原由子のシンガーの才能が
桑田佳祐らによって開示された
ポップで多彩なソロアルバム
『はらゆうこが語るひととき』
桑田佳祐を始め
気心知れたメンバーが集結
一方で、“Swingin' HARABOSE”としてその名前がクレジットされている大中牟礼貞則(Gu)や八木正生(Key)らは青山学院大学の大先輩。八木正生は本作の前年の1980年からサザンの楽曲の編曲を手掛けていて、件の変革期のサザンに大きく寄与したアーティストとも見られている。そして、ホーンセクション“Horn Spectrum”は、初期サザンのアレンジを手掛けた新田一郎率いるユニットである。プロ中のプロもガッチリと外堀を固めた布陣である。桑田佳祐がプロデューサーとしての役割を担って中心となったことは間違いないだろうが、こうしたところにもアーティスト、ミュージシャンとして原由子に対する愛情を感じざるを得ない。
結論を急ぐようだが、本作のベストトラックはその“HARABOSE”の作曲となっているM8「Loving You」であろう。メロディーはさわやかでありつつポップ。しっかりとした抑揚があるが、まったく下世話な感じはしない。真のキャッチーさとはこういうことを言うのではなかろうかと思うほど、洗練されたメロディーである。彼女の本来の声を最も活かす音域と展開ではないかとも思う。筆者を含むサザンにそれほど詳しくない者でも、原由子らしく感じるところだろう。もしかするとM8は原由子らしさで言えばサザン関連楽曲の中でも1、2を争うナンバーなのではないだろうか。そんな気もする。
その素敵なメロディーを彩るサウンドはシンプルで柔らかくありながらも、ちゃんと(?)硬派なバンドもの。Bメロ終わりからサビにかけて聴こえてくるギターの音色はThe Beatles(『Please Please Me』とか、いわゆる初期のもの)を連想させる。彼女自身、幼い頃にThe Beatlesから衝撃を受けたことを公言しているので、これはその辺が直結したことであるのは間違いなかろう。Aメロ後半で桑田佳祐のヴォーカルが入り、アウトロでは原、桑田ふたりのアドリブの歌(というか、コーラス? スキャット?)が重なる。この辺りはサザンからの初ソロとなれば当然のことと思いつつ、全体のメロディーとサウンドの良さからすると個人的には“あそこはなくても良かったのでは?”と思ったりもした(あくまでも個人的には…ですよ)。であるが、皆さんご承知の通り、おふたりは翌年1982年にご結婚されるわけで、それも止む無し(?)ではあろう。間奏ではキーボードとギターとが絡む。これも原と桑田によるものだろう。そう捉えると歌詞も意味深に思えてくる。
《愛してるとつぶやきたいのに/てれくさいなら言葉でどういうの》《Makin' love with you, boy 言葉にださないほうが/I wonder if you can be off your guard someday/Oh! やっと少しは大人になれるみたい》(M8「Loving You」)。
無論、歌詞には汎用性があって然るべきだし、100%プライベートなことだけを反映させたわけでもないだろうが、今となっては思わずほっこりとしてしまうナンバーでもある。