庄野真代が筒美京平、
船山基紀らとのコラボで
その名を音楽シーンに示した
代表作『ルフラン』
AOR、ロック、黒人音楽etc.
M7「フォトグラファー」は出だしこそAORテイストを感じられるが、その実、かなりソウルフルなファンクチューンだ。キビキビとしたリズムとブラス、エキセントリックに鳴っているように感じるエレキギター、ドライなアコギと、サウンドメイキングもお見事である。
《右手はもっと高く ライトはひとつさげて/髪の乱れはかきあげて/そう……そうだよ…》《左へうんとジャンプ かかとをすこしあげて/指の先までくねらせて/そう……そうだよ…》(M7「フォトグラファー」)。
マイナー調のサビメロもいい感じだが、ちょっと『全裸○督』っぽくもある上記の歌詞と相俟って、メロディー自体にエロスがあるような気がする。間奏のサックスは間違いなくエロい。
M8「渚のモニュメント」、M9「はんもっく」、M10「街に疲れて」はタイプこそ異なるが、ボーカルラインがいずれもメロディアスなナンバーが続く。まず、筒美京平作曲のM8は、若干チャイナ風の箇所があったり、サビ後半に他ではあまり聴けないような音階があったり、主旋律だけでも趣向を凝らしていることがうかがえる。庄野真代が手掛けたM9はフレンチポップス風と言ったらいいか。リズムも軽快で可愛らしく仕上げており、サビで少しかすれ気味になる歌が、何ともいい味を出している。M10はゆったりとした流れの中にもキレがあり、少しクラシカルな要素も感じられる旋律であって、これもまた御大・筒美京平の偉大さを感じるところだ。サウンドはM9はロックテイストが強めではあるものの(間奏は完全にロック)、いずれもヴォーカルの背後では派手さを抑えめにしている印象もあって、前述したM9がそうであったように、このM8~10は彼女のヴォーカリゼーションを堪能できるパートと言えるかもしれない。
アルバムのフィナーレ、M11「ルフラン」は、ブルース、ゴスペル要素があり、そのルーツミュージックを隠さず、堂々と披露している。エレキギターを始め、ピアノもオルガンもブルージーに鳴っており、この辺は瀬尾一三のアレンジ力によるところなのかもしれないし、John Denverの「Take Me Home, Country Roads」に似たコード進行があることからすると、作曲した庄野真代の趣味なのかもしれない。いずれにしても、こうした泥臭いサウンドもやっていること自体がアルバム『ルフラン』らしいと言えるのではなかろうか。
前述の通り、おそらく1970年代後半における音楽シーンそのものが過渡期であったことが、このようなバラエティー豊かなアルバムを生んだ要因だろうが、錚々たる作家陣、庄野真代という才能のあるシンガソングライターとのコラボによって、本作が類稀なるアルバムとなったことは間違いない。
TEXT:帆苅智之