SHAKKAZOMBIEの
メジャー1st『HERO THE S.Z.』の、
ポップさとスリリングさを
同居させた構成力に完全脱帽

親しみやすさと不穏、不協の融合

本作は基本的にポップでダンサブルな音楽作品であることが、ひとつ挙げられると思う。インスト(というよりもオープニングSEに近いかも…)のM1「OMEN」は妙な電子音で構成されており、そこから繋がるM2「Z.O.M.B.I.E.」は、タイトル通りのホラー映画感覚と言ったらいいか、どこかおどろおどろしいトラックであって、共に不穏さが漂うものではある。だが、M2のトラックは「オペラ座の怪人」的というか、Michael Jackson「Thriller」風というか、如何にもホラーなトラックメイキングであり、そこにはユーモアセンスの発露が伺える。MCにもそれっぽいシアトリカルさもあって、作り手側の乗りが伝わってくるようである。不穏さはあっても不快さはない。歌詞は以下の感じ。当ユニットのテーマソングみたいな雰囲気ではある。

《S.Z. 独創で独走/飛ばしすぎで タイムスリップしそう/奇想天外 互い違いに吠える/不死身の2MC/超自然現象で生まれた ZOMBIE》《真暗闇 立ち込める霧/月明かりの元の3つの影/今宵も夜な夜な蘇るぞ/そっとお前の背後を襲う/Z.O.M.B.I.E. FULL装備で固めた2MC  SHAKKAZOMBIE》(M2「Z.O.M.B.I.E.」)。

名前に“ZOMBIE”が入っているユニットのデビューアルバム、その導入部分と考えれば、M1「OMEN」からM2「Z.O.M.B.I.E.」のトラックがこうしたテイストで、M2のリリックが上記のような内容というのは適切だろう。で、続くM3「THE RETURNZ」はファンキーなナンバー。グイグイと引っ張る乗りのいいビートが印象的だ。RUN DMC「Here We Go」が元ネタだという。リリックにも《HERE WE GO》とあるから多分それはそうだろうが(リズムはそっくり)、聴き比べてみると、M3の方がよりメロディアスであることが分かる。RUN DMCの方はほぼリズムのみで構成されているが、M3には印象的なベースラインが加わっており、それが当該楽曲の重要な骨子となって、乗りを増しているようなところがある。元ネタはあくまで元ネタであって、彼らならでは…と言っていいキャッチーな旋律を加味した点は注目すべきであろう。トラックは一本調子ではなく、後半、アウトロに向けてどんどん盛り上がっていく。

《どんどんさぁ起こそうか/まだまだゴールは見えねぇな/走り続けるこのレースのレール上で戦う/時期を見計らう/ラストに花咲くその白いテープ/切るまで諦めず力全部出す/ダッシュ 0.1で起こる奇跡/SHAKKAZOMBIE 無敵》(M3「THE RETURNZ」)。

歌詞は上記のような内容。M2が自己紹介だとすると、M3は所信表明と言った感じだろうか。アルバム冒頭から自らを鼓舞するようなリリックを連発させているのは、個人的には好感が持てるところだ。

M4「空を取り戻した日」は、そのM3の終わりからほとんどタイムラグなく入ってくるが、この楽曲の全体を支配するピアノの旋律、そのループが耳に付く。どこか切ない雰囲気でありつつ凛としていて、綺麗なメロディーでありながらその音にはわずかにノイズが混じっている。どちらかと言えば陽気だったM3の続きであるが故に、そのギャップから余計にシリアストーンに思える楽曲だ。ループの旋律はJames Mtume「Theme From "Native Son"」のサンプリングということだが、引用が実に上手い。原曲のエッセンスだけを見事に抽出していると思う。また、1番終わりで入るコーラス(?)もメロディアスで、もちろんラップも重なるが、とにかくトラックが奏でるメロディーが印象的なナンバーである。

メロディーが楽曲を引っ張っていく感じはM5以下も続く。M5「明日のため」はエレピだろうか。比較的淡々と繰り返されていくが、やはり耳に残る。M6「NON PHIXION」のリフレイン(ギターのサンプリングだろうか?)も派手さこそないものの、やはりサウンドの中心としてしっかりと機能している。Joe Farrell「Great Gorge」を引用したM7「WHO'S THAT?」は、元ネタのジャズファンク感を見事に取り込んだ逸品。原曲ではフリーキーなサックスが続き、そのジャズならではの演奏が魅力的であり、それはそれで素晴らしいのは間違いないのだが、M7ではその「Great Gorge」の背骨部分だけをサンプリングすることで原曲にある親しみやすさを際立たせているようだ。その審美眼、選択眼の巧みさが垣間見えると共に、SHAKKAZOMBIEのポップ指向を伺い知れるところだろう。

以降、M8「虹」やM9「MAGIC」ではそれぞれにメロウで幻想的なサウンドを披露。メジャーデビュー曲「手のひらを太陽に」のセルフカバーとも言えるM10「FACE YOUR HAND TOWARD THE SUN」は、やはり…と言うべきか、元ネタはJames Mtume。M3では「Theme From "Native Son"」から綺麗な旋律だけを持って来ていたが、M10ではその逆に、「Mama No」の不穏さをだけを持って来ている感じだ。ポップセンスがある…とは前述したが、この辺がSHAKKAZOMBIEの懐の深さだと思う。単に耳障りがいいものだけでなく、不穏や不協の要素を巧みに忍ばせている。M6もそうで、楽曲が進むに従って微妙に音程のズレた箇所がやって来る。多分それが全体的のポップさを助長しているのだろう。微妙に気持ち悪く気持ちがいい。M11「信号」で聴こえてくる長めディレイやハウリングノイズも、意図的にリスナーへ不快さを与えるものだろう。M1、M2以上におどろおどろしいというか、ピリッとした緊張感を与えているのは間違いない。親しみやすく印象的なメロディーで迫ったかと思えば緊迫感も強いる。油断がならないと言ってもいいだろうか。ユニット名ではないけれど、生と死を綯い交ぜにしたような音世界が『HERO THE S.Z.』にはあると思う。

OKMusic編集部

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