C-C-Bと稀代のヒットメーカーたちが
がっちり手を組んだ
『すてきなビート』は
アルバム作品の理想形かもしれない
メンバーの潜在能力もしっかりと示す
まずM2。やはり歌メロのキャッチーさは薄いものの、その分、サウンドが前に出ているように思う。シンセ強めでありつつ、ドライなギターにも存在感があって、テクノポップとニューロマの中間といった雰囲気である。全体的にはマイナー調だし、“ウッ! ハッ!”というコーラス(合いの手?)が入っている辺りから想像するに、当時、世界的に流行っていたFrankie Goes To Hollywoodの影響が少なからずあったのかもしれない。淡々としたリズムはディスコティックだし、Bメロやサビの後半はそれなりにメロディアスなので、筒美メロディーや、Coconut Boys時代とは異なるオリジナリティーが発揮されていると思う。
M5「二人のシーズン」はドンシャリ感は否めないものの、他の楽曲以上にロックバンドらしさを感じる。シンセは比較的控えめで、ギターも重い。サビメロが(個人的な見解として)チェッカーズの亜流といった感じで(あくまでも個人的には)好みではないけれど、ベースラインは明らかに「Peter Gunn」のオマージュであろうし、そこにもロックスピリッツを感じる。
M8「メモリーなんていらない」はいわゆるバラード。アートロックと言うと完全に言いすぎではあるけれど、頑張って当時の洋楽に寄せようとしていたことを想像させる。特にイントロからAメロ。個人的には1980年代半ばのBryan Ferryを想像した。頑張って渋く仕上げようとしていたところは好感が持てる。サビで転調気味に爽やかになるところは好みが分かれるところではあるだろうが、メロディー、コード進行ともに悪くはない。及第点以上ではあろう。いずれにしても、これらのメンバー作曲のナンバーからは、「Romantic~」や「スクール・ガール」だけじゃない、C-C-Bのバンドの側面が見えるし、それがアルバム『すてきなビート』のバラエティさに繋がっているのは間違いない。
このM3、M5、M8の編曲クレジットは、C-C-Bと、一連のシングルでもアレンジを手掛けた船山基紀のダブルネームとなっているが、C-C-Bの意向はかなり反映されていたのではないだろうか。「Romantic~」のイントロには以下のような有名なエピソードがある。長文だが、以下、引用させてもらう。[レコーディングに立ち会った筒美と渡辺は、フェアライトCMIのデジタル音を駆使した個性的なイントロが今一つ気に入らず、大村雅朗に新たにアレンジを依頼する案まで出たが、斬新な船山アレンジを気に入ったメンバーの意見を筒美は汲み上げ「彼らがいいと言うのだから、いいよ」と承諾した。大ヒット後、筒美から「なんでもやってみるもんだね」と言われ、船山は崩れ落ちそうになったと語っている]。ここから察するに、アルバムではメンバーの意見、アイディアを船山が汲み取ったと見るのは自然なことだろう。そう考えると、これらの楽曲、引いてはアルバム全体にも独特の躍動感、意欲が宿っているようにも感じられる『すてきなビート』である。(ここまでの[]はすべてWikipediaからの引用)。
TEXT:帆苅智之