【独断による偏愛名作Vol.2】
Valentine D.C.が
ロックバンドとしての
誇りを堂々と示した『GENERATION』

1990年代らしい等身大の歌詞

『GENERATION』収録曲の歌詞からは、はっきりとValentine D.C.のプライドを感じさせる。とりわけロックミュージシャンであることを鼓舞するかのかのような内容が多い。

《震えた共鳴を始める/周波数が飛び交うこの場所さ/騒ぐ衝動に腕を引かれて/古い確執をステージに放て》《このノイズに紛れて 死ぬまで夢見ていたいから/背中合わせの 傷だらけの僕と共に/辿り着くのさ 空想世界の旅の果て/止められない/Ah…》(M1「空想世界」)。

《○×だけの答え方じゃ 正解を出せないことがある》《ヒーローは最後に笑えりゃいいのさ/からい涙こらえ 無理を承知でいい 耐えてみろ/くせが強けりゃかっこいいのかい/冷や汗をかいても 怒り爆発寸前に/ぐっと奥歯を噛みしめろ》(M5「奥歯を嚙みしめろ」)。

《ためらうな この手に帰れよ/いつの間にか追い出していた 自分を取り戻そう/気が付けば一人で泣いてた/もうやめよう この部屋に降る雨の中でうずくまるのは》《眠れない夜を抜け/扉を開け ドアを出る》(M6「扉」)。

《1000の言葉並べることより/本当の夢だけが胸を打つ/足下から飛び立つ鳥の群れが/君を連れていきたがっている》《見定めて息をすって踏み出そう/全部は持ってはいけないけど/さあ今のうちに約束をしよう/その宝石を捨てぬことを》(M10「One」)。

ロックミュージシャンであることを鼓舞…というのは筆者の推測であって、作者の意図とは違うかもしれないけれど、“生き方”を宣言しているかのような力強さがあることは間違いない。これを、メジャーデビューから3年目、初めてのレーベル移籍後の意気込みとして捉えるのは、決して穿った見方でもなかろう。

アルバムのタイトルチューン、M9「MY GENERATION」と言えば、1965年にThe Whoのアルバムとそのタイトルナンバーを思い出すロックファンもいることだろう。そのThe Whoの「MY GENERATION」は、[攻撃的なサウンドと「年とる前に死にたい」というティーンエイジャーのフラストレーションを的確に表現した歌詞が、当時の彼らがメインターゲットとしていたモッズから熱烈な歓迎を受け]たそうだが、1998年のValentine D.C.のほうはそこから進化した感じがある([]はWikipediaからの引用)。最後にその歌詞を引用して本稿を締め括ろう。

《Hey,おじさん 感謝してるよいつも/あくせくとアクセス追い付かないでしょ/どっしり構えてくれよ》《Hey,おじょうさん 「流行り」の気分はどうだい?/世紀末を生き抜くやつらは/案外君たちかもね》《Hey,みんな 自分が正しいって思うだろ?/Hey,みんな あいつあんなこと言ってるよ/どんなやつも今が華だから/無理しなくていいよ/年下バカで年上頑固で/いつの時代も同じ》(M9「MY GENERATION」)。

上の世代だけではなく、下の世代へも目配せしている。しかも、どちらにも最低限のリスペクトを見せており、単なるレベルミュージックに終わらせていないところが清々しい。その辺は、ロックが日本の音楽シーンのメインストリームに定着してきた1990年代後半に作られた楽曲ならでは、なのかもしれない。今となれば普遍的な歌詞と言えるかもしれないし、とても彼ららしい内容だと思ってしまう。個人的にValentine D.C.の代表作として筆者が『GENERATION』を推すのはタイトルチューンにその視点があるからでもあるし、M9は彼らが1990年代の日本のロックシーンを彩ったバンドであった確かな証拠とも言える。

TEXT:帆苅智之

アルバム『GENERATION』1998年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.空想世界
    • 2.つぎはぎアンティック・ドール
    • 3.カーテンコール
    • 4.Happy Birthday
    • 5.奥歯を噛みしめろ
    • 6.扉
    • 7.ill
    • 8.二人の唄
    • 9.MY GENERATION
    • 10.One
    • 11.Cradle
『GENERATION』('98)/Valentine D.C.

OKMusic編集部

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