GLAYがロックバンドであるという
当たり前の事実に
『THE FRUSTRATED』は
追い討ちをかけてくる
HISASHI、JIROの存在感
アルバム後半、M9「Billionaire Champagne Miles Away」からは、誰が聴いてもロックと認識するであろうナンバーが再びズラリと並んでいる。明るく派手なM9もさることながら、まず後半の注目はHISASHI作曲のM10「coyote, colored darkness」とM11「BUGS IN MY HEAD」だろう。GLAYのメインコンポーザーはリーダーのTAKUROだが、それ以外のメンバーも作曲を手掛けているのはGLAYのアドバンテージで、本作ではそれが実にいい具合に発揮されている。M10は歌詞の世界観も含めてファンならHISASHI節を感じるところだろうし、パンキッシュに迫るM11もJIROらしいと思うところだろう。つまり、ロックはロックでもTAKUROとは別物であるし、聴けばそれがはっきりと分かる。タイプがまったく違うのである。アルバム前半のつるべ打ちはそれでそれで問題ないのだが、M6~M9でクールダウンするにしても、後半もこれと似たようなものが続くと、さすがに聴く方も食傷気味にもなるだろう。これらに続くM12「Runaway Runaway」では、Aメロやサビの後半でGLAY節全開というか、TAKUROならではの叙情的なメロディーがあるので、もしM10、M11なかりせば、やや単調になったのかもしれないとは思う。まぁ、なかったらなかったで、曲順が変わったり、他の楽曲が入ってきたりしただろうから、完全なる余計なお世話なのだが、ここでのHISASHI、JIROの存在感は、言うまでもなく、本作において相当に重要なのである。
M13「STREET LIFE」は2nd『BEAT out!』での「軌跡の果て」や5th『HEAVY GAUGE』での「生きがい」がそうであったように、GLAYのアルバム終盤で見られる、TAKUROの人生観が色濃く出たナンバーである。《見守っていてくれた温かな人の輪の中から/もう旅立つ時なんだろう》や《想い出ひとつも残さずに明日出てゆこう》と、M4同様にゼロ地点を標榜しているようでありつつ、《僕はこの歌を歌う/いつか声が嗄れても/僕は少しだけ心を燻して そして庇いながら/様々な季節を探して この街で生きるんだ》との所信表明が力強い。本作がロックサウンド、バンドサウンドを強めに打ち出していることを思うと、TAKURO個人というよりは、GLAYを続けていくという宣言だったと見ることができるだろう。
このM13で終わらせるアイディアもあったそうで、歌詞の内容からはそれもアリかと思わせる。だが、もしそうだったらちょっと作品のトーンが重かったような気がしないでもない。前述の2nd『BEAT out!』と5th『HEAVY GAUGE』とともにラストは、各々、落ち着いた「Miki Piano」、軽やかな「Savile Row 〜サヴィル ロウ 3番地〜」で締め括っている。本作は、本作中、最もポップと言っていいダンスチューンのM14「南東風」がフィナーレを飾っている。ゲストコーラスにGLAYメンバーと同郷のYUKI、宮迫博之と山口智充によるユニット“くず”が参加しているのが何ともいい。先ほども述べた通り、『THE FRUSTRATED』はロックバンドの作品であることが強調されているし、GLAYがメンバー4人で作った作品であることは間違いないのだけれど、M14は、バンドをやることでその周りに人が集まってくることを暗に示しているような気がする。もちろん、バンドだけで完結するのも悪くはない。だが、こうした広がりがあることで、アルバム全体がさらに希望に満ちた雰囲気に包まれるように思う。《楽園よりもあなたがいるこの地上から/風を運んで世界一のI love youを》という歌詞も、より地に足が付いているように感じられる。この大団円感は、間違いなく、『THE FRUSTRATED』を秀作にしているところだろう。
TEXT:帆苅智之
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