大ヒット曲「夏色のナンシー」を
当時の空気感とともに
瞬間パックしたかのような
早見優の『Dear』
筒美メロディー最高傑作のひとつ
まずサビのキャッチーさだ。いや、キャッチーというよりも、《Yes!》の箇所は、もはや“エグい”と言ってもいいほどにパンチが効いている。この年の『コカ・コーラ』のCMソングでもあって、15秒で視聴者に商品イメージを訴求する上で耳を惹く旋律は必然だったのだろう。ただ、そのパンチの効いた箇所だけでなく、「夏色の~」のサビは《Yes!》のリフレインのあとにも注目である。緩やかに滑らかに旋律が展開。前半の賑やかさからシームレスに知的さや清楚さが訪れるような印象がある。いわゆるサビ頭で、そこからA~B~サビとなっていくのだけれど、Aまでの間のコーラスパート(?)も聴き逃せない。しっかりと流麗なメロディーで、さわやかさを演出しているように思う。Aメロ前半は落ち着いた感じで始まりつつも、後半で高く昇っていく。そして、Bメロで再び流麗になったかと思いきや、その後半で歌はスタッカート的なポップで小刻みになって、再びキャッチーなサビへ…という構造だ。さすが筒美京平と言うべきか、どこを切っても余すところがない。キャッチー、メロディーアス、ポップと一曲の中で様々な面を見せている。
M1以外でのメロディーは…と言うと、M4「渚のライオン」は可愛いらしさの中にもスタンダードなポップスのマナーをしっかりと取り入れている印象。サビに重なるソウルフルなコーラスも面白い。M2「可愛いサマータイム」とM6「赤いサンダル」はともにB面とあって、M1やM4に比べると派手さを感じないかもしれないけれど、どちらもなかなかの秀曲である。M2は全体にリラックスしたまったりとした雰囲気が何ともいいし、M6はAメロ後半の広がりに筒美京平らしいメロディーメイクを感じるところだ。M3「You and Me」、M5「優のテーマ」、M7「真夏のボクサー」は、本作全ての編曲を手掛けた茂木由多加が作曲したナンバー。M3はハードロック調、M7はファンク調で、これも佳作と言える(M5は歌がないのでちょっと無視させてください…すみません)。想像するに、他の曲とのバランスを考えて、毛色が異なるタイプを提供したのだろう。それでも案外器用に歌いこなしている早見優のシンガーとしての幅も感じるところでもある。