『成増』はとんねるずの
歌手としての才能を
一気に開花させた
デビュー作なっわけだぁ!

日本のヒップホップの先駆け…?

『成増』はそんなとんねるずの1stアルバム。本作もまた、当コラムが好んで用いている “デビューアルバムにはそのアーティストの全てがある”理論が当てはまる、デビュー作らしい音楽作品である。35年振りくらいに聴いて、個人的には“こんなにコントが多かったっけ?”と少し意外に思ったけれど、それはそれだけ楽曲のメロディーラインが立っているということではないだろうか。勝手にそんな風に解釈した。“ちゃんとした楽曲”が多いというと少し語弊があるだろうか。芸人ならではの趣向がふんだんに盛り込まれているものの、何と言うか、“音楽作品として聴ける”のだ。例えば『スネークマン・ショー』のようにトラックがコントパートと楽曲パートとに分かれていたら、聴き応えはまた違ったものになっていただろう。コントベースで制作された楽曲なのか、楽曲ベースでのコントだったのかは分からないけれど、いずれにしても全てのトラックで楽曲が伴っているという、スタイルとしても真っ当な音楽作品なのである。

収録曲をザっと見ていくと──オープニングのM1「とんねるずのテーマ」と、続くM2「ブリキのダンス」辺りは、いかにも当時はまだ若手だったふたりの威勢のいい感じ、勢いが詰まった印象。M1はわざと荒々しく歌っているし、M2はモノローグ的に当時の彼らのネタをサウンドに乗せている。しかし、聴きどころがないかと言えばそんなことはない。ジャンル的にはM1はファンク。メロディーもしっかりあるし(Cメロも用意されている)、キャッチーではある。歌もさることながら、要となっているベースラインは何かいい具合だし、間奏でのサックスはなかなか聴かせる。M2はサウンド的にはフュージョン~スムーズジャズと言った感じもあって、そこにふたりの声を乗せる様子は完全にヒップホップ調だ。ラップはやっていないけれど、スクラッチ風の箇所もある。今となっては、どこぞのDJがとんねるずのネタをサンプリングで用いたナンバーのようにも聴こえる。これが即ちヒップホップであったかどうか、制作サイドにその意識があったかどうかは分からないけれど、特筆すべきは本作発表当時、日本のヒップホップはまだまだ黎明期であったということ。日本初の本格的なヒップホップアルバムと言われる、いとうせいこうプロデュース作『業界くん物語』が『成増』と同じ年に発表されている事実は見逃せないところではないかと思う。

そこから一転、M3「Chadawa」はムード歌謡というギャップは、流石にコメディアンと言ったところか。カラオケパブの寸劇からシームレスに楽曲へと繋がっていくのが面白い。ジャンルは演歌~ムード歌謡で、歌詞はともかく、メロディーはかなり本格的。歌もコント仕立てではあるものの、ノリさんの巧さが目立つ。のちのヒットシングル「雨の西麻布」や「歌謡曲」へとつながるきっかけとなった楽曲ではあろう。M4「バハマ・サンセット」はシングル「一気!」のカップリングだった曲(というか、当時はまだB面という扱いだったように思う)で、明らかな矢沢永吉オマージュである。歌はさほど永ちゃんに寄せていないとは思うが、メロディーとサウンド、冒頭のライヴMC風の台詞からするとパロディーと言ったほうがいいだろうか。歌詞はふたりの出身地である成増、祖師ヶ谷大蔵のことを綴ったもので、ヒップホップで言うところの“レペゼン成増”“レペゼン祖師ヶ谷大蔵”の先駆けと見ることができると思う(たぶん違う)。

OKMusic編集部

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