【独断による偏愛名作Vol.3】
『麝〜ジャコウ〜香』は、
ビジュアル系百花繚乱の時代を彩った
Laputaの最高傑作
akiが創造した世界観と独特の歌声
《口の中に含む罪を転がした/後ろめたい味に飽きた/ヘテロドックス》《故意に閉じた幕で気付く 卑しさを/月の光 遠い記憶 乳母の子守歌》《君の微笑み/それは安らぎの繭の下で/あたためて 僕のユートピア》《せせらぐ赤い血のワイン/僕は飲み干すから/君を切り刻むことを/薔薇の花と共に繭の下で…》(M3「ロゼ」)。
《溶けて消えた甘い蜜は 禁断の扉を叩く/垣間見た絶望は夢また夢…/溶ろけそうな甘いキスは 禁断の扉を開き/照らされた欲望をさらけだした》《透きとおる肉体から光がもれて/汚れ無き妖精もかすんで見える/心なしか冷たい意識の中で/むせかえる罪と罰 叶えてあげる》(M4「揺れながら…」)。
《朽ち果てたエデンの空 徘徊しよう/壊したい 壊せない この時間を Ah》《逆説を唱える花 栽培しよう/上がれない 下がれない/この墓場で さあ》《裂かれて今 二つに分かれた/僕が二つに裂かれてしまった》《白い僕と黒い僕がいる/支配してるのは神様の気まぐれ》(M5「裂かれて二枚」)。
《浅い眠り続いていた たどり着きたい あなたのそばまで/花弁撒き散らして その答えを捜してたどり着こう》《あなたは迷い 仮面をまとう 時間の加速についていけない/季節は流れ 仮面は消える 愛し合えない 全て…》《彼方に聞こえた あなたへのメロディー/口ずさんで ほら そこで今/溢れる想いは遠く 遥か遠く》(M7「ミートアゲイン」)。
《破滅思考の男の子は/絶望の石を積み上げる/奇跡を起こす》《快楽主義の男の子は/崖の縁でマイムを踊る》《波岸此岸を彷徨う夢/付いて廻れば ここは涅槃/奇跡とは何?》《寝乱れ髪を掻きむしれば/歓楽すべき ここは涅槃》(M10「クラッシュボウイ」)。
罪。ヘテロドックス。故意に閉じた幕。安らぎの繭。甘い蜜。禁断の扉。垣間見た絶望。照らされた欲望。汚れ無き妖精。朽ち果てたエデンの空。逆説を唱える花。墓場。白い僕と黒い僕。神様の気まぐれ。浅い眠り。迷い。仮面。破滅思考。絶望の石。波岸此岸。彷徨う夢。涅槃──。このワードセンスは、まごうことなく、いわゆるビジュアル系と言われる界隈にしかなかったものだろう。Laputaの先達にも後輩にも、こうした歌詞を使っていたバンドはいただろうが、これほどに多用していたのはakiだけではなかっただろうか。いや、正確に勘定したわけではないので、はっきりと断言はできないけれども、彼の世界観は相当に統一されていたことは間違いない。そこは注目すべきポイントだろう。
こうした世界観は彼のヴォ」ーカリゼーションとも相性が良かったように思うのは筆者だけではあるまい。この界隈のヴォーカリストは、腹とは言わず、喉とは言わず、鼻腔と言わず、あらゆる声の出る部位を駆使して歌うようなところがある。それもいわゆるビジュアル系らしさのひとつだと思うのだが、akiもまたそのタイプに分類出来る。繊細でもあり、力強くもあり、慈愛に満ちたようでも、悲哀を感じさせるようでも、エキセントリックなようでもある。ひと口には語れないヴォイスパフォーマンス。歌は歌でも、大袈裟に言えば、声を使ったオリジナルの楽器で主旋律を奏でているようなイメージで、それは独自の世界観を構築するには必然だったように思うし、Laputaの楽曲をより濃く、奥深いものにしていたのは間違いない。その意味でもakiは唯一無二、不世出のアーティストであったと言っていいだろう。
TEXT:帆苅智之