大ヒット曲「夏色のナンシー」を
当時の空気感とともに
瞬間パックしたかのような
早見優の『Dear』

筒美メロディー最高傑作のひとつ

早見優と言えば、やはり「夏色の~」と書いたが、『Dear』のオープニングを飾る同曲は、個人的には…と前置きすると、1980年代に筒美京平が書いた楽曲の中でも屈指の名曲ではないかと思う。俗に言う“花の82年組”に限らず、アイドル華やかなりし1980年代。筒美京平が当時の主だったヒット曲を相当数手掛けていることは言うまでもないが、少なくとも当時の女性アイドルソングの中で「夏色の~」は最上位にランクされるような気がしている。

まずサビのキャッチーさだ。いや、キャッチーというよりも、《Yes!》の箇所は、もはや“エグい”と言ってもいいほどにパンチが効いている。この年の『コカ・コーラ』のCMソングでもあって、15秒で視聴者に商品イメージを訴求する上で耳を惹く旋律は必然だったのだろう。ただ、そのパンチの効いた箇所だけでなく、「夏色の~」のサビは《Yes!》のリフレインのあとにも注目である。緩やかに滑らかに旋律が展開。前半の賑やかさからシームレスに知的さや清楚さが訪れるような印象がある。いわゆるサビ頭で、そこからA~B~サビとなっていくのだけれど、Aまでの間のコーラスパート(?)も聴き逃せない。しっかりと流麗なメロディーで、さわやかさを演出しているように思う。Aメロ前半は落ち着いた感じで始まりつつも、後半で高く昇っていく。そして、Bメロで再び流麗になったかと思いきや、その後半で歌はスタッカート的なポップで小刻みになって、再びキャッチーなサビへ…という構造だ。さすが筒美京平と言うべきか、どこを切っても余すところがない。キャッチー、メロディーアス、ポップと一曲の中で様々な面を見せている。

M1以外でのメロディーは…と言うと、M4「渚のライオン」は可愛いらしさの中にもスタンダードなポップスのマナーをしっかりと取り入れている印象。サビに重なるソウルフルなコーラスも面白い。M2「可愛いサマータイム」とM6「赤いサンダル」はともにB面とあって、M1やM4に比べると派手さを感じないかもしれないけれど、どちらもなかなかの秀曲である。M2は全体にリラックスしたまったりとした雰囲気が何ともいいし、M6はAメロ後半の広がりに筒美京平らしいメロディーメイクを感じるところだ。M3「You and Me」、M5「優のテーマ」、M7「真夏のボクサー」は、本作全ての編曲を手掛けた茂木由多加が作曲したナンバー。M3はハードロック調、M7はファンク調で、これも佳作と言える(M5は歌がないのでちょっと無視させてください…すみません)。想像するに、他の曲とのバランスを考えて、毛色が異なるタイプを提供したのだろう。それでも案外器用に歌いこなしている早見優のシンガーとしての幅も感じるところでもある。

OKMusic編集部

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