SOPHIAの
ロックバンドとしての哲学が
徹頭徹尾、貫かれた
絶品『マテリアル』
カオスと静謐の対比、歌詞の深み
そのあとが、アコースティックギターの音色がサウンドの中心を彩るミドル~スローのM7「Birds eye view」と、アコギのみのM8「言葉」というのは随分と極端な並び方ではあるけれど、M7、M8の静謐さといったようなものを際立たせることに寄与しているとは思う。それは、その後のM9「センチメンタリアン・ラプソディ」も同様である。M9は楽曲そのものはポップなロックンロール。軽快なニューオーリンズビートも配されて、普通に演奏したものをそのまま収録しても何ら問題ないと思われるが、ここではラジオエフェクトを強めにかけて、(あえて語弊のある言い方をすると)聴き取りづらくしているようだ。イントロ、アウトロ、間奏では電波が混線しているような作りにしている。この辺りのミックスは歌詞にも関係しているのだろう。
《街角に流れる 誰かのMessage/馬鹿げてると いつから響かない?》《センチメンタルはクセ者さ 一人芝居ならまだましだけど/そうは問屋がおろさないって どうすりゃいいか 分かんないよ もう》(M9「センチメンタリアン・ラプソディ」)。
いずれにしても、M9も言わばカオスなサウンドメイクをすることで、翻ってM7、M8との対比が印象に残るところではある。
そして、その混沌さから続くのがM10「beautiful」である。キャッチーなサビメロのブギー。シンセもピコピコと背後で鳴っている。ここまでの楽曲に比べれば十分にポップである。だが、歌詞は完全に晴れやかかと言われると、どうもそうとは言い切れないようにも見て取れる。
《危ない薬もケンカもしたことないよ Yeah Yeah/“Rockは詳しいぜ"》《過ぎた事ばかりがなぜ眩しく見えるのかな/あの頃よりも少しは大人だろう? Baby/死にたくなる程嫌な事なんて1つもないぜ/だから今日も空っぽで陽が暮れるOh》《永久未来 続くものなどあるはずはないから/これで行くさ僕は僕を壊してく》(M10「beautiful」)。
《永久未来 続くものなどあるはずはない》というのは真理に近いものではあろうし、この楽曲のキラーフレーズともなっているので、それを文字通りの“beautiful=美しい”と見る向きもあろう。ただ、《今日も空っぽ》《僕を壊してく》など、決してポジティブとは言い難い言葉が続くところには、解釈の余地がかなりあるようにも思う。作詞者本人に確かめたわけじゃないので歌詞の意図したところなどは軽々には語れないけれど、単純に答えが示されたものではないことは確か。M4、M5と連動していると思しき部分もあって、映画や演劇で言うところの伏線回収ではないが、アルバム作品としての一貫性を感じさせる。まさにひと口では言い表せない、深みのある歌詞であるとは言える。
個人的にはM9でアルバムを締め括っても良かったような気はするが、それでは投げっ放しになり過ぎると感じたのかどうか知らないけれど、スローなM11「贈り物」を経て、密集感の強いバンドサウンドのM12「material of flower」で、『マテリアル』はフィナーレを迎える。だが、M11では背後でシンセが終始、不穏に鳴っているし、M12はやはり歌詞が開放的ではなく、決して大団円とは言い難い作りではある。とりわけM12は楽曲がカットアウトされる。アウトロがあってカット…ではなく、歌の最後と同時に突然、終わるのである。何かを暗示しているような、独特の余韻を残す終わり方だ。
頭から最後まで、まさに徹頭徹尾、その辺のポップバンドと一線を画す…いや、そればかりではなく、ロックバンドとして独自の哲学を抱いていることを堂々と天下に知らしめているアルバムだと言っていい。もっと言えば、『マテリアル』はジャケ写もなかなか象徴的で、これもまた彼らの哲学を反映しているように思う。一度丸められてしわくちゃになった“マテリアル SOPHIA”と書かれた紙を開いたような画。必要がないと捨ててしまったものを再び取り出した──そんなふうに感じられるアートワークで、もしかすると、それはアルバム全体に流れるテーマにも通底しているのかもしれない。
2013年からの活動休止も永久に続くと考えられる向きもあったSOPHIA。今回、久々に『マテリアル』を聴いて、こういうアルバムを作ったバンドはその活動を葬り去ることができないことを何となく理解した。思考、思想に終わりはなく、その表現に限りはない。それを幸せなことと言うべきか、因果なものと言うべきか分からないけれど(おそらく両方あるだろうが)、簡単にピリオドは打てないのである。聞けば、10月11日の『SOPHIA LIVE 2022 “SOPHIA”』の1曲目は、『マテリアル』の1曲目でもある「大切なもの」であったという。それが彼らの“航海”の再開を告げる楽曲としてベストな選曲であったことは、『マテリアル』を聴けばよく分かると思う。
TEXT:帆苅智之