もんたよしのりの
パワフルな歌唱力はもちろん、
もんた&ブラザーズの
バンド力もあふれた『Act1』
歌唱力とアレンジの奥深さ
その歌を彩るサウンドもなかなか魅力的だ。まずイントロや間奏で聴こえてくるエレキギターがいい。歌以上にドラマチックなメロディーを奏でており、楽曲の世界観をふくよかにしていると言える。2番あとの間奏で速弾きも聴かせているのも興味深いし、そうかと思えば、Aメロで歌を邪魔しないフレーズをさらりと入れている。押し引きをわきまえている、いぶし銀のようなギタープレイは、この楽曲のもうひとりの主役と言って良かろう。
もうひとつ忘れてはならないのはブラスの存在である。今回聴き返す前からブラスが印象的な楽曲であることは承知していたので、そこでの変な驚きはなかったのだが、そのブラスは意外と出番が少ないことはまさに意外だった。間奏やアウトロでギターにも絡んでいるけれど、ブラス特有の派手な鳴りを潜めているというか、淡々と鳴らしている印象ではある。それでいて、ブラスの存在感はやはり相当なものであり、歌、ギターと並んで第3の主役となっているのは間違いない。当初はもっと洒落たアレンジであったらしいが、もんた本人から“古臭くしてほしい”という強固な依頼(抵抗?)があり、この形になったと聞く。もんたには、自身が高校の頃、初めて歌ったダンスホールのイメージがあったそうだ。確かに、いにしえのキャバレーのビッグバンドのようではある。自身のイメージを貫いた、もんたも偉いし、それに応えた松井忠重の編曲も見事だったということだろう。
その他、サイドギター、ベース、ドラム、パーカッションなどのバックの音は極めてシンプル。歌に入る前に若干ベースが動くくらいで、全体を通して抑制に抑制を効かせていると言ってもいいだろう。ただ、これはこれで正解だったと思われる。ギター、ブラスが印象的なこともあってか、もし仮に──例えば、ドラムのフィルが派手で…とかだったら、楽曲のバランスが崩れていたようにも思う。淡々と流れるリズムが根底にあったからこそ、歌もリードギターもブラスも躍動感を増したのではないか。縁の下の力持ちに徹する…という言い方には語弊があるかもしれないけれど、そのひたすら大人なアンサンブルに、プロフェッショナルな仕事っぷりを感じざるを得ないのである。