L’Arc〜en〜CielのHYDEが、
バンドとは異なるスタンスで
自らのアーティスト性を掘り下げた
ソロ作『ROENTGEN』
ニューウェーブの影響
それでは、ここからは、これらソロならではと言える楽曲から垣間見えるHYDEの音楽的素養といったもの探ってみよう。まずは、すでに述べた通り、アダルト・コンテンポラリー、AORの香りである。バンドサウンドはバンドサウンドでも、まさにアダルトな雰囲気。落ち着いており、抑制が効いている。ベースラインの抑揚、鳴りにもその辺を感じるところではあるが、決定的なのは管楽器──サックス、トランペットの存在だろう。M3、M5以外ではM7でも聴くことが出来る。HYDE自身、本作のコンセプトへの影響としてStingの名前を挙げている。確かに「Englishman in New York」辺りのリスペクトを感じさせるような物悲しくも艶やかな音色であるように思うし、個人的にはRoxy Music(特に後期)を感じさせるところもあるような気がする。
あと、1970年代後半のニューウェーブ感を隠していない。これも『ROENTGEN』の特徴だろう。HYDE自身もその影響を公言しているが、David Sylvianのボーカリゼーションやメロディはモロに取り込んでいる。M1「UNEXPECTED」からしてモロにデビシルっぽさを出しているから、ほとんど確信犯的にやっているのだろう。いや、というよりは、ボーカリストとしての尊敬が湧き出たという感じだろうか。M1以外にはM4、M7もそうで、彼の愛情が伝わってくるようでもある。低音でのこぶしの効かせ方、ブレスの仕方。デビシルを知る人なら思わず微笑んでしまうようなパフォーマンスである(話は前後するが、もしかすると前述したサックスやトランペットにもDavid Sylvianからの影響があるのかもしれないと思って軽くJAPANを聴き直してみたのだが、そこはそうでもなかった)。
ニューウェーブ感は歌に留まらない。サウンドの実験性にそれがある。これまた前述したM4やM7がまさにそうだろう。ブルージーでありながら同期を駆使しているのか、同期にブルースフィーリングを入れたのか経緯は分からないけれど、M4はなかなか不思議な仕上がりである。とりわけ間奏のノイジーなオルガンも興味深い仕上がりであるし、ジャンルレスなニューウェーブの精神を感じるところではある。M7の機械音がそのままリズムになるというのはまさにそうだ。M1「UNEXPECTED」で様々な音が交錯していくサウンドメイキングにもそれっぽさを感じるところではある。アコースティックな音もあれば、シンセを使ったと思しきものもあって、その融合に意欲的なものを感じるし、ディレイのかけ方にもこだわりが見える。そして、そのニューウェーブ感は、か弱く、か細い印象がありつつも、芯は太く、美しい世界観をしっかりと醸成していることは疑うまでもない。このサウンドにしてHYDEありと言ったところだ。