さらに、
くるりのすごさは、『Philharmonic or die』のDisc2にもあるように思う。前述の通りDisc2はオーケストラとのコンサートであったDisc1の5、6日前のライヴハウス公演を収録している。5、6日前である。Stefan Schruppを指揮者に迎え、Ambassade Orchester Wienとともにやるコンサートは、今となっても、傍目にも特別な公演であったことがうかがえる。その直前に地元のライヴハウスで演奏するということ自体が、何ともロックバンドらしいではないか。アントニオ猪木の“いつ何時、誰の挑戦でも受ける!”じゃないけれど、勝手にロックミュージシャンのプライドを感じるのである。それは筆者の妄想としても、Disc2にはその妄想を後押しする楽曲が収録されている。D2-M10「アナーキー・イン・ザ・ムジーク」がそれである。そもそもこの楽曲は『ワルツを踊れ~』版からして、バンドアンサンブル中心というか、素人にもストリングスがなくても充分楽曲が成立すると思わせるナンバーである。『ワルツを踊れ~』収録楽曲の中で最もエッジーでもあるし、翻って考えると、これを『ワルツを踊れ~』に入れたことにもロックバンドらしさを感じるところでもある。『Philharmonic or die』ではDisc2だけでなく、ご丁寧にDisc1にも同曲を入れている。のちに発売された映像作品『横濱ウィンナー』には『Philharmonic or die』未収録の楽曲も収められており、他にも収録候補曲があったと思うと、(これも素人考えだが)Disc1にどうしても「アナーキー~」を入れなくてはならなかった…ということもなかったのではないかと考えるし、何か意図があったと想像させる。思わず、深読みすらしてしまう。
《全然 場違いで結構/調子はずれのリズムで結構/そこが案外ツボだったりして/クロマチックで這い上がってゆく》《全然 間違いで結構/ハイやロウをしらみつぶしにして/揺れ動く 心の隙間ちょっと覗いてみて 誰がなんと言う/全然 間違いで結構 五線譜の隙間のお玉杓子/シャープも フラットも ナチュラルも/ホールトーンで這い上がってゆけ》(「アナーキー・イン・ザ・ムジーク」)。
「アナーキー~」はこんな歌詞だ。クラシックを超越した音楽の快楽を表現しているようでもあるし、それはロックすらも超えているのかもしれない。音楽の本質、引いては“表現とは何か?”と訴えているようでもある。この辺からも、くるりというバンドの感覚がうかがえる。