしたわけではないので詳細は分からないけれども(そもそも譜面など起こせないのだが…)、これはハモり方が完璧なのではなかろうか。5人のピッチ、呼吸の合い方がどこか尋常ではない印象すらある。この楽曲も中盤から迫力あるフェイク、アドリブが入ってくるが、サビでのコーラスワークが強固な土台のようにしっかりとしているからこそ、凄みを増しているのだろうし、そこでメンバーそれぞれの個性も活きて来るのだろう。ここでそれを改めて言うのも憚られるほどではあるが、ゴスペラーズはヴォーカルグループであり、本作ラストに収録されたM11「One more day」や、この度の新作『アカペラ2』を例に出すまでもなく、無伴奏でも十二分に音楽を表現できる人たちである。そんな彼らがコンテポラリーR&Bと向き合い、そこで自らのポテンシャルを最大限に発揮するとこれほどにすごいことになる…というのが、M8「Slow Luv」を始めとする各楽曲のサビに表れたのだろう。軽くR&Bに触れただけ…というようなアーティストには絶対に真似できない貫禄なのである。それが『Soul Serenade』にはある。
TEXT:帆苅智之