SAの驚異的潜在能力が
そのまま再現された
『YOU MUST STAND UP
MY COMRADES』

すでに光沢を放っていた原石たち

ザっとソノシート「I GET POSITION」を振り返った。要約すれば、楽曲の構成も、バンドアンサンブルもちゃんとしていて、ポップなのである。そこで思い出していただきたい。これらが作られたのは、TAISEIが高校2年生の時なのだ。演奏の粗さは否めない。ピッチが合ってないというか、明らかに演奏ミスっぽい箇所もある。完成度という点ではまだまだ…と言っていい代物であろう。しかしながら、若干17歳の少年たちが作ったものである。完成度うんぬんは関係ない。大事なのはポテンシャルである。その観点で言えば、この5曲は全て磨けば光る原石であることが今聴いてもはっきりする。いや、磨かくまでもなく、光沢を放っている箇所も多々ある。インデペンデントレーベルから声を掛けられたのはSAの2度目のライヴのあとだったということだが、音楽制作の現場の人にはさぞかし眩く見えたことだろう。とりわけ“CLUB THE STAR RECORDS”という老舗パンクレーベルの人であれば、そのセンサーが強く働いて当然である。筆者が「I GET POSITION」を極めて重要な作品としたのはそこで、同作はTAISEI、引いてはSAのポテンシャルが、彼が高校生だった時の瑞々しさを含めて、しっかりとパッケージされている。そこが素晴らしい。しかも、この『YOU MUST~』では、ご丁寧なことに、M8の前にM7「DO YOU REMEMBER '85」というSE的なショートトラックを入れることで、「I GET POSITION」を回顧的にとらえているのも面白い。過去をはっきり過去とした、正しき“レコード=記録”とすることで、SAの潜在能力の高さを鼓舞しているかのようでもある。

「I GET POSITION」以外の『YOU MUST~』収録曲は、1985年頃に存在していたものをゲストメンバーを迎えて録音したものであるということは、バンド結成から15年後に“磨けば光る原石”を磨いたものと言うことができる。最初のライヴで演奏され、のちにAAレコードから発売されたオムニバス盤『Oi of JAPAN』(1986年)にも収録されたM1「YOUTH ON YOUR FEET」は流石のカッコ良さである。勢いはそのままにブラッシュアップに成功している。その歌詞から本作『YOU MUST~』のタイトルが付けられたM5「(GOOD BYE) SHINING FIELDS」もいい。ポップでありながら重厚感があり、熱さも感じられるところはSAならではのものだろう。M1、M5はメジャーからリリースされたベストアルバム『ハローグッドバイ』(2016年)にも収録されているので、バンド最初期の重要ナンバーであることはメンバーも認めていると思われる。

個人的に本作で最も注目したのはM13「WORKING MAN」。アルバムのフィナーレを飾るバラードである。こうしたミドル~スローなナンバーを最初期のSAでやっていたことに、まずは少し驚いた。これもまた、当時のSAがパンクだけではなく、幅広い音楽性を標榜していた証拠でもあるだろう。バラードに驚いただけでなく、その歌のメロディーラインの流麗さにも関心させられた。パンクというと歌詞も含めて直情的なものが多い印象はあって、それこそ本作でもそれが分かるが、M13は何とも叙情的なのである。

《失う物が多すぎて 諦めを何度 口にしただろう/若さゆえの過ちだけど 誰かの手なんかで 消されるな》(M13「WORKING MAN」)。

歌詞は、アグレッシブな言葉だけじゃないけれど、“労働者”というタイトルも含めてちゃんとパンクだ。ここでもSAのポテンシャルの高さと独自のセンスがうかがえる。サウンドコラージュを加味したイントロもそうだし、重めのストリングスを入れることでサイケデリックロックな匂いをさせているサウンドも興味を惹く。この辺は2000年にSAを再始動する前、TAISEIがヴォーカルを務めてメジャーで活動していたバンド、BAD MESSIAHの影響も少なからずあったと思われる。影響と言っても、BAD MESSIAHの音楽性がそのままSAに引き継がれたとかそういうことではなく、メジャー経験で培われたアレンジ面やレコーディングにおける技術など…であるが、そういったところも余すところなく注がれているのが、2000年以降のSAだろう。この辺からは大袈裟に言うと、TAISEIというアーティストの人生を綴った大河ドラマ、その1シーンを見るような想いがある。

TEXT:帆苅智之

アルバム『YOU MUST STAND UP MY COMRADES』2000年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.YOUTH ON YOUR FEET
    • 2.RAISE YOUR HANDS
    • 3.MERRY STAR
    • 4.AGAINST THE LIGHT
    • 5.(GOOD BYE) SHINING FIELDS
    • 6.LATE BLOOMER
    • 7.DO YOU REMEMBER '85
    • 8.CONFOUND IT
    • 9.ONE TWO
    • 10.SA
    • 11.ALL BOYS SAY
    • 12.I GET POSITION
    • 13.WORKING MAN
『YOU MUST STAND UP MY COMRADES』('00)/SA

OKMusic編集部

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